「確かに私は正直者には褒美を与えると言いました。言いましたがね。斧をダンプカーに山積みにして泉に土砂の如くブチ込む事は無いんじゃないでしょうか。
泉の水かさが溢れて辺り一面水浸しですよ。何百本も斧を持ち上げりゃ私の上腕筋もボロボロになりますよ。わかってますかそこんとこ」
「はい」
「ごめんなさい」
説教である。
泉の女神は欲望に正直すぎる木こり二人をぬかるみに正座させ、先ほどキレて寸勁をぶち込み横転させたダンプのタイヤに座り煙草を吸いながら二人を罵っていた。
「まあ楽して金が手に入るから何度も通うのはまだわかりますよ。褒められたことじゃないですけど。でもね、あんたらこれで商売する気満々じゃないですか。
金の斧を売りさばいた金で普通の斧いっぱい買ってきて金の斧に変えて売りさばいてトラック買って更に効率化って、ゲームの裏技感覚か? あ? ご丁寧に泉の周りに柵作って私物化しやがってよ。何様のつもりだ? お??」
「はい」
「ごめんなさい」
恫喝に近い。
口調がだんだんカタギから離れていってる女神の前で二人はただ謝ることしかできなかった。
「そんなわけだから帰れ。ほら、金の斧十本だ。これ以上はやらん。次斧投げ込んだらてめぇらの脳天に金の斧をありったけ降らせてやるからな。逃げ場はないぞ。死ぬぞ」
「はい」
「ありがとうございます。あ」
木こりBは長ったらしい説教の後で金の斧を5本(半分)渡されたものだから手を滑らせて泉にドバババっと斧を流し込んでしまった。
今回は故意ではない。が、女神の顔は殺戮者のそれであった。
「……いい度胸です。いい度胸ですよ人間。あれだけ言った後にまだ斧を泉に落とす気概があるとは。欲望に正直者すぎて命すら泉に落とす……感服の域です。お死になさい」
「待ってください待ってください!」
「わざとじゃないです今のわざとじゃない! 金の斧もういりませんから! 普通の斧もいりませんから!」
なんか詠唱を始め出し手を発光させてフォンフォンフォンみたいな効果音を奏でる女神に必死で命乞いする木こり達。
ちょっと技を披露したかった女神は舌打ちし、どうにか怒りを収めて泉の中に手を突っ込んで斧を探る。
「ったく、手間取らせんな……。……?」
と、斧を掴んだ女神の眉間に皺が寄った。
明らかに、「え、なにこれ知らないよこれ私」みたいな顔である。
ポーズを変えずに頭上にクエスチョンマークを並べ続ける女神に、木こりたちが(とっとと帰ろうかとも思ったが)声をかけた。
「あ、あの……」
「どうかしました……?」
「ん……いや……え……?」
曖昧に返事をする女神。
何に対して疑問を浮かべているのか木こり達にはわからず、なんとも気まずい雰囲気が流れる。
「これ、やっぱおかしいよね……何本か落としたからか、引っかかって……んっ」
水の中にもう片方の手を突っ込み、何やら引っかかっているらしい斧を退けている。
そして、おっ取れた取れたと言いながら女神は掴んだそれを思いっきり持ち上げた。
それの姿が、明らかになる。
「……なにこれ」
「えっ……?」
「あれ、えっ……??」
三人が驚くのも無理はなかった。
女神が右手に持っていたもの。
それは、明らかに作業用ではない両刃の大斧、バトルアックスであった。
「……今さっき泉に入れたの金の斧だったよね?」
「だったと思いますけど」
「ですね」
「なんでバトルアックスが出てくるの?」
「さぁ……?」
「何ででしょう……?」
不可解な出来事に困惑する三者。
とりあえずバトルアックス(大人の男でも振り回すのは難しそうだが女神は片手で軽々と扱っている)を岸に置き、残りの金の斧を調べる。
結果はこうだった。
・バトルアックス
・バトルアックス
・ハルバード
・ハチェット
・バトルアックス
・ハチェット
・鉞
・チェーンソー
・バトルアックス
・ダイヤモンドの斧
「……」
「……」
「……」
三人は並んだ斧を見比べて、同じ結論にたどり着いた。
「レア度……?」
「っぽい感じですね……」
「ダイヤとかモロワンランク上がってる感ありますよね……え、女神様これなんかわからないんですか?」
「知らない知らない。物落とす人間なんてそれこそ普通の斧ぐらいだもん落とすの。金の斧を落とす奴なんて見たことなかったし」
泉の主にも関わらず仕組みを全く知らない女神はへーそんなんなってんだここと言いながら無造作にバトルアックスを一本泉に放り投げた。
そして拾い上げる。
・プラチナの斧
「なるほど」
「レア度4ですかねこれ」
「バトルアックスもう一本入れましょうよ」
「よしきた」
すっかりノリノリの女神はバトルアックスをもう一本泉に放る。
・雷神の斧
「おお」
「強そう」
「ってか今更ですけどチェーンソー斧じゃないですよね」
「それな」
チェーンソーを投げる。
・ミストルテイン
「あれ!?」
「槍になっちゃった!」
「あれじゃない、神殺しルート的な」
「そっち? そっち行っちゃうの?」
面白がった女神達はどんどん武器を泉に投げては拾い投げては拾いを繰り返した。
結果がこれである。
・ミョルニル+
・ダーインスレイヴ+
・ビーム・トマホーク+
・アトミックアクス+
・方天画戟+
・シンゴウアックス+
・ロンギヌス+
・小野妹子+
・Cort GS Guitar AXE-2 Black+
・ゲッタートマホーク+
「……」
「……」
「……」
(やべーもんが揃ってしまった……)
「どうしましょうこれ……」
木こりAが『これ』を指差して女神に尋ねる。
ラグナロクでも起こす気かと疑われるような超兵器の山である。
小野妹子単体でも国一つが滅びかねない。
「どうしようか……」
「どうしましょうねぇ……」
一同は調子に乗ったことを後悔した。
好奇心に正直になった末に、どこにも廃棄できないようなオーバードウェポンが残ってしまった。
これには女神も反省顔である。
「なんか無いんですか女神様、これら引き取って貰えそうなところ……」
「無いですよそんな所……ゲッタートマホークとビーム・トマホークなんて原寸大じゃないですか……粗大ゴミってレベルじゃねーですよこれ……」
(女神様は泉から軽々引きずりだしたけど……)
「あ、いいこと思いついた」
「おっ、どこかあてがあったんですか?」
「テロ組織に売るとかは無しですよ」
「ちゃうちゃう。あ違った違います違います。もう宇宙に放逐しちゃえばいいじゃんって」
「なるほど、流石女神様。頭がいい」
「その手があったかー」
(オチを)考えるのが面倒になってきた木こり達は女神が超兵器を大気圏外にぶん投げるのを見てからダンプに乗って帰った。
そして夜空には、ミョルニル座とダーインスレイヴ座とビーム・トマホーク座とアトミックアクス座と方天画戟座とシンゴウアックス座とロンギヌス座と小野妹子座とCort GS Guitar AXE-2 Black座とゲッタートマホーク座が輝くようになったとさ。
めでたしめでたし。