凶相。まさにそういった面構えでナイトウは賞賛の風が吹き荒ぶその中心を睨んだ。ただ一点だけ、この嵐にもにた喝采音の中で台風の目の如き穏やかさで静観を決め込んでいるラグノを。その毅然とした彼の態度は、まるでこの事態を予測していたようだった。
(いつ……他のやつらに話す機会があったんだよォ……ッ!)
青筋を立てながらもナイトウは冷静に過去を振り返った。
(役割カードを配られる前、つまり二回戦終了の時か? ……いや、それじゃ駄目か。役割が決まってないのに神の殺し方を教えるなんて、まさに諸刃のブーメランだ。他人に教えて自分が神になったとしたらマヌケ過ぎて目も当てられない。って事は奴がカードを引いてからって事か……)
そこでナイトウはハッと息を呑む。
(そういえばあいつ、強引にカードを取りに行ってたもんな……! つまりは先に自分の結果を知ってから、他人に教えるかどうかの判断すればいいだけの事、だからあいつは一番最初を選んだんだ。自分が平民だったらすぐに秘策を教えられるように……!)
なるほど、とナイトウは顎をさする。
(って全体を事細かに監視してたのはオレじゃないか…………ッ!)
ナイトウは皆の動向が分かる様にと、全体から一歩引いた場所に立っていた。それならば要注意人物であるラグノが誰かに入れ知恵をする、なんてそんな怪しい行動に気付かないわけがない。
(それじゃいつだ!? いつ教える機会があるんだっ!?)
ナイトウは順に過去を追っていく。
二回戦が終る。結果発表。カードが配られる。ラグノが平民である事を暴露。チョコが一人目の神に決まる。他の者がカードを引く。そして最後に……
(……最後に?)
そこでナイトウは慄然とした。
「……ナイトウさん?」
俯くナイトウにチョコは心配の声をかける。
しかし、ナイトウはその声に答える事ができなかった。
なぜならば、ラグノに秘策を教える機会を与えたのは他ならぬ自分自身だったからだ。
(そうだ……最後、オレはカードを引いた直後に呆然としてたじゃねぇか……!)
ナイトウは思い出す。あの時、カードを引いてから神の席にと立つまでの経路を。
その道程は、まるで深い霧の中に迷い込んだかのようにぼんやりとしていて、どこをどう歩いてきたのかすらも思い出せない。その混迷っぷりはチョコにも心配される程だったという事は、恐らくこの室内にいた人間全てに異変を気付かれていたのだろう。
(このオレ自身を、省いて……)