魔族は滅びた。
勇者ヒウロとその仲間達によって、世界は平和を取り戻したのである。
ヒウロはディスカルを討ち取った後、エミリアと共に人間界へと帰還した。ヒウロとエミリアの帰還を知った人々は、二人の無事と勝利を心から喜んだ。
その後、国を挙げての祝勝会となり、そこでヒウロは勇者の称号を得る事となった。
称号を得ずとも、ヒウロは間違い無く勇者であった。勇者とは、勇気ある者の事。ヒウロは最後の最後まで、勇気を失う事はなかった。そして、勇気で勝利した。
死んだ仲間達にも、称号が与えられる事となった。
魔人レオンの後継者であるメイジには、魔神の称号が与えられ、剣聖シリウスの後継者であるオリアーには、剣皇の称号。そして、音速の剣士であるセシルには、音速の剣聖の称号が与えられた。
称号を与えられようとも、失った命が戻る事はない。しかし、人々の記憶には残る。歴史にも刻まれる。勇者アレク、魔人レオン、剣聖シリウスの三人のように、ヒウロを含めた五人は歴史にその名を刻む事だろう。
祝勝会を終えた後、ヒウロはエミリアより交際を申し込まれた。いや、正確にはエミリアの父、ルミナス王からの申し出である。これについて、勇者ヒウロは丁重に辞退していた。
ヒウロには、その気がなかったのだ。王族となる事はもちろん、エミリアに対する恋愛感情も無かった。一方のエミリアはまんざらではないようだったが、こればかりは二人の問題であったため、交際の話は流れる事となった。
そして、ヒウロは旅に出た。
各神器を封印し直し、父の剣――アレンの剣を勇者アレクの墓前へと捧げた。そして、世界を旅した。
どの町、村、城を訪れても、ヒウロは歓迎された。それもそのはずである。世界を救った英雄なのだ。小さな子供から、年老いた老人まで、ヒウロの事を知らない者は居なかった。
しかし、ヒウロは孤独だった。メイジが、オリアーが、セシルが居ない。父も母も居ない。本当に心を許せる仲間は、エミリアだけだろう。だがそれでも、メイジやオリアーには及ばない。
絆。死別して、ヒウロはその深さを知ったのである。
この後、ヒウロは各地を旅して回り、最終的に独りで一生を終える事となった。天寿を全うしたのである。
勇者アレクの血、いや、勇者ヒウロの血が世に受け継がれる事は無かった。しかし、それを悔やむ者は居ない。それはヒウロ自身もそうであった。
志は受け継がれる。
一方、エミリアはラオール王と結婚し、五人の子供を儲ける事となった。
エミリアは勇者ヒウロとその仲間達の志を、五人の子に何度も言って聞かせた。勇気、英知、正義、愛、希望。そして、それぞれの子が、それぞれの志を受け継く事となった。
やがて、この子供達が親となった時、その子供が再び志を受け継ぐだろう。
こうして、人々は歴史を、時を刻むのである。
いつかまた、魔族が、悪が復活し、歴史に台頭してくる事があるかもしれない。そして、人々は怯え、絶望してしまうかもしれない。だが、その時にはきっと、ヒウロ達の志を受け継いでいる者達が、世界を救うであろう。
それが、人の歴史なのだ。
――ドラゴンクエストオリジナル 完