姉ちゃんはいつも自分勝手だ。おやつは僕の分まで食べるし、家のお手伝いも僕に任せて一人で遊びに行っちゃう。
今日だってそうだ。僕は家で静かに本を読んでいたかったのに、無理やり連れ出されたんだ。
何が「魔物を退治しに行きましょう!」だよ。そんなの、居る訳ないじゃないか。お父さんの剣とマントを勝手に持ちだして、知れたら大目玉だぞ。
昨日、人形劇なんか観に行かなければ良かった。
「なーにをぶつぶつ言ってんのよ。はやくはやく!」
姉ちゃんは僕に荷物を持たせ、山道を一人でどんどん先に行ってしまう。
「待ってよ姉ちゃん。もう疲れたよ……」
「情けないなあ。それでも男なの?」
「うるさいなあ。僕はインドア派なの。そんなに魔物と闘いたかったら、一人で行けばいいじゃないか」
「あんたが居なかったら誰が荷物を持つのよ。ほら、歩いて歩いて!」
「見て!あれ、魔物よ!」
声を荒げて、先を歩く姉ちゃんが言った。
「え?どこどこ?」
「あそこの上よ!さあ、走って走って!」
そう言って姉ちゃんは丘を指さす。確かに、指の先にはとてつもなく大きな何かがいた。しかも、それは動いている。
「あれは邪悪な巨人だわ。そうに違いない!」
勢いよく走り出した姉ちゃんに、僕は必死で着いて行く。
「待ってよー。あんな大きな魔物、僕らじゃ勝てないよ……」
「弱音を吐かない!昨日の人形劇を思い出しなさい!」
そうこうしているうちに、魔物との距離は縮まっていた。
「行くわよー!」
剣を抜き、姉ちゃんは魔物に跳びかかって行った。
「何よこれー!」
丘の上で、落胆する声が聞こえた。僕は遅れて丘を登り切り、その意味を知った。
邪悪な巨人と信じて斬りかかったものは、風車だったのだ。
へなへな、と姉ちゃんはその場にへたり込んだ。僕も力が抜けた。
「こんなものが、魔物に見えたのか」
「もう最悪。疲れた。立てなーい」
姉ちゃんは駄々をこね始めた。
「しょうがないなあ」
僕は姉ちゃんに手を差し伸べた。
「魔物退治は終わり。帰ろう」
「ぶー」
こうして僕らの短い冒険は終わった。後日、両親にこっぴどく叱られたのは言うまでもない。