第11章 伝説の拳法
「どうした、防戦一方じゃねえか。その大剣は飾りかあ?」
男はロイドを挑発しながら殴りや蹴りを繰り出す。この男の体術は並みの腕ではなく、素早い動きで攻撃を仕掛けてくる。
「おい、話を聞け!!」
ロイドは説得を試みたが、全く男の耳には聞こえていないようだ。
「この手の熱血バカは口で言っても無駄か・・・・。」
ロイドはそう考え、大剣を男に向かって振り下ろした。
「おっと、やっとやる気になったようだな。そうじゃねえと面白くないぜ。」
男は素早く後ろに下がり、ロイドの一撃をかわすと、再び構えを取った。
「いいだろう、相手をしてやる。だが、一撃でも食らえばお前の命はないぞ。」
ロイドはそう言って、剣を構えた。
一方、ワトソンたちは・・・・
「そこか!!」
ワトソンの拳銃が再び火を噴いた。しかし、弾丸が命中する前に姉妹は再び姿を消した。
「お前のへたくそな銃なんて当たらねえよ!!」
虚空に妹の罵声が響いた。
「ワトソン、そこよ!!」
ユリアが指差すと、駅の屋根の上に今度は姉が現れた。
「邪魔だから少しおとなしくしてもらうわ。ポイゾナスフォグ!!」
すると、ワトソンたちの周りに緑色の霧が発生した。
「これは、毒霧を発生させる古代の呪術!! あの女は古代魔術士(ソーサラー)だったのね。」
ユリアが叫んだ!!
「毒霧ですって!! 皆さん、吸い込んじゃだめですわ!!」
ジョアンの指示で三人は息を止めた。
「くそ、これでは周りが見えない。下手に動くと体力を消耗し息が持たなくなる。どうすればいいんだ!!」
ワトソンは焦っていた。
「さて、いつまで持つかしらね。私たちは高見の見物と行きましょうか。」
姉妹は嘲笑った。
「苦しいですわ・・・。」
ふと見ると、ジョアンは顔を真っ赤にしていた。
「もう無理。あたしこれ以上息が続かない!!」
ユリアはついに毒霧を吸ってしまった。
「う・・・。意識が遠のいていく・・・。」
ユリアは毒に犯され、倒れた。
「私も限界ですわ。しかし、治癒魔法が使える私まで倒れたら終わりですわ・・・。」
ジョアンは必死に息苦しさに耐えた。
「一か八か、こいつを使ってみるしかない!!」
ワトソンは酸欠で薄れ行く意識の中で、ドレッドノートを取り出し、そこに炸裂弾を込めた。
「消し去れ、グレネードブレット!!」
発射された炸裂弾は数m飛んだ後に爆発し、爆風は見事に毒霧を消し去った。
「やった・・・。うまく・・・いった。」
ワトソンは息を切らしながら言った。
「私の呪術を破るとは、なかなかやるわね。今日はこの辺にしておいてあげるわ。」
そう言って、姉妹は青いひずみの中に消えた。
「ふう、苦しかった・・・・ですわ。ユリアの・・・解毒を・・・しないと。」
ジョアンは息を切らしながら、ユリアのほうに歩いていった。
「キュア!!」
魔法を放つとユリアの体は光につつまれた。
「う~ん。私毒霧を吸っちゃって・・・。あ、あの姉妹は?」
ユリアは意識を取り戻した。
「なんとか追い払ったよ。危なかった、もしあの霧が可燃性だったら、僕たち灰になってたよ。」
ワトソンは笑って言った。
「笑い事じゃないですわ。」
ジョアンは呆れてつぶやいた。
一方、ロイドは電光石火の如き打撃と斬撃の応酬が続いていた。
「こいつ只者ではないな。俺の攻撃を全て見切るとは・・・。」
今までロイドとここまで渡り合ったのは、ある一人を除いていなかった。
「あいつの他にもこんな奴がいるとは・・・。いかん、王国の裏切り者など忘れろ。」
ある男が、ふとロイドの脳裏に浮かんだ。
「どうした、考え事などしてる暇はないぜ。」
男はそういうと、目を瞑りゆっくりと深呼吸を始めた。
「これは、拳法の呼吸法か?」
男の周りにはただならぬ闘気が生じ、それは拳に集約されていく。
「決めさせてもらうぜ、一点集中拳!!」
渾身の正拳突きがロイドに迫った。
「見えた!!」
ロイドは間一髪それを横にかわした、勢いあまった拳は後ろの壁を粉々に粉砕した。
「くらえ!!」
ロイドは大剣の側面で男の後頭部を強打した。
「く、負け・・た・・。」
男はその場に倒れこんだ。
「峰打ちだ、致命傷にはならん。」
しばらく時間が経過し、男が回復したところで、ロイドは事情を説明した。
「なんだよ、お前たちが襲われてたのか。すまなかったな。それでよ、お前たちは旅のものだろ?」
「ああ、そうだが。」
「頼む、俺を仲間に加えてくれ!!」
「なんだと!?」
男の突然の申し出にロイドは困惑した。
「俺の名は『マルス・ウーフェイ』。ウーフェイ流拳法継承者だ。」
「ウーフェイ流っていうのは、終末戦争期の八英雄の一人、エメットが創始したという伝説の拳法か?」
「そうだ。ウーフェイ流は一族の中だけで、一子相伝で受け継がれてきた。もう、ビュリックには俺の相手になる骨のある奴はいないんだ。だが、世界にはお前みたいな強い奴がもっといるはずだ。俺は世界最強の格闘家になる!!頼む、俺も仲間に加えてくれ!!」
少々無理やりな動機であったため、ロイドは考え込んだ。
ロイドはふと粉々になった壁を見た。
「しかし、これだけの力を持っている奴なら足手まといにはならないだろう。現状一番戦力になるかもしれない。」
ロイドは決断を下した。
「いいだろう、仲間に加えてやる。」
「本当か、ありがてえ。とりあえず、爺ちゃんに事情を説明しないといけねえ。うちの道場に来てくれ。」
そこへ、ワトソンたちがやって来た。
「こっちはなんとか刺客を追い払ったよ。そっちは?」
「こっちもひと段落着いた。それで、こいつの道場に行くことになった。事情は後で説明する。」
ロイドたちはマルスの道場へと向かった。
しばらく歩くと、ビュリックの街中に木製の古い建物が見えた。看板に「ウーフェイ流道場」と書いてある。
「ここがうちの道場だ。」
そういって、マルスは扉を開けた。
「ただいま~。」
「こら、マルス!!修行を放り出してどこほっつき歩いてたんじゃ!!」
いきなりの怒声が聞こえた。見ると目の前に、拳法着を着て白い髭を生やしたいかつい顔の老人が立っていた。
「爺ちゃん、そう怒るなよ。」
どうやらマルスの祖父のようだ。老人はロイドたちを見ると、
「なんじゃお前さんたちは?マルスの知り合いか?」
「俺はエルロード魔法騎士団長『ロイド・アルナス』、公用でビュリックに立ち寄った。」
ロイドは挨拶した。
「おお、これはこれは。わしは『ガングルフ・ウーフェイ』当道場師範じゃ。」
「爺ちゃん、突然だが、俺こいつらと旅に出る!!」
マルスは叫んだ!!
「何!!修行はどうするんじゃ!!お前は大事な跡取りなんじゃぞ!!」
ガングルフは突然のことに驚愕した。
「もうビュリックには俺の相手になる奴はいない。だから世界を旅してもっと強くなりてえんだ!!爺ちゃん、一生のお願いだ、頼む!!」
マルスはその場に土下座した。ガングルフはしばらく腕組みをして考え込んだ。
「ふむ、分かった。いずれこんなことを言い出すとは思っていたんじゃ。」
ガングルフは静かに言った。
「じゃあ、許してくれるのか?」
マルスは顔を上げて叫んだ。
「ただし、条件がある。わしより先に死ぬな、生きて帰って来い。そして道場を継ぐのじゃ。いいな!!」
「ああ、分かった!!」
マルスとガングルフは拳を突き合わせた。
「さて、客人殿。これからマルスが世話になるんじゃ、泊まっていきなされ。」
ロイドたちはここに泊まることとなった。
その夜・・・・。
「いいのかな~、お爺さん内心は心配してるみたいだし。僕は両親がいないから分からないけど、あんまり親に心配かけないほうがいいんじゃないかな~?」
ワトソンは呟いた。
「マルスが自分で決めたことだ。奴は若いが成人してるだろうし、そんなに心配することないだろう。」
「そうはいっても、僕も爺ちゃんを残して来ちゃったんだよな~。心配してるかな~。」
ワトソンは窓から西の空を眺めた。
「そういえば、ロイドの両親ってどういう人なの?」
「俺の両親か・・・。うちは代々騎士の家系でな、父親もそうだった。俺は幼い頃から剣術に兵法、政治学に一般教養と英才教育を受けてきた。厳格だが優しい父だ。母親はとても慈愛に満ちた優しい人で俺をとても愛してくれていた。」
ロイドは静かに語った。
「おっと、つい話し込んでしまったな。明日は早い、寝るぞ。」
二人は眠りについた。
翌日
「じゃあ、爺ちゃん言ってくるぜ!!」
マルスは手を振った。
「そうじゃ、マルス、これを持って行け。」
ガングルフは赤い鉢巻を手渡した。
「気合いを入れたいときはこいつを頭に巻くのじゃ。赤は人間の闘争本能を高めると言われておる。」
「ありがとな、大事にするぜ。」
こうして、ロイドたちはマルスの道場を後にした。
「それで、これからどこへ行くんだ?」
マルスは尋ねた。
「これからラパへ向かいたい。」
「ラパか。それならセントラルシティの北の門から出て、北へ歩いていけばいい。半日もすれば着くだろう。」
一行は辺境の村ラパへ向かった。
第11章 完