残像劇
まとめて読む
「変わる事を願うなら、己自身を変えろ。」
そう、あの人は告げていた。
荒野と化してしまった元・十三番地区。
後に“腐壁地区”と呼ばれるようになってしまう、街の一角。
数時間前までは、人々で賑わい活気が溢れていたはずの街中。
今ではその姿の断片さえ見られず、建物で在ったのであろう瓦礫の山、所々に付着している赤い染みや焦げた肉の破片。
その景色の中の一部であり、唯一の生き残りであろう、額から血を流している少女。
荒野に佇むその少女は、ただ空を仰ぐように、その場に立っていた。
立っている感覚さえ無く、自分が涙を流していることにも気付かず、曇り空だけを見ていた。
街中に響く警報音、遠くから聞こえる誰かの声。
視界は黒い煙に覆われ、少女には空など見えていなかった。
やがて、頬を伝う涙とは別の雫が落ちる。
それは少女だけでなく、街全体を濡らしていく。
聞こえて来るのは雨の音だけ。
警報音も、人の声も、何処かで何かが崩れる音さえも、雨は呑み込んでいく。
少女には、自分の泣き叫ぶ声さえも、聞こえてはいなかった……。