新都社で人気作家になるための手引書
第三章「そもそもジャンル選択を間違っていないか(上)」
この章では作品ジャンルについて考察していきます。既に各所で幾度となく語られていることを含むので、目新しいところは特にないかもしれません。
ではまず、ランキング上位作品がどんなジャンルであるのかを見ていきましょう。最速○○(旧最速新都)集計の合計コメント数ランキングで見てみましたので、必ずしも現在の人気を反映しているわけではありませんが。
あくまで作者自身によるジャンル説明ですので、実状とは異なっている場合もあります。
「ノーブレーキ漫画」「ヒーロー系」「推理サスペンス」「野球漫画」「覇道漫画」「夢漫画」「バトル」「推理 ギャンブル」「変身ヒロイン」「オナ禁青春群像劇」「純愛競馬漫画」「SF医療ドラマ」「MMORPG」「脱出系」「学園バトル」「ハートフル」「ラブコメ」「孔雀系学園ロマンス」「妹とか」「怪奇系」「中二ファンタジー」「学園モノ」「パクリ」「憂鬱系恋愛小説」「百合RPG」「アヤトリバトル漫画」「女装漫画」「思春期恋愛小説」「ゲーム」「青春爆走」
奇人変態大集合漫画であるとか、エロエロ競馬漫画であったりするものもありますが、大きく作品から逸脱した説明ではないようです。
ではこれらを参考にして、自作のジャンルを決めてみるのはどうでしょう。
「ブレーキの効かないバトルヒーローが野球推理サスペンスギャンブルで活躍して覇道を極めていく。しかし夢の中で禁欲青春群像劇を演じながら競馬に明け暮れているうちに、脱出出来なくなっていたところ、SF医療により救われる漫画」
こんな感じでしょうか。ごちゃ混ぜにしすぎて支離滅裂になって結局潜心(SF医療漫画『潜心』における、患者の夢に潜って治療する行為)頼みになってしまいました。
まあこれは冗談として。
ランキング上位作品にいくつかバトル系漫画がランクインしています。これは商業少年漫画誌における人気漫画のほとどんが、バトル系漫画であることと連動しているように思えます。実際に漫画好きである人たちには、そういった王道バトル系漫画を読んで育ってきた人も多いでしょう。
ですから、「自分も描くなら当然王道バトル」と考えてもおかしくはありません。でもちょっと待ってください。実はそれこそ茨の道かもしれないのです。
商業誌に限らず新都社においても、王道バトル系漫画は数限りなく連載されてきました。ただしそれらの全てが人気作になったわけではありません。人気ジャンルであるからこそ、過去の名作と比べられます。何一つ新味のない「ただ王道なだけ」の作品を読まされると、むしろ馬鹿にされたように感じる読者もいます。酷い場合は作者自身が、どこかで見たような王道展開ばかり描いて「商業漫画にあってもおかしくないような、どこかで見たような作品が描けた。俺も成長したなあ」と満足してしまうことすらあります。
バトル漫画には当然アクションシーンが付き物です。動きのある絵というのは難しいので、魅力的なアクションシーンを描くのは苦労します。それでいて、アクションが続くと話はあまり進まないので、読む方はあっという間に読み終えてしまい、読後感はすぐに薄れ、コメントすることも特にないといった現象も起こります。
また、王道バトル漫画の世界観は大抵ファンタジー的なものが多いのですが、この作り込みが甘いと読者は白けてしまいます。商業誌で連載するのと違って、新都社では作者に専属の編集者が付くことはなく、取材や資料渉猟も全て自分の手で行なわなければなりません。矛盾なく、魅力的で、既にある作品とかぶりすぎることなく……といった条件を満たす世界観を構築していくことは大変です。時には設定を作ることに力を注ぎ込み過ぎて燃え尽きてしまい、第一回どころか連載を始める前に作品が投げられてしまうことも多いのではないでしょうか。
以上のように、王道バトルファンタジーとは、一見取っつきやすそうに見えて、実は物凄くハードルの高いジャンルなのです。特にキャラクターに個性がなかったりすると、見るに耐えないものになります。構想はすぐに出来ても、実際描き始めて完結させるとなると、何年もかかることになりがちなので、順調に連載を重ねていた作品でも、中途半端なところで投げられる率が高かったりします。
「王道」と呼ばれる人気作品は果たして王道だから人気になったのでしょうか。あるいは、人気作となったからこそ、王道の範疇に入れられることになったのでしょうか。その辺りは曖昧なものですから、言及は避けます。王道を進むのならば、生半可ではない覚悟が必要であることを肝に銘じておいてください。それでもその道を行くというのなら、止めはしません。無事描き切った時には、膨大な数のコメントと、確かな実力を手に入れることが出来るでしょう。
さて次は「作者には人気のジャンルなのに、読者にはそうでもない」という、不思議なジャンルについて書きましょう。代表的なのは、
「仮面ライダー漫画」
「遊戯王漫画」
「ポケモン漫画」
といったところでしょうか。一見似たように思えますが「ヒーロー漫画(仮面ライダーなどに限定されない)」「RPGゲーム風漫画」などは、前述の三種類より広範な読者を獲得しているようです。
「ちょっと待ってくれ、『仮面ライダーマイ』は大人気漫画だし、遊戯王だって『DMA』、ポケモンだってとあめ先生のが……」という反論が聞こえてくるようです。もちろん前述の王道バトルファンタジー漫画同様に、面白い作品を描くことが出来れば人気作になるのは不可能ではありません。ただし、これらのジャンルに特有の、また別のハードルがあるのです。それも幾つも。
まず一つめは「仮面ライダー・遊戯王・ポケモンに興味のない読者には、最初から見向きもされない」という点です。「仮面ライダー○○」「遊戯王○○」といった題名がつけられている時点で、最新更新欄に載っていてもその手の読者にはクリックすらされません。描いている人には思いもよらないことかもしれませんが、読者の誰もがそれらに馴染んで育ってきたわけではないのです。「無関心」の前には、作品の質を高めるどのような努力も効力はほとんどありません。
二つめは、読者及び作者の、興味の対象の移行です。中高生、大学生、比較的若い社会人、フリーター、あるいはニートが新都社の読者層の大半を占めていると言われます。読者の興味が仮面ライダー・遊戯王・ポケモンにある内は幸せに読まれ、また描かれます。しかし人間は歳を取り成長します。新しいものを知り、また財力を得たら、子供の頃の遊びからは卒業してしまう人が多くなります。別に卒業しない人が幼稚だと言いたいわけではありません。いくつになっても愛するものが変わらないのは素敵なことです、何も恥じることはありません。ただ辛いことに、作者がどれだけそれらを愛し、作品のクオリティを維持していようと、他の理由で読者が離れてしまうので、どんどんコメントが先細りになっていきがちなのです。作者自身が興味を失って投げてしまうこともあります。
三つめは、作者を縛るものです。。これら三ジャンルに代表される作品群は、「ファンタジー漫画」「恋愛漫画」といった、大きなくくりと違い、非常に枠の狭い中で戦っていかなければなりません。ある程度のお約束は破らず、他作品とかぶらず、原作へのリスペクト精神は失わず……といったように、非常に縛りが多いのです。それゆえに行き詰まってしまうことが多い上、作者に「完全オリジナルなものを描きたい」という欲望が湧いてきて投げられることもあります。逆に言えば、むしろ縛りがある方が描きやすいといった作者には向いているとも言えます。
ただしこれらのジャンルは、「このジャンルである限り読まない」読者がいるのと同様に「このジャンルである限り絶対読む」という固定読者も存在します。抜けていく人もいますが、新たに入ってくる読者もいます。低空飛行覚悟の上ではありますが、安定した人気を得られるジャンルといえるかもしれません。
(下)へ続く