ニー島。ここは世界から隔絶された島国。
その島国の中心、タイマン城の眼下に広がるタイダ広場では今日、盛大に祭りが開かれていた。
このニー島は、ミズナラ、ブナ等の極相林で閉ざされ、それは島民にも影響を与えているのか在住している人は皆、一様にして内向的で人との関わりを拒んでいた。とはいえ、島の皆は真面目で勤勉であり、積極的ではないが人と人との交流は穏当に行われて長閑に、平穏に過ごしていた。
しかしそれは昔のお話。50年前に、保守派のヌロツ派と革新派のバロヌ派による武力衝突勃発。俗に言う、ニーの涙。ニー内戦が152年の7月7日に、それは起きた。
6年に渡る戦争はバロヌ派の大量虐殺により勝負は決する。壊滅的大打撃を受け、散り散りになったヌロツ派の党首ワロシュ・ロウは止む無しと断腸の思いでバロヌ派の党首パグニック・ルド・アルクに講和条約を求む。しかし、パグニックはこれを拒否。ジェノサイドを敢行。ヌロツ派は瓦解。そしてパグニックは王になり、ニー島は開国。他の国へと交際、貿易等に着手した。
緑に囲まれたこの大地では鉱物等は採れないが、海産物や作物等の食料に恵まれて、隣国の貿易に成功した。木々も沢山狩られ、輸出された。
こうしてニー島は栄えていったが、危惧する事態が起きる。移民、である。
とはいえ、危惧しているのは治安問題などではない。ここの行政は皆よくやっている。問題は国民性にあった。
長い事隠遁生活を過ごしていた彼らは異国人とのプライベートを一緒に過ごす事ができなかった。アクティブな異国人にネガティブな生活を過ごしていた彼らは肌が合わず、完全失業者が増えた。ニー島の島民は次第に引きこもり、自堕落に過ごすようになる。
これを問題視した王、パグニック2世は知恵を絞る。
『自堕落に過ごすというのがいかにみっともない事かという事を皆に知らしめればいいんじゃね?』
パグニック2世が言う概要はまず、自堕落な人間を集め選別試験を行い、勝ち残った一人をニー島の覇者とし、6年間、皆の反面教師になってもらうというものだった。
この覇者には自堕落な生活を強制させるため、失業手当てが毎月50万ポルド(1ポルド=1円)支給され、王の期間中は絶対に就職は行えず、だらだら過ごしてもらうという事でこぞって人はニー島の覇者を目指した。俗にいう大ニート族時代である。
そして今日、202年7月7日に行われるこの試合に一人の男が名乗りを上げる。
「ここがニー島か……」
その男は何がおかしいのか不適に頬を吊り上げる。
「……いいね、この雰囲気。祭りだってのにこの閑散とした様子」
男はくるりとその場で両手を開いて周りを一望する。確かに街には看板や装飾等がなされ、色彩には富んでいたが人がいない。たまたま居た島民に声を掛けようとするも風体から察しているのかニー島の覇者の参加者かと勘繰りを働かせると軽蔑するような目で一瞥をくれ、舌打ち交じりにそっぽを向きどこかに行ってしまう始末。よほどニートを嫌っているように見える。
「まあ、それは仕方が無いよな」
そりゃなんてったってニートだもの。敬遠こそされるも歓迎等はもっての他ってか?
この排他的な感情を受け、男は再び頬を吊り上げる。
「よぉーし、それじゃやってやろうじゃないか……」
男は拳を強く握るとその拳を天へと突き上げ、叫んだ。
「この、ナイトウ・ホウリツが、この国の覇者になる!」