Neetel Inside ニートノベル
表紙

はまたん(電子書籍版)
俺の妹はおっぱいがでかい

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 世界を侵食していく、暴力的なまでの肉の波。
 人を、家を、大地を、全てを飲み込んでそれは膨張する。
 それの体積が増えるのに比例して、被害も爆発的に増えていく。
 全てを飲み込むその禍々しい渦は、もはや一つの災害だった。
 自衛隊の対応は、迅速ではあった。だが、手遅れであった。
 一つの県を飲み込み、地図を乗り換えている最中のそれにとっては、
 もはや陸上自衛隊一個師団による一斉放火すら、蚊が刺したようなものだった。
 「なんで……なんでこんな事になったんだ……」
 いち早く危機を察知し新幹線で逃げ出した俺。だが、窓からはあの肉塊が今もなお膨らんでいるのが見える。
 どこに逃げても同じ。
 あのおぞましい肉の奔流は日本を、地球を、いや、いずれ宇宙すら飲み込んでしまうだろう。
 ――全ては、俺のせいだ。
 俺が――


 



 バターン!
 「藍子ァ!! おっぱい揉ませろやッ!!!」
 「うをぉぉ!? びっくりした……お、おにいいきなり何を言い出すの!?」
 「うるせえッ! 今俺はクラスのアイドル並木に三日三晩考えたとっておきの告白したものの普通に断られたあげく噂がクラス中に広まり笑い者になった上に真中惨敗とかいちご0%とか呼ばれて傷ついた俺のハートは翼の折れたエンジェルなんだよ!! 俺を慰めろ!!! 胸でだッ!!!」
 「だ、駄目だよ兄妹同士でそんな事!」
 「馬鹿野郎ーーーッ!!! 今泣いているのは俺のちんこじゃねえッ!! 心だ!!! 俺を動かしているのは性欲じゃなく飢餓!! 欲しているのは肉じゃなく愛ッ!! 安らぎをッ! 癒しをッ!! 潤いをッ!!! 求めてるんだよ……お前になァ!!!!」
 「それじゃあお母さんでもいいじゃない!!」
 「お前おかんにおっぱい揉ませて甘えさせろって言う俺とそれを聞いてさめざめと泣きながら胸を出すおかんの姿見たい?」
 「……絶対に見たくない……」
 「残業で疲れてるおとんにおっぱい揉ませて下さいって土下座する俺とどこで育て方を間違えたんだろうな……って哀愁漂わせながらも上着を脱ぐおとんの姿見たい?」
 「…………死んでも見たくない…………」
 「じゃああああああぁぁぁぁお前しかいねェよなああああああああぁぁぁぁぁぁん!?」
 「ま、待ってよ! 幼馴染のくみちゃんとかおにいの事好きじゃない! 顔もかわいいし!」
 「拓海は男だよ馬鹿野郎ッ!!!!」
 「私はちょっと見たいけど」
 「ゴチャゴチャ言ってねーで服を脱ぎやがれぇぇぇ!!!!! 『神力開放』《オープンセット》ァ!!!」
 「ぬわぁ、カーディガンが!」
 「『深淵――即ち無限』《リンクザブラック》ッ!!!」
 「ワイシャツ……っ!」
 「『無明にて盲にあらず』《ヒア・イットイズオール》!!!!」
 「中シャツまで……! ちょ、ちょっとそれ以上は……!」
 
 「『そこにいた自分自身』《インフィニット・ワン》……ッ!」
 「ブラジャーを掴んで何かっこつけてるの……!! 返してよぉ……」

 「――――『君に感謝を』《カーテンコール》」
 「スカートは関係ないでしょ! おにいの馬鹿ッ!! シスコン!!!」
 「そこはまあ流れだ。そんな事よりおっぱいだ!! ダイブザおっぱい! おっぱいイズマイン!!!!!!」
 「うぎゃゃあああああああああ!!!! 犯されるーーーーー!!!!!誰かーーーーーー!!!!! 誰かーーーーーポリスを……っ?」
  
 「……忘れていた……俺はおっぱいを求めるばかりに、当たり前の事を失念していた……」
 「…………おにい? なんで泣いて……」





 「俺の妹に……おっぱいは存在しない……ッ!!!!!」
 
 「なッ……!」
 「妹の良心を利用し……半ばわいせつ罪のような真似をしてまで……俺が掴みたかったものが……これかよ……!」
 ぺたんこぺたんこ。
 「良心を利用されてもないし半ばじゃなくて完全にわいせつ罪だよ……ッ!!!!! 人の胸を好き勝手弄った挙句それか……!?」
 「無いものは弄くれないし……」
 「あるよ!! ここに存在してるよ!!! 柔らかく母性溢れる私のおっぱいが!!!! B74の慎ましくも儚げで上品であり一つの芸術に例えられる美しき私のおっぱいは!!!! 確かにここに存在してるよ!!!! now here!!!!」
 「一般的にAAAサイズの胸ってのは存在しないものと同義に見なされてるよ。no where.」
 「かぁオ!!」
 「グゴポッ……の、のどをッ……」
 「いいでしょう!! いいでしょうとも!!! 私はその言葉を宣戦布告と受け取ったッ!!! 活目しやがれ糞おにい!!! なってやろうじゃねェか巨乳によォ!!!!!」
 「ハァ、ハァ……馬鹿を言うな。無から有は生まれない。禁忌にでも触れん限りな……」
 「ならばこれを禁忌と呼ぶのだろう――」
 「小瓶? なんだこれは……」



 「あまりのうさん臭さにある種の感動すら覚えた謎のおばあちゃんが10万8000円で売っていた薬――
 


 ――『オッパイデッカクナール』」

 「お前馬鹿なんじゃないの?」
 「私だって疑ったよ! でもおばあちゃんは確かに言ったんだよ!! 『本物かどうかはお買い上げになった方のみが解るのでございます』って!!!」
 「それ八割方バッドエンドになるパターンだよな」
 「衝動に任せて買ってしまったものの非常に後悔してたらおにいが煽ってくれちゃってさァ……!!! 私がボインになったら一生おもちゃにしてやるぜェ……グへへへへ」
 「はいはいなったらな。あとそのゲス顔はお兄ちゃんどうかと思う」
 「一粒ッ!」
 ごくん。

 「……」
 「……」
 「おにいメジャー」
 「はいちょっと失礼すんよ。えっとね、……76」
 「2cmアップ!」
 「微っぱいですね」
 「二粒ッ!!」
 「どれどれ……78」
 「4cmアップ!!」
 「並っぱいですね」
 「一粒で2cm刻みか……しゃらくせぇッ!!!」
 ガゴゴゴゴゴゴ。
 「お、おい馬鹿、薬は用法用量を守って正しく使わないとってこの瓶にも…………!!!??」
 「ふ、ははははは! 見なよおにい! 私のおっぱいがみるみる大きく膨らんでいく!! 賭けは私の勝ちだな! まずはくみちゃんのそそり立つジョイスティックをおにいのウメハラにレッツゴージャスティーン……あ、あれ……どこまで……ちょ……」







 


 ――俺があの時止めていれば、こんなAKIRAじみたことにはならなかった。
 おっぱいと言う名の肌色の暴力は、未だ留まることを知らずに拡大を続けている。
 手の中の瓶の注意書きを眺める。
 『一度に一粒で2cm、二粒で4cm大きくなります。以後、16、256、65536...と増えていきます。用法用量にお気をつけ下さい。』
 藍子は一体何粒飲んだだろうか。少なく見積もっても50は飲んだな。
 ……想像するだけで恐ろしい。スパコンを稼動させるレベルの膨張率だ。バイバインよりひどいんじゃないかこれ。
 未だかつてチョモランマを超えるおっぱいが誕生するとは誰も想像し得なかっただろう。
 Pixivで超乳って検索してもそうそうお目にかかれないサイズだ。
 やがてあの乳は膨張の果てにビッグバンを引き起こし、今ある宇宙を押しのけて新しい宇宙へと成り代わることだろう。
 そして、全てを滅ぼした中心にいる藍子は何を思うだろうか。
 全生命体が圧死した後に一人残された、哀れな、我が、妹は――
 



 『おかえ……どうした藍子!? 何で泣いてるんだ!?』
 『ぐすっ……おにい……私、クラスの男子に、男みたいだって……』
 『どこの誰だそんな事言ったクズ野郎はァ!? 住所教えろ! お兄ちゃんがぶん殴ってやる!!!(ガラガラ)拓海ーッ!! いるかーーっ! いるなーーーーっ!! カチコミ行くぞーーーッ!!』



 『おにい……胸って揉んだら大きくなるってほんと?』
 『どうだろうな。拓海は自分の毎日揉んでるらしいぞ。効果は見えんが』
 『わ、私の胸……揉んでみたかったりしない?』
 『いいです。むしろ大きくなってから揉みたい』
 『……ばーか。成長しても揉ませてあーげない』
 



 「――戻らないと」
 何を逃げているんだ俺は。
 何から逃げているんだ俺は。
 例え胸圧で潰され、乳の染みとなろうとも――
 例え万人に、世界に仇なす兄妹と罵られようとも――

 ――たった一人の妹の近くにいてやらないで、どうするんだよ……ッ!
 
 
 だが。
 俺が決意を抱いた次の瞬間に――


 『……繰り返します。本日午後三時、原因不明の生体災害に対して核による攻撃を開始することが政府より発表されました。既に被害は甚大であるとし……』
 

 ――遠い遠い空の向こうが、朱に染まった。

 
 「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」



 














 


































 ○


































 「藍子ーおっぱい揉ませろー」
 「どん引きだよお兄ちゃん」
 いつもの日常。変わらない、俺達の日々。
 「いいだろー。助けると思って。お小遣いも出すぞ」
 「お金を取ったら本格的にポリス沙汰になりそうだからいいです」
 俺の妹は偉そうだけど優しくて、ちょっぴりバカで。
 「お願いします……今ちょっとマジで凹んでて……本当に泣きそうなんだよ……なんでか知らないけど悲しいんだ」
 「はぁ……ちょっとだけだよ。ちんこ出しちゃだめだよ。ほーれ妹の巨乳を堪能しなさい。あとアイス買ってきなさい。絶対ちんこ出しちゃだめだよ」
 「出さねーよ! 俺は変態か!!」
 「変態だよ」
 アイスが大好きで、腰まで伸ばした髪からは兄を誘惑せんと良い匂いを出していて。
 「ありがたや……ありがたや……おお……おっぱいじゃ……慈しみ溢れるおっぱいじゃ……」
 「ナチュラルに服の中に手を入れるな。全く、お兄ちゃんは私がいないと駄目なんだから……」
 おまけに俺好みのでかいおっぱいをしていて――
 「……お兄ちゃん、か」
 「? どうかした?」
 「いや、ごめんな藍子。おっぱいまで揉んでおいてなんだが……お前は、俺の妹とは……別人だ」
 「それってどういう……」
 
 目の奥が熱くなったのは、巨乳に癒されたせいではないのだろう。




 「俺の妹は、おっぱいが小さいんだ」




























 ○

       

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