ざ……ざ……
目を覚ますと、何もわからなかった。
(ここは…?)
体が動かせず、五感もほとんど働かないが、どうやらここは海の様だ。
頭の中が霞がかって、何も考えられず、何も受け止められない。
何もわからないのに、疑問さえも流れ星の様に通り過ぎるだけだ。
(僕…)
視界が暗い。
夜だろうか。
(僕は…)
今の状況、自分に関する事、記憶の全てが頭の底に沈んでいるように浮かんでこない。
気を抜くとすぐに思考が途切れてしまう。
いつの間にか視界が明るくなっていた。
(…どう、しよう)
体を動かす事もできず、名前すら思い出せず、彼はぼんやりと座り込んでいた。
寒さも暖かさも感じ無い。
感覚も感情も、心の表面を撫でて過ぎていく。
まるでずっと寝ぼけているような感じだ。
(ああ…)
また暗くなった視界の中、彼は思った。
(僕は…)
ざ……ざ……
(僕は、死んだんだ)
ただ潮騒だけが鼓膜を震わせていた。