第17章 聖魔の双剣
ロイドは薄暗い城内の通路をひっそりと歩いていた。
「王石はどこにあるのだろうか? まあ、片っ端から探し回るしかないな。」
ふと、扉の前から声が聞こえた。兵士が会話をしているようだ。
「なあ、知ってるか? 王石がもう一つ見つかったらしいぞ。」
「へぇ~、どこにあるんだ?」
ロイドは扉の前に立ち止まり、聞き耳を立てた。
「王石が見つかっただと。まずい、これ以上帝国の手に渡らせるわけにはいかないぞ。」
兵士たちは会話を続けた。
「『フォービドゥンタワー』だとさ。」
「まじかよ!! だとしたら、エリック様は俺達に取りに行かせるつもりか?」
「だろうな。あそこじゃご自慢の魔術士部隊も役に立たないからな。」
「冗談じゃないぜ、あんなおっかねえところ行きたくねーよ。」
ロイドは扉から耳を離した。
「『フォービドゥンタワー』・・・、『禁断の塔』か。なぜ奴等はそんなに恐れている?魔術士が役に立たない? 謎だらけだ。」
兵士の会話に疑問を覚えつつも、さらに先に進んだ。
一方・・・。
「隊長ーーーーーー!! 緊急事態であります!!」
裸に近い格好をした男が城内の一室に飛び込んできた。
「アーカードっ!! 鎧はどうした、なんて無防備な格好をしているんだ!!」
隊長と呼ばれた男は激昂した。
「それが、・・・・。」
アーカードは事の一部始終を話した。
「何!! 何者かに襲われて鎧を剥がされただと!!」
男は叫んだ。
「何のためにそんなことしたのでしょうか?」
「おそらく・・・。何者かがアーカードになりすまして城内に侵入しているのだろう。探せ!!城内に偽者の帝国兵が紛れ込んでいるはずだ!!」
男は駆け足で部屋を出て行った。
「エリックから話は聞いている。ロイド、やはりお前の仕業か・・・。」
男はそんなことを考えながら、廊下を早足で歩いた。
ロイドは城内を探し回っていた。宝物庫、武器庫、詰め所、食堂・・・・。しかし、王石はどこにも見つからなかった。
「いったい、王石はどこにあるんだ?」
次の部屋は本棚が無数に並んでいた。
「ここは・・・、書庫か?」
本棚に囲まれた通路を歩いていくと、奥に輝きを放つ物体が見えた。
「あれは、王石!!」
王石は謎の魔方陣の上に置かれ、今までに見たこともないような強い輝きを見せていた。ロイドが王石を取ろうと手を伸ばした、その時!!
「何をやっているのですか!!」
後ろから、聞き覚えのある男の声が聞こえた。
「ここは私の研究室です。帝国兵といえども勝手に入ることは許されないはずですよ?」
ロイドが振り向くと、目に映ったのは人狼の洞窟で会った「エリック」だった。
「さては貴方、帝国兵ではないですね?この私の目はごまかせませんよ?」
そう言って、エリックが掌から衝撃波を放った。衝撃波はロイドの兜を弾き飛ばし、素顔が露になってしまった。
「お前は、ロイド・アルナス!! さては王石を奪いに来たか?」
「まずい、ばれてしまったか。」
ロイドは素早くエリックの脇をすり抜け、一目散に逃げた。
「何をしているんですか、追いなさい!!」
エリックは廊下を歩いてた兵士達に向かって叫んだ。
「たいした武器を持ってない今は戦うわけにもいかない。ここは逃げるのが先決だ。」
ロイドは城の回廊を駆け回った。しかし、帝国兵たちが次から次へと追ってくる。やがて、エントランスの大広間のような場所に追い詰められた。大広間には帝国兵たちが先回りしていた。
「観念しろ、ロイド・アルナス。お前を不法侵入者として逮捕する!!」
帝国兵たちは長剣を引き抜き、ロイドに迫ってくる。
「悪いが、ここで捕まる訳には行かない・・・。」
ロイドは腰からゲンゾウから貰った脇差「漣」を取り出し、逆手に構えた。
「俺にはエルロードを守る使命があるからだ!!」
冷静なロイドからは考えられないような雄叫びを上げながら、帝国兵の集団に突っ込む。
「そんな短刀一本で何ができるっていうんだ?往生際が悪いぞ。」
一人の帝国兵がロイドに向かって長剣を振り下ろした。ロイドはそれをしのぎで受け流すと、勢い余って兵士は前のめりになった。その一瞬の間隙をロイドは見逃さず、鎧の隙間から喉元を逆手で突いた。
「ぐはあっ・・・。」
兵士はうめき声を上げながら倒れた。
「おのれえええええ!!」
今度はロイドの背後からもう一人が斬りかかった。ロイドは振り向きざまに、脇差を軽く上に投げて順手に持ち変える。そして、間髪いれずに胴を一文字に薙ぎ払った。
「こいつ、強すぎる・・・。」
帝国兵たちは恐れをなし、その場に固まった。
「さあ、次はどいつだ?」
ロイドは脇差を軽く放り投げると、再び逆手に構えた。その眼は戦場の戦士のように冷徹な目であり、帝国兵を畏怖させるには十分であった。
「丸腰同然の相手に何をやっている!!全く情けない。」
遠くから、ロイドの聞き覚えのある声が聞こえた。
「これは、マーク隊長殿。」
兵士達が敬礼する間を歩きながら、蒼鉛の鎧に、黒髪の短髪の騎士が現われた。この男だけは鉄仮面をつけておらず、素顔が露になっていた。
「マーク・・・。まさかお前は!!」
ロイドの脇差を握る手がかすかに震えた。
「久しぶりだな、ロイド・アルナス。いかにも、俺がガストラング近衛部隊長『マーク・ラングリース』だ。」
マークはそう言って、鈍い輝きを放つ黒鋼の長剣を引き抜いた。
「王立士官学校以来か・・・。出世したものだな、マークよ。」
ロイドは憎悪の目でマークを睨みつけた。
「お前もな、ロイドよ。エルロードの魔法騎士団長にまで登り詰めたそうじゃないか?」
マークは挑発するような口調で言った。
「なぜ、王国を裏切った。なぜ、帝国に仕えている?答えろ!!」
「そんなことはどうでもいいだろう?ここで、長年の決着つけさせてもらうぞ!!」
マークは黒鋼の長剣を振り上げ、斬りかかってきた。
「くそ、今マークと戦うのは厳しすぎる。」
ロイドは脇差のしのぎで攻撃を受け止めた。
「どうした?短刀一本では俺の相手にもならないか?」
マークは怒涛の勢いで攻撃を続けた。ロイドは防ぐので手一杯だった。士官学校時代に、唯一ロイドと対等に渡り合った男である。今のロイドにとっては厳しい戦いだ。
「ここは一旦退くか・・・。」
ロイドは受け止めているマークの剣を弾き返すと、その場から走り出した。
「腰抜けめ、逃がすか!!」
マークは帝国兵たちを率いてロイドを追った。ロイドは城門を出ると、足元に蓋のようなものを見つけた。開けてみると下水道のようだった。
「ここを使えば帝都の外に出れるかもしれない、奴との決着は聖剣イングラクトを取り戻してからだ。」
ロイドは下水道を降りた。
「奴め、下水道を伝って逃げたな。」
マークは蓋の開いた下水道を見て舌打ちをした。
「俺はこのまま奴を追う、お前達は先回りしろ!!」
マークはロイドを追って下水道に入った。
帝都ガストラング 外壁
「ここは、どこだ?」
ロイドは外壁にある下水道の入り口に出た。丁度、聖剣と鎧を隠した茂み付近だ。
「うまいところに出られたぞ、早速着替えるか。」
ロイドは自らの白銀の鎧を着ると、聖剣イングラクトを構えた。
「追い詰めたぞ、ロイド!!」
しばらくして、マークが下水道から出てきた。
「ほう、それが天下に名高い聖剣イングラクトか。やっと面白い戦いができそうだ。」
マークは内心、本気のロイドと戦えることを喜んでいた。
「無駄口を叩いている暇はないぞ。望み通り、決着をつけてやる!!」
「まあ、そう焦るな。冥土の土産に見せてやろう、この剣の真の力を。」
マークが剣を握る手に力を込めると、黒鋼の長剣が炎を纏った。
「これは、魔法か?」
ロイドは驚嘆の声を上げた。
「当たらずしも遠からずだな。こいつはガストラングの錬金技術の粋を集めて作った、魔剣ティルヴィンクだ!!」
「何、魔剣だと!!」
「ティルヴィンクは使用者の魔力を喰らい、それを炎に変える悪魔の剣!! そっちが聖剣ならこっちは魔剣で勝負って訳だ。」
マークは燃え盛るティルヴィンクを突きつけた。
「いいだろう、そっちがその気なら・・・。」
ロイドは詠唱を始めた。
「ホーリーエンチャント!!」
聖剣イングラクトを指でなぞると、それに従い刀身が白い輝きを放った。
「これで、聖剣イングラクトに聖なる力が付与された。いくぞ!!」
両者は剣を構えたまま、お互いをけん制し、微動だにしなかった。嵐の前の静けさと言った感じだ。今まさに、聖剣イングラクトと魔剣ティルヴィンク。そして、ロイドとマークの宿命の戦いが始まろうとしていた・・・。
第17章 完