僕が人を殺した日
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朝だ。
清々しい、心から気持ちの良い、今まで迎えたことがないくらい素晴らしい朝だ。
こんな爽やかな日に、カーテンの隙間から零れる朝日を浴びた僕は、無性に、人を殺したくなった。
目を覚まして間もないのに、なぜか今朝は不思議なほど頭がすっきりしている。
いつものように部屋を出て階段を下り、洗面所に行って顔を洗う。
途中、リビングの方から父さんと母さんの言い争う声が聞こえた気がしたが、まあ、それもいつものことだ。
・・・皿の割れる音だ。どうやら、今日はいつもより派手みたいだ。
歯を磨き、もう一度部屋に戻ってシャツを着替えてから、リビングに入った。
パックに入ったオレンジジュースとパンを一かけら。
それにテーブルの上に転がっていた、真っ赤に熟れたリンゴに果物ナイフをつき刺して持って出た。
未だ大声で怒鳴りあう両親は、終始僕に気付かなかった。
清々しい、心から気持ちの良い、今まで迎えたことがないくらい素晴らしい朝だ。
こんな爽やかな日に、カーテンの隙間から零れる朝日を浴びた僕は、無性に、人を殺したくなった。
目を覚まして間もないのに、なぜか今朝は不思議なほど頭がすっきりしている。
いつものように部屋を出て階段を下り、洗面所に行って顔を洗う。
途中、リビングの方から父さんと母さんの言い争う声が聞こえた気がしたが、まあ、それもいつものことだ。
・・・皿の割れる音だ。どうやら、今日はいつもより派手みたいだ。
歯を磨き、もう一度部屋に戻ってシャツを着替えてから、リビングに入った。
パックに入ったオレンジジュースとパンを一かけら。
それにテーブルの上に転がっていた、真っ赤に熟れたリンゴに果物ナイフをつき刺して持って出た。
未だ大声で怒鳴りあう両親は、終始僕に気付かなかった。
家を出る。
角を曲がって薄暗い路地裏に入り、そのまま地べたに座って食事を取る。
太陽の光は入らないが、耳障りな雑音も聞こえなくて嬉しい。
パンをかじっていると、路地の向こうから猫がやってきた。
黒い毛がところどころ禿げ落ちている、みすぼらしく痩せた野良猫だ。
パンが目当てなのか、その細い足で、恐る恐る近づいてきた。
試しに刺してみようか一瞬迷ったが、不憫なのでやめた。放っておいても、そのうち勝手にのたれ死ぬだろう。
食べかけのパンの塊を足元に捨て、路地裏を出た。ナイフはベルトの裏にでも隠しておこう。
何を考えるでもなく、僕はふらりと駅の方へ歩いていた。
無意識のうちに、人の多そうな場所でも選んでいたのだろうか。
駅前のベンチに座り、暫く、辺りを歩く人間を観察することにした。
サラリーマンだ。どいつもこいつも同じような顔に、似たようなスーツを着て、せかせかと歩いている。
一人や二人いなくなったところで、誰も気付かないんじゃないかと少し本気で思った。
ホームレスもいる。我が物顔でベンチに寝転がっている者、駅の隅で座り込んだまま置物のように動かない者。
みな一様にうつろな目をしていて、その顔には生気がなかった。
生きているか死んでいるかの判別もつかない連中だ。そんな不確定な生死を奪うことには、何の意味もないだろう。
まあ、別に何か意味を求めて、何らかの意義があって人を殺したいわけでもないが。
もっと衝動的なものだ。とにかく誰か殺したい。朝目覚めた時から、そんな衝動が胸をたぎって消えない。
角を曲がって薄暗い路地裏に入り、そのまま地べたに座って食事を取る。
太陽の光は入らないが、耳障りな雑音も聞こえなくて嬉しい。
パンをかじっていると、路地の向こうから猫がやってきた。
黒い毛がところどころ禿げ落ちている、みすぼらしく痩せた野良猫だ。
パンが目当てなのか、その細い足で、恐る恐る近づいてきた。
試しに刺してみようか一瞬迷ったが、不憫なのでやめた。放っておいても、そのうち勝手にのたれ死ぬだろう。
食べかけのパンの塊を足元に捨て、路地裏を出た。ナイフはベルトの裏にでも隠しておこう。
何を考えるでもなく、僕はふらりと駅の方へ歩いていた。
無意識のうちに、人の多そうな場所でも選んでいたのだろうか。
駅前のベンチに座り、暫く、辺りを歩く人間を観察することにした。
サラリーマンだ。どいつもこいつも同じような顔に、似たようなスーツを着て、せかせかと歩いている。
一人や二人いなくなったところで、誰も気付かないんじゃないかと少し本気で思った。
ホームレスもいる。我が物顔でベンチに寝転がっている者、駅の隅で座り込んだまま置物のように動かない者。
みな一様にうつろな目をしていて、その顔には生気がなかった。
生きているか死んでいるかの判別もつかない連中だ。そんな不確定な生死を奪うことには、何の意味もないだろう。
まあ、別に何か意味を求めて、何らかの意義があって人を殺したいわけでもないが。
もっと衝動的なものだ。とにかく誰か殺したい。朝目覚めた時から、そんな衝動が胸をたぎって消えない。
高まる感情を抑え、僕は少し思案に暮れることにした。
そもそもだ。こんなに人がいては、だれを殺していいのか分からない。
誰を殺せばいいのか。死ぬべき人間は誰か。
数多くの人間がこの道を、それこそ、掃いて捨てるほどの数が歩いている。
堅苦しいスーツのサラリーマン、気だるそうに歩くOL、頭の悪そうな女子高生、意味もなくそこかしこに群れる不良たち、暇そうな年寄り、迷子になって泣き喚く子供。
それらのうちの誰もが、ひどくくだらないものに見える。
くだらない。
くだらない。
くだらない。
くだらない。
くだらない。
くだらない。
くだらない。
くだらない。
・・なんだ、くだらないじゃないか。意味が、ないじゃないか。
なんだか笑えてきた。そうだ、こんなくだらない人間たちを殺したって、僕はなんの満足感も得られないじゃないか。
ゼロはゼロのまま、僕にとってなんの変化ももたらさないんだ。
そう思うと、何だか愉快な気持ちになった。ここにいる、今この目に映っている連中に対し、すごく高いところから見下しているような、そんな気分になった。
僕は立ち上がり、大声で笑った。
ケラケラと高笑いをあげながら、その場を後にした。