Neetel Inside ニートノベル
表紙

ニー島の涙
狂喜

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「いい加減にしろよ……」
 他者の喧騒を切り裂く声。
「こんな事して……楽しいのかよ……」
 己が心も切り裂く声。
「お前ら腹に黒いもん据えてんだろ? 仮面の下ではそのどす黒い腹の探りあいしてんだろ?」
 沈痛な悲鳴。
「ふざけんな! そんな汚ねえ世界で何わいわいと歓談してやがんだよ!」
 悲嘆な叫び。
「裏切った世界の上で平然と笑ってんじゃねえよ!」
 理不尽な悪態。
「腐った世界で馬鹿みてぇな面浮かべてヘラヘラしてんじゃねぇよ!」
 惨めな醜態。
 不満の奔流が心の堰を粉々にし湛えて溢れ出した感情をナイトウはそのまま吐き出した。
 まるで、積み上げた感情の重さに耐えかねたかの様に。
 遍く全てを相手にぶつける様に。
 のけ者は叫んだ。
 外された世界で自己を認識して欲しいと、理解して欲しいと。
 けど、その主張は相容れなかった。
 世界の隔壁を通った言葉は、さも当然のように齟齬が生じる。
「……そこまで熱くモノ言えるなんて、ナイトウはやっぱり凄いじゃん!」
 共感を得ようとした思いは、食い物にされた。
 皆は、その感情すらも餌と認識した。
「やべぇ! チョー感動した!」「いやー激アツっすね!」「マジヤバマジヤバ」
「黙れ!」
 一閃、騒音を断ち切る怒号。
 一瞬、垂れ込める静寂。
「己が私腹を肥やすための事しか考えられない奴が堂々と話してんじゃねぇ!」
 ナイトウは、手を握り締める。
「そうだよ……その通り、だ。オレはお前らと違って凄いんだ、もっと褒め称えろよ……」
 大仰しく両手を広げ、中空を見定める。
「もっと褒めろやクソ共ッ!」
「……てめぇ!」
 一方的に繰り出された罵詈雑言に、ラングが切れた。
「やめろ! 口車に乗るな!」
 が、それをラグノが制止する。
「あいつは点数トップなんだ、挑発にのって泥沼が進めばあいつに勝ちの芽が生まれる! 今は堪えろ!」
「くっ……!」
 必至の説得でラングは煮えくりかえる感情をなんとか殺し、冷静さを顔に作り上げた。
「なんだよ……言いたい事は言えよ。俺の態度に心底イラついてんだろ? 殺したいって思ってたんだろ? 思った事いわねぇと一回戦とおんなじ様に頭が爆発しちまうぞオラァッ!」
 しかしナイトウはその仮面を剥がしにかかる。
 一点突破。
 脆弱が露呈した箇所に言葉の集中砲火を浴びさせる。
 しかし、
「いや~……変な声なのは生来だから仕方が無いんですよ。それに比べてナイトウさんの声はなんと色鮮やかな美声。例えるなら七色のハーモニーですよ。レインボー。チョーマジブラボーですよ」
 ラングは、乗らない。
 声を詰まらせ吃音気味に言葉は放たれたが、自分を卑下し相手を褒める。これを遵守した。
 ラングは、遵守した……!
 それを見て、試験者達は活気付く。
「ナイトウさんはマジ美声っすね!」「容姿は端麗だし!」「性格も熱くて真っ直ぐで!」「まさに秀外恵中、全てが規格外の男だ!」
 嘘が詰め込まれた薬莢が連なるベルトリンクを背負い、銃口から援護射撃が放たれる。
 水平に射出された言葉達は、まるで驟雨の様相。
 幾重にも重ねられた弾幕は、まるで障壁の態様。
 そんな弾雨を、ナイトウはたった一人で浴びた。
 一つとして漏らさず、それらを全て受け止めた。
 多勢の圧倒的な攻撃の前に、ナイトウの心は朽ちかける。
 一人という現状を前に、ナイトウの心は深い穴が穿たれる。
 心だけじゃない。
 体中の全てが穴だらけになっていく。
 自分という存在が、紅茶に落とした角砂糖のように消失していく。
 虚無。
 その代替物として、空虚の体には嘘の賛美が粗雑に嵌め込まれていった。
 贋物の体。
 それでもナイトウは受け入れ続けた。
 肯定、是認、了承、同意、承諾、賛成、認識、認知、承認、理解、首肯、是肯。
 嘘の賛美を、己を偽りながら詰め込み続けた。
 それが己の否定となったとしても、肯定し続けた。
 その結果、








「あハは……アハハああはああっははハはははあはははははhはああハァあーーーーははははああはアハハハッアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」








 狂ったかの様に、笑った。






 発狂。
 その声は、人間を超越する。
 悪魔の様な声。
 喉が潰れ、その叫びには黒い血液を彷彿させる。
 聞くに堪えない声。
 不快な声。
 それでも笑った。
 喉が潰れる過程を楽しむかの様。
 その滑稽さを嘲るかの様。
 参加者の全てが、狂気に慄いた。
 皆が恐怖で顔をひきつらせた。
 純粋に、怯えていた。
 空気が凍る。
 急に降り注いだ静寂。
 押し寄せる無音。
 そんな中でナイトウは視線を中空に仰がせると、裂帛を響かせるかの如く思いきり両腕を頭上にと掲げて大音声を張り上げた。

















「オレの、勝ちだ!」





       

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Neetsha