Neetel Inside 文芸新都
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「一枚絵文章化企画」会場
「ステルスエミリー」作:顎男

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 ☆☆☆

『ステルスエミリー 作:顎男』


「エミリー、幸せかい」
「うん、幸せだよ、パパ」
 そういってエミリーは笑った。
 白衣に手を突っ込んだ父親には彼女の姿が見えない。
 夜の闇の中に、白い傘が浮かんでいることだけが、娘の存在証明だった。
 誰にも握られていない傘がゆらゆらと揺れ、くるくると回る。

 父親は科学者だった。
 人間の脳を改造し、超能力を目覚めさせることに成功したのだ。
 自らの研究に後悔はない。子どもの頃に夢見た魔法使いを作り上げることに、自分は成功したのだ。
 ただ、被検体になってくれる者が娘以外にいなかったことだけが残念でならない。
 エミリーは手のひらから炎を出した。雷を天から呼び寄せた。空を自由に飛んだ。
 彼女にできないことは一つも無かった。もし望めば、きっとこの惑星さえも粉々にすることができたろう。
 世界中の人間たちが、父親に魔法使いを作ってくれるように頼んだ。
 けれど、父親はこう答えるしかなかった。
「エミリーは特別なんです。実験は失敗だったのに、結果は成功だった。
 だから、同じ能力を持つ者を私は作れません」
 では、と一人の富豪が言った。
「そのエミリーお嬢さんを解剖してみれば、何か秘密がわかるのではないかね?」


「元気でやるんだよ。寂しくなったら」
 戻っておいで、と言えないことが、父の胸に重くのしかかる。
 賢いエミリーは、そんな父の悔恨を敏感に感じ取ったのか、
「心配しないで、パパ。エミリーは魔法使いなんだから。
 いままで、ありがとう」
 強い風が一つ吹き、父親は思わず顔を背けた。
 目を瞬いて空を見上げたが、白い傘はもうどこか遠くへ飛んでいってしまった後だった。

 ★★★

       

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