Neetel Inside ニートノベル
表紙

クロ電話ノ鳴ル処
『XXX-XX-XXXX』

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 それは昔のこと。
 彼等がまだ、私を必要としていた頃の話に遡る。
 人の体温が触れたのを、黒い殻が感じとっていた。
 その度に、内側に眠っていた私は目を覚まし、口を開いた。

『―――――――――』

 求めるモノから、求めるモノへ。
 遠い彼方にいる彼等へと、私は叫び届けるのです。
 彼方より訪れた意思もまた、数多く届けられました。
 その度に私は鳴き叫び、来訪者の到来を告げました。

『じりりりりりん! じりりりりりん!』

 彼等は時に慌て、時に余裕を持ってゆっくりと、私を手に取ります。
 そしてこう言うのです。

「もしもし」

 と。

『私は道具。必要となるべく生み出された物』

 道具である以上、そうでなくてはいけません。
 いつか訪れる限界の時まで、止まってはいけないのです。
 働けなくなった時こそ、この身に宿りし役目が終わる。
 壊れ、滅びるべきである道具の塊。それが私。
 そして、あの時も、私は道具でありました。

 少年が強く望んでいました。
 自らの言葉を彼方へと届けること、その到来を。
 その時私はまだ、壊れていませんでした。
 しかし、言葉を繋げる道がどこにもなかったのです。
 少年もまた、そのことを知っていました。知りつつ求めていました。
 日に、日に、壊れていく少年の心を、見る他なかったのです。

 私は道具であるが故に、少年の望みを叶えたかった。
 少年が回す、九つの番号だけが、私の中に刻まれてゆきました。

『XXX-XX-XXXX』

 少年が願うのと同じく、私もまた願いました。
 貴方に声を届けたい。貴方を求める声を聞かせてあげたい。
 
『XXX-XX-XXXX』

 それが私のすべて。私の存在理由。
 私はあの日、初めて自らの声で少年に語りかけたのです。

「もしもし」

 と。  

 貴方は笑いましたね。
 涙を流しながら、笑ってくれましたね。
 届いた、届いたんだ、そう言ってくれましたね。

 それから私は、少しずつ壊れていきました。
 道具の本分としての自分を盾にして。目を瞑って。誤魔化して。
 なのに。

『XXX-XX-XXXX』

 どうして。

『XXX-XX-XXXX』

 忘れないで。忘れないで。忘れないで。

『XXX-XX-XXXX』

 必要として。必要として。必要として。必要として。

『XXX-XX-XXXX』

 求めてください。求めてください。求めてください。求めてください。求めてください。求めてください。求めてください。求めてください。

『XXX-XX-XXXX』

 私を私を私を私を私を私を私を私を私を私を私を私を私を私を私を私を私を私を私私私私私私私私私。

 お願い、消さないで。



       

表紙

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