Neetel Inside ニートノベル
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ニー島の涙
悪寒

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 神が0点である事にナイトウの思考回路は少し停止した。
(……いや、待てよ。神だからといって点数が0っては別におかしくないんじゃないか?)
 ナイトウは腕を組みながらその場で思案する。
(神とはいえ試験官<ラルロ>から見れば神も民を同じ『試験者』だ。だから神とはいえ手落ちがあれば点数が引かれるのは当たり前……か。確かに一回戦も二回戦も点数は民であるオレがトップを取ってるわけだしな。神と民の選別はあくまで攻め手と守り手を分けるだけって意味だけでそこまで優劣はないわけ、なの……か)
 思考の飛躍はふらふらと不安定ながらも、なんとか着地を終える。
 このゲームはあくまで試験だから神と民もただの『俗称』である、そういった足場にと。
 ラルロは皆の持っているカードを回収すると再び鋭利な音を立てて切りはじめる。
 皆はただその光景を黙って見ている。
 喋る者は誰もいない。不平不満を漏らす者もいない。
 静寂。
 ただ静寂だけがこの空間を支配している。
 そんな中でラルロ一人だけがニコニコと変わらぬ笑顔を保っていた。
「はーいっ、ではみなさんカードをお取り下さい!」
 その明朗さが今は毒気にしか感じられない、というのは恐らくナイトウ一人だけではないのだろう。ニート達の大半は色を失った相貌を引っさげてラルロの前へと集まった。
「僕が最初に取って大丈夫ですかっ!?」
 元気一杯、といった声が室内に響く。声の主はラグノだった。
 ラグノは皆の返答を待つより先にニート達を押しのけラルロの前へと割り込んで入ってくと、ニコニコと笑っている。
 ナイトウはその子どものようなラグノの行動に再び首を傾げた。
(確かこのクジ引き方法だと順番に関わらず当たりを引く確立は全員平等……なんじゃなかったっけ。なんであんなに強引に……)
 ここにきてラグノの奇行が際立って見える。
(ジンクスか何かなのか……?)
「カード一枚いいですか!」
「はぁーいっ」
 思考を重ねるナイトウを尻目にラグノとラルロは、交際一週間目のカップル、というよりは仲睦まじい親子の様にキャッキャウフフしながらカード受け渡しをしていた。
 それは実に微笑ましい光景である。
「…………うム」
 そんな二人を見て、ナイトウは積み上げた可能性を自らの手で放棄する。
(まあそこまで気にかける行動じゃないよな。どうせ民がこようも神を引き当てようもトップという現状は変わらないんだし)
 次々と皆がカードを引いていく中でナイトウは一つの疑問に区切りをつけると自らもその列に加わりラルロからカードを『受け取る』。そしてカードの中身を確認せず先程自分が立っていた定位置にと足を運び、優雅に屹立した。全ての人間の、顔と仕草が確認できる一歩引いた定位置へと。
「やった、ボクが神だ!」
 すると、ナイトウの視界の端から快哉を叫ぶ一人の男が見える。
 その男は小柄ながらもそ精悍な体躯をフルに使いガッツポーズを決めていた。名前を確かチョコといった気がする。
(あんなに喜んじゃってまぁ……)
 神になれたのがそんなに嬉しいのだろうか、とナイトウははしゃぐチョコをせせら笑う。今頃神という好機を掴んだとしても今やそれはただの糸、それは残念ながら天<ゴール>には繋がっていない。それはさしずめ、縁日で開かれる千本引きの様で、豪華商品には決して糸は繋がってはいない。それなのに人々は『豪華商品』に目を奪われ、金を払い『ゴール』を目指し嬉々とする。それが無意味な行為だと知らず、道は必ず繋がっているのだ、と錯覚する。
 ナイトウはそんな理論で最後の希望である『糸』を掴み喜色満面といったチョコを見下した。それは視界の左端に映るラグノも同じなようで嘲笑と言った顔を浮かべている。
(さーて、それじゃオレも自分の役を確認しようじゃないか)
 ナイトウは悠然と自分の手に掴んである糸<カード>を手繰り上げる。それはもはや神であろうと民であろうと天へと続く強固な糸となる絶対的な存在。『だったはずなのに』。
(……!)
 視線中央に映るラルロの表情を見て、ナイトウは慄いた。
 それは酷く冷たい、笑顔。
 瞬間、ナイトウの背筋には凍てつく極寒の風が吹き荒ぶ。
(なんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだッッ!!?)
 その憐憫と嘲笑と若干の期待が交じったようなラルロの表情に全身が総毛立ち、翳しかけたカードは胸元で停止する。ギリギリ、カードの内容が見えない所で。

       

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