Neetel Inside ニートノベル
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ぼくが死んでから死にたくなるまで。
序:死ぬために、神の棲む地に侵入したら

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序:死ぬために、神の棲む地に侵入したら

 ぼくは物心ついてからずっと、ずっと田舎で暮らしてきた。
 だから“貴公子様”というものは、絵本やお芝居でしか見たことがなかった。
 しかし目の前に立っているのは、まさしくそのとおりの“貴公子様”だった。
 北の果て、神の棲む禁足地に入って半刻ほど。
 あらわれた神様は背の高い、輝くような金髪もまぶしい、美しい貴公子様だった。

 神様ははたして、手にした槍をぼくに向けてきた。
 気高い紫水晶の瞳が、鋭い光をたたえてぼくを見すえる。
「若者よ、何用あってここに足を踏み入れた。
 ここが我、輝ける神の棲む禁足地と知ってのことか」
「はい」
 神様は神々しくて輝かしくて、息が詰まりそうなほどだ。それが厳しい表情で、必殺の槍を向けてきている。
 少し前までだったら気の小さいぼくは、あわあわ慌ててしゃべることもままならなかったろう。
 しかし、今は。
 すでに覚悟を決めた今、地上の何者もけしてかなうことのない神様は、ぼくにとって少しも怖くなかった。
 否、むしろ――
 ぼくは神様の前静かにひざまずき、こうべをたれた。
「光の神様。ぼくはあなたに殺してもらうためにこの地に足を踏み入れました。
 それと知りつつ禁域をけがした罪人に、どうかふさわしい裁きをお与えください」

 しばらくして降ってきた声は。
「……………わけがわからんのだが……………」
 顔を上げると、神様は困ったような表情でぼくを見下ろしていた。


 神様の家は、部屋とその調度は、そしてお茶碗はなんかものすごく“ふつう”だった。
「まあとりあえず茶でも飲め」
「は……はあ……ありがとうございます……」
 神様はぼくを立ち上がらせると、ご自分の家に連れて行き、居間のいすに座らせた。
 そして手ずから、暖かいお茶を入れてくれたのだった。
「どうした? 遠慮せんでいいんだぞ。べつだん変なクスリとか入れてないから。」
 いいつつ神様は、自分の分のお茶をすすった。
「えっと…はい、いただきます」
 お茶はとてもいい香りがしていた。だから(こんなときではあるけれど)ぼくは嬉しく思いながらお茶をすすった。
「ああ、牛乳と砂糖もよければ」
「あ、じゃ下さい」

 そのまましばらくぼくたちは、向かい合ってお茶を飲んだ。
 やがて神様は、やわらかい表情でぼくの顔を覗き込んだ。
「落ち着いたか?」
「えーと……はあ……」
 落ち着くも何も、ぼくはとっくに落ち着いているんだけど……
 でも、せっかく親切に言ってくれている神様に、むげにそういうのも何だったので、ぼくはあいまいに返事しておいた。
「よし。それじゃ聴こう。
 なぜ死のうなどと思った?
 しかもこんな回りくどい方法で。
 生命を断つつもりなら、そうできる場所も機会も、ここに来るまでにいくらでもあったろう」
「普通の方法じゃ、だめだからです」


 そう、ぼくは。
 いったん危機が迫れば、近くのヒトの魂を食らい、自分の生命にかえてしまう――
 恐ろしい、化け物なのだから。


「何があった。
 最初から順を追って話せ。ゆっくりでいい」
 神様がお茶碗を置き、まっすぐにぼくを見る。
 ぼくはひとつ息を吸い込むと、すでにまとめておいた、ぼくの体験を話し始めた。

       

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