Neetel Inside 文芸新都
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新都社で人気作家になるための手引書
第三章「そもそもジャンル選択を間違っていないか(下)」

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「そもそもジャンル選択を間違っていないか」(上)の続き


 ではこれまで述べてきたことを参考にしつつ、どんなジャンルが人気作になる可能性が大きいかについて検討してみましょう。
 一般的には「学園もの」「恋愛もの」といったジャンルは、読者がそれぞれに固有の学園生活の記憶・恋愛経験を持っているおかげで、共感を得られやすいといわれています。同じく共感という点では、モテない、暗い、といった属性のある人物が主役の作品もそうですが、こちらは多数の既出作品との戦いを強いられます。
 作者側にも学生が多い分、商業青年誌に見られるような「仕事もの漫画」はまだ少ないようです。資料も揃えにくく描きにくかったり、想像だけでいい加減に描くには向いてないジャンルということもあり、難しいですが、しっかりと描けたら人気になれそうな気もします。
 では他の具体例を。

<自分が大好きであり、また読者にも求められているいジャンル>
 これは理想形ですね。理想であるがゆえに一番難しいかもしれません。前述の王道バトルファンタジー漫画など。

<一見王道のように見えるけど>
 大人気作の中にはこのパターンが多い気がします。たとえば『ワンパンマン』は主人公が最初からむちゃくちゃ強いので、王道バトル漫画にありがちな修行展開がありません。『平穏世代の韋駄天達』には地道な修行もありますが、キャラクター達は正義感など持たず、基本鬼畜な性格でありますし、バトルというよりむしろ政治漫画の色合いが濃いです。少し意味合いは違いますが、『K』の安定した連載速度と高いクオリティなど、新都社内においてはむしろ異彩を放っているといっていいかもしれません。

<個性突出型>
 これまでになかったタイプのジャンル漫画の発明や、マニアックな知識、極端な性癖、常人離れしたキャラクター造形など、個性的な作風で人気を集めます。人狼というゲームを漫画にするという発想がそもそも画期的だった『汝は人狼なりや?』などがこの種の代表と呼べるかもしれません。初めて読む読者を驚かせたり、知的好奇心を満たして最初の掴みを取れるのもメリット。大長編は少ないのでコメント総数ランキングの上位などにはあがりませんが、熱狂的なファンを獲得している個性派作家さんたちがこのジャンルで活躍しています。

<ギャグ・エロ・萌え>
 これらを描けば人気作品になれる可能性が大きいジャンルではありますが、そう簡単にいくものでもありません。ギャグにはセンスが、エロには画力やシチュエーション構成力が必要ですし、あからさまな萌え狙いはかえって反感を買います。
 最も悪いのは「ギャグかエロか萌えがあればいいんだろ」的に、乗り気でもないのにウケ狙いで描いてしまうことです。結果好評でも不評でも、自己嫌悪や読者蔑視の原因になりかねません。やるなら本気でやりましょう。
 
<エッセイ・自己暴露系>
 私小説の伝統がある小説と違い、現実離れした設定で描かれることが多かった漫画では、作者の人間性というものは、よほどの大物でないと知られることが少ないものでした。そんな中、素直に漫画家の日常や仕事風景などを描くエッセイ漫画が近年注目を集めています。覗き見的好奇心を満たしたい人や、作者の素顔を知りたい読者に好かれて人気を博すかもしれません。
 しかし漫画や小説にするくらい面白い生活を送っている人はそういないので、壮絶な叩きにあう可能性が大です。他ジャンルと違い、作品ではなく作者そのものを温かく応援してくれる読者も付きやすいのが救いといえるかもしれません。
 エッセイ系とはまた違い、作者の思想を喧伝するタイプの作品は、嫌われもしますが、大量に叩かれる分、注目を集めやすいとも言えます。


 さていろいろと並べてみましたが、ジャンル選択についてあなたの考えは変わったでしょうか。
「関係ないよ、描きたいものを描く」
 と思ったあなた。それが正解です。
 人気を得るためにはまず続けることが大事。そのためにはモチベーションの維持が大切。「こういうジャンルを描けば人気作家になれるかも」と思って、描きたくもないものを描いていても、意気は上がりません。たとえ一般的には不人気ジャンルであっても、興味のない読者をこちらに無理やり引き込むくらいの気概でないと、作品の質も向上しません。「○○(特定のジャンル)には興味なかったけど、この作品だけは読んでる」と読者に言わせることが出来たら、その達成感は物凄いものでしょう。
 描ける作品の幅を広げるために、苦手なジャンルに敢えて挑戦するのはお勧めですが、今流行ってるからといって、流行にただ乗っかっただけの作品を嫌々描くことは、原稿料が貰えるわけでもない新都社でやるには向きません。

 狙って人気ジャンルを描くのではなく、あなたの作風が新しい人気ジャンルとして定着する、というところまで辿り着けるのが理想です。
 まず自分にはどんなジャンルが描けるのか、どんなジャンルが向いているのか、将来的にはどんなジャンルに挑戦していきたいのか、といったことをじっくり考えてみましょう。「だって王道バトルでないとジャンプでは人気作家になれないじゃないか」「新都社でウケるのなんてどうせギャグとエロと萌えだろ?」といった考えから一時離れてみることです。

 胸に手を当てて目を瞑り、そっと思索の沼に沈み、自分の中に潜っていってください。
 そこで見つけたものをあなたの作品に生かしてください。
 ちなみに私の心の奥底にはおっぱいがありました、というオチにするつもりでしたが、どちらかというとお尻の方が好きです。

       

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