Neetel Inside 文芸新都
表紙

ドラゴンクエストオリジナル
魔の島〜魔界

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 潮風。波は穏やかだった。
 ヒウロ達は魔界に突入すべく、魔の島と呼ばれる孤島に向かっていた。移動手段は船である。船はラオール王から借り受けた物だった。
 魔界への入り口には封印が施されていた。その封印を解くには、勇者アレクの血を引く者の力が必要だった。すなわち、ヒウロの力である。アレクの血を引き継ぎし者が魔界の入口に立ち、その力を証明する。それが、魔界への入り口の封印を解く方法だった。
 ヒウロ達の心は奮い立っていた。魔族との決着の時が近いのだ。当然、不安はある。何せ、魔族を撃ち滅ぼした事がある人間は、遠い昔の人物である勇者アレク達のみなのだ。それも伝説として語り継がれているに過ぎない。
 それにヒウロを除く四人の力は、ラオール王国を襲撃してきたアレンには及ばなかった。つまり、パーティとしてはまだ力不足だという事が否定できないのである。それに加え、かつての四柱神、魔王の側近であるダール、ビエル。そして、魔王であるディスカル。これらの魔族の力は未知数だ。唯一、セシルがダールと交戦していたが、あの時は蟻と恐竜程の力の差があった。
 しかし、それでもヒウロ達は魔界に行く事を決意した。でなければ、人間界は破滅を迎えてしまう。ビエルの手によって、ファルス王国は消し飛んだ。これらは魔族側の挑発とも取れたが、それは意に介さなかった。どちらにしろ、これ以上の犠牲は出せないのだ。
 そして、ヒウロ達はまだ伸び白を持っていた。つまり、まだ成長途中なのである。本来ならば、力を完全に開花させてから魔界に行くのが望ましかったが、それを言っていられる状況では無くなっていた。魔界で、戦いの中でヒウロ達は成長をしていくしかないのだ。
 船で海上を進んでいくと、前方に島が見えた。魔の島である。島には紫色の霧がかかっており、よくは見えない。空は暗く、黒い雲が島の上空を覆っていた。
「魔の島、とはよく言ったものだな」
 メイジが呟く。
「……俺に、封印が解けるのかな」
 ヒウロが不安そうに言った。魔界へ入る為には、ヒウロがその力を証明しなければならないのだ。その方法とは一体、どのような物なのか。
 船が島に接岸した。五人が島に降り立つ。風がぬるい。辺りは草木が一本も生えておらず、所々に毒の沼地が見えた。何かの屍もそこら中に転がっている。まさに、魔の島と言うにふさわしい光景だった。
「魔物の気配は感じないな。進もう」
 メイジが言った。隊列を組む。オリアー、ヒウロ、セシル、メイジ、エミリアの順に隊列を組んだ。
 島には生気というものが感じられなかった。だが、不気味な威圧感がある。しばらく進むと、巨大な門のような物が見えた。両脇に山を抱え、天まで届くかのような巨大な門だ。魔界への入り口である。
「……なるほど、封印が弱まっているな」
 メイジが言った。門が僅かに開いているのである。この僅かな開きによって、魔族は人間界と魔界を自由に行き来できるようになっていた。もう一度、封印すればそれも防げるだろうが、それは一時しのぎにしかならないと予測できた。すでに魔王が復活している。強引に封印を打ち破ってくる可能性も考えられるのだ。
 門の中央には、巨大な紋章が描かれていた。封印の魔方陣である。
「ヒウロ、あの魔方陣に勇者アレクの子孫である証……そうだな、ライデインを撃ってみてくれ」
 メイジが言った。ヒウロが頷き、剣を抜く。稲妻の剣。門の紋章が、僅かに輝いた。ヒウロの稲妻の剣に反応したのだ。ヒウロが剣を天に突き上げる。
「ライデインッ」
 稲妻を魔方陣へ撃ち放つ。メイジ達に緊張が走った。魔方陣が強く輝き出す。しかし、それ以上、門は動きを見せなかった。
「……? ライデインじゃダメなのか?」
 メイジが首をかしげた。ライデインは勇者アレクの子孫である証だ。それは間違いない。門も反応した。
「……メイジさん、魔力を借りても良いですか?」
「? あぁ」
 メイジが左手をヒウロの背にそえる。
「そうか、お前」
 メイジが言った。ヒウロが頷き、剣を天に突き上げた。闘気が天を貫く。その時、門の紋章が激しく輝きだした。キィンという高い音が鳴り響く。
「ギガデインッ」
 轟音。激しい稲光と共に、聖なる稲妻を門に向かって撃ち放つ。メイジが片目を瞑った。あまりの眩さに目を開けていられないのだ。オリアーやセシル、エミリアが手で目を覆った。
 次の瞬間、地鳴りをあげつつ、門がゆっくりと開いた。
「なるほど、ライデインでは魔界に行くには力不足、という事だったのか」
 メイジが呟く。そして、その通りだった。魔界に行くには、その力を証明しなければならないのだ。
「……さぁ、行こう!」
 ヒウロが言った。他の四人が頷く。そして、世界の命運を背負った五人が、魔界へと足を踏み入れた。

     

 一方、魔界では幹部クラスの魔族達が王の間に集合していた。すなわち、四柱神、アレン、ダール、ビエルである。全員、跪いている。
「お前達も知っているだろうが、勇者アレクの子孫らが魔界に入ってきた」
 王座の横に女魔族は居なかった。それほど、重大な話なのだ。
「ビエルとアレン、大義だったぞ」
 ディスカルが口元を緩める。ビエルの挑発とアレンの襲撃が切っ掛けとなり、ヒウロ達は魔界へ行く事になったのだ。
「ヒヒヒ。ディスカル様よぉ、もう三つか四つぐらい、町や城をぶっ飛ばしても良かったんだぜぇ?」
 ビエルが舌を出しながら言った。アレンは不快そうに目を瞑っている。
「……フン。それは後の楽しみにしておけ。そして四柱神。奴らが我が城に乗り込んできた時、まずはお前たちがアレクの子孫らの相手をしろ」
 四柱神が顔をあげた。目は闘志で漲っている。
「……良い目だ。まぁ、当然か。スレルミア河川からずっと、戦闘のお預けを食らっていたのだからな」
「死体は残らなくても良いのですか?」
 四柱神のリーダー格、サベルが言った。
「構わん。どういう戦い方をするのかも、お前達に任せよう」
「はっ。感謝いたします」
「四柱神の前には、クソの役にも立たん下級・中級魔族を配置しておけ。いきなり四柱神を相手にさせるより、クソどもを使って勢い付かせた方が楽しめる」
 ディスカルが頬杖をついた。
「そしてアレン。私はお前に聞いておきたい事がある。お前はアレクの子孫らと対峙した。……奴らは強かったか?」
 ディスカルの問いに、アレンが目を開いた。
「奴らはまだ完全に力を開花させていない。唯一、ヒウロが我と肩を並べたが、他はまだまだだ」
「ヒウロ? それは勇者アレクの子孫の事か?」
 ディスカルが口元を緩めながら言った。親子の殺し合い。それは最高の眺めだろう。ディスカルはそう思ったのだ。
「そうだ。奴は我との戦いの中で、ギガデインを覚えた」
 ギガデイン。この言葉に、ディスカル以外の魔族が、ハッとした。
「ほう、ギガデインとは……。これは侮れませんねぇ」
 ダールが眉をひそめながら言った。
「アレン、頭痛はありませんでしたか?」
 ダールが尋ねる。
「……ギガデインの時に強く感じた」
「なるほど……そうですか。わかりました」
 ダールはそれ以上、追及はしなかった。
「おそらく、奴らはこの魔界でさらに成長を遂げる。四柱神、油断するなよ」
「……はっ」
「話は以上だ。ダール以外の者は各々の場所へ戻れ」
 ディスカルのこの言葉で、ダール以外の魔族が王の間から退出した。
「ダール、アレンにさらに闇の力を植え付けろ」
 ディスカルが、王の間に残っているダールに言った。
「それは構いませんが、壊れるのが早くなってしまうかもしれません。元々の肉体は人間ですからね」
「奴が壊れようと私の知った事ではない。今のアレンでは、アレクの子孫ら全員の相手をするのは、おそらく無理だろう」
 ディスカルはアレンの話から、ヒウロ達の現在の実力の大凡を読み取っていた。今はヒウロのギガデインが頭抜けているが、この魔界、この城で他の仲間達も大きな力を得る。そうなった場合、今のアレンでは太刀打ちできない、とディスカルは判断したのだ。
「分かりました。確かにギガデインで頭痛も起きたようですしね。この際、徹底的にやっておきましょう」
 ダールが不気味な笑みを浮かべた。
「あぁ。これでまた楽しみが増える」
 ディスカルは口元を緩めながら、頬杖をついていた。

     

「メラゾーマ! オリアーッ」
 メイジのメラゾーマがオリアーのエクスカリバーに宿る。灼熱の業火を纏わせた王剣に、オリアーが闘気を乗せた。
「火炎・空裂斬!」
 炎を纏った闘気の旋風が、魔族の群れを蹴散らす。そのオリアーの脇をセシルが駆けた。速い。ほしふる腕輪の効果で、セシルの動きはとてつもなく俊敏だ。
「隼斬りッ」
 剣閃。瞬く間に魔族の身体が真っ二つとなる。そして。
「ライデイン!」
 聖なる稲妻が残りの魔族を焼き払った。
 魔界。そこはまさに人が住むような場所では無かった。魔族が、魔王が支配する世界である。空は暗雲に覆われており、周囲には薄紫色の瘴気が立ち込めていた。草木など、一本も生えていない。生気という言葉が、とてもイビツな物に感じてしまう。邪気、殺気、怨念、憎悪。そういったモノが、この世界を覆っているようだった。
 ヒウロ達が目指すは魔王の城だ。魔界は広いが、魔王の城へは一本道だった。しかし、その道は険しい。広大な荒野を抜け、奈落の底を繋ぐ一本の橋を渡る。そして、瓦礫の山を登ったその先に魔王の城はそびえ立っているのだ。
 魔界での戦闘は熾烈を極めた。魔族単体での力は大した事は無いのだが、とにかく数で押してくる。メイジの呪文やセシルの魔法剣技はもちろん、オリアーの空裂斬やヒウロのライデインも大いに力を振るった。傷を負ってしまった場合、エミリアの治癒呪文で回復する。このような形で、ヒウロ達は歩を進めていた。
「これだけ戦闘回数をこなせば、嫌でも基礎能力の向上が図れますね」
 先頭を歩くオリアーが言った。魔界での戦闘の積み重ねによって、ヒウロ達は着実にその力を上げていた。剣術・魔力の向上はもちろん、技や呪文そのものも洗練されていくのだ。魔王の城に辿り着いた時、ヒウロ達はどこまで強くなっているのか。
 ヒウロ達は尚も戦闘をこなしながら、道を進んだ。広大な荒野を抜け、奈落の底を繋ぐ一本の橋を渡り切る。この辺りから、急に気温が低下し始めた。身を切るような寒さがパーティを苦しめる。吐く息も白い。だが、ヒウロ達の心は萎えなかった。その心は、まさに燃え盛る炎だ。そして、瓦礫の山を登り切った。
「……ここが、魔王の城」
 ヒウロが呟いた。黒いレンガで造られた、巨大な城だ。無数の黒い魔鳥が空を飛んでいる。ヒウロ達が立つその先には、巨大な城門が威圧感をむき出しにして立っていた。等間隔で配された石造りのたいまつが、城門までの道を形作っている。
 ヒウロ達が歩き出す。すると、石造りのたいまつに炎が灯った。青く、妖しい炎だ。ヒウロ達に呼応するかのように、青い炎が灯っていく。城門の前に辿り着いた。
「みんな、行くよ」
 四人が頷いた。ヒウロが城門に手を掛け、そのままゆっくりと奥へと押す。地鳴りに似た音を立てながら、門は開かれた。ヒウロ達が中に入る。大広間だ。薄暗い。それに冷え込んでいる。正方形の石のタイルが床に敷き詰められ、壁では燭台の炎が揺らめいていた。天井は高い。
「やけに静かだな」
 メイジが言った。声が微かに響く。
「……進んでみましょう」
 オリアーが言った。
「あぁ。隊列を組もう」
 ヒウロ達が隊列を組み、進む。その瞬間だった。
「みんな、上です!」
 オリアーが剣を抜いた。エクスカリバーだ。天井から魔族の群れが襲いかかってくる。
「前からも来る!」
 ヒウロが叫んだ。同じく剣を抜く。前方の扉をぶち破り、魔族の群れが駆けてきた。
「俺が上をやる。ヒウロ、オリアーは前を。セシルはエミリアを守れ!」
 メイジが指示を出しつつ、魔力を溜めた。すぐに両手を上に向かって突き出す。チャージが速い。魔界での戦闘で成長しているのだ。
「イオナズンッ」
 轟音、大爆発。城全体が揺れる。これを皮切りに、前方の魔族とヒウロ、オリアーがぶつかった。何匹かが後衛陣に向けて駆けてくる。
「セシル、頼んだぞ!」
 メイジが叫ぶ。セシルが魔法剣を作り出した。駆けてくる魔物の背後に回り込み一閃。瞬殺だった。
「オリアー、剣を上に突き出せ!」 
 メイジが声をあげた。オリアーが魔族を斬り伏せる。さらに飛び掛かって来た魔族をいなし、首を刎ねた。そして、剣を突き上げる。
「メラゾーマッ」
 オリアーのエクスカリバーに灼熱の業火が宿った。
「ヒウロ、背後は任せましたよ」
「あぁ」
 オリアーとヒウロ、互いに背を預けた。
「火炎・空裂斬ッ」
「ライデイン!」
 魔族の群れは、稲妻と炎を纏った闘気によって蹴散らされた。

     

 ヒウロ達が邁進していた。魔王の城。魔族の本拠地。しかし、心は落ち着いている。気負っていない。世界の命運を背負っていようとも、その目的はただ一つなのだ。魔王を、魔族を倒す。ただこの一つの目的のため、ヒウロ達は城内を突き進んでいた。
「……皆さん、足を止めてください。あの扉、何か変です」
 一本道の通路。先頭を歩くオリアーが、前方の扉から何か違和感を感じ取った。その場で注意深く探る。どうやら、殺気や邪気とは違うようだ。
「何か魔法が掛けられているな」
 メイジが扉から魔力を感じ取った。だが、何の魔法かまでは分からない。
 正直な所、ここでヒウロ達は無駄なリスクを背負いたくは無かった。敵の本拠地なのだ。多少、遠回りであろうとも、リスクを背負わずに済むルートがあるならば、そのルートを選ぶ。それがヒウロの判断であり、パーティの意志だった。
 しかし、この目の前の扉は奥へと進む唯一のルートだった。他に道は無い。
「行こう。迷っている暇はない」
 ヒウロが言った。四人が頷く。そして、扉を開ける。扉の向こうは闇一色だ。その瞬間だった。扉の先の闇が、ヒウロ達を吸い込もうとし始めた。
「なんだ、これは……!」
 メイジが呻く。バシルーラに近い魔力だ。耐え切れない。
「吸い込まれる!」
 ヒウロが声をあげると同時に、五人は闇の中に吸い込まれてしまった。

 闇から放り出される。ヒウロだ。身体を起こした。顔を上げる。部屋。大きな部屋だ。辺りを見回す。仲間が居ない。メイジもオリアーも、セシルもエミリアもだ。
「久しぶりだな、勇者アレクの子孫」
 声。聞いた事がある声だ。ヒウロはそう思った。視線を向ける。
「……お前は」
 ヒウロが稲妻の剣の束に手を掛けた。声の主。それは、四柱神のリーダー格、サベルだった。青い頭髪。背に長剣。かつて、ヒウロは一度だけ顔を合わせた事がある。スレルミア河川。あの時は恐怖で全身が竦んだ。戦わずして、その実力差を肌で感じた。だが、今は。
「みんなをどこにやった?」
「……他の四柱神の元だ」

「つまり、あの扉の魔法はお前が掛けたものだと……そういう事か」
 メイジが睨みつける。その視線の先には、四柱神の一人である、グラファが立っていた。老人。背丈は子供ぐらいしかないが、その小さな身体からは想像も出来ない程の魔力を備えているのが分かる。
「ホッホッホ。伊達に歳は取ってないからの」
「その風貌通り、味な真似をする奴だ」
「……魔人レオンに似て、口の利き方が生意気過ぎるわ。ちと、仕置きをしてやらねばならんようじゃの」

 筋肉ダルマ。四柱神の一人であるクレイモアが、大剣をビュンビュンと振り回す。風鳴り音が竜巻の如く唸っていた。
「久しぶりだな。まさかてめぇが、剣聖シリウスの後継者だとは」
「四柱神……。こうやって僕達を分散させて、個々で討ち取る、というわけですか」
 オリアーが神器、神剣・フェニックスソードを抜き、構えた。白銀の刀身。
「自惚れるな、クズが。てめぇら如きわざわざ分散させずとも、俺様一人で全員を肉塊にしてやるわ」
 オリアーがキッと睨みつける。

「じゃぁ、なんで分散させたと思う?」
 白い肌。赤い爪。赤い髪。顔の半分が髪の毛で隠れている。四柱神の一人、唯一の女魔族であるディーレがクスクスと笑った。
「……そんな事、知るわけないわ」
 セシルが魔法剣を作り出す。
「バカね。そんな事も分からないの?」
 ディーレが前髪をゆっくりと掻き上げた。それをセシルが睨みつける。
「楽しむために決まってるじゃなぁい。全員で戦っちゃったら、獲物の取り合いになるでしょ? だから、仲良く獲物を分けたのよ。フフ。そして、私には二匹も獲物が転がり込んできた。……最高だわ。身体がゾクゾクしちゃう」
「……エミリア。後方支援、お願いね」
 エミリアが強く頷く。セシルが前に出て、魔法剣を構えた。

 ヒウロ達と四柱神の戦いが、今始まる。

       

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Neetsha