Neetel Inside ニートノベル
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ニー島の涙
いざこざ

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「ふざけるなッッ!」
 男の声が、異様な空気漂う室内でこだました。
 皆がポイント結果について不平を、あるいは難癖を、夏のざわめき止まぬ蝉時雨を彷彿とさせる空気が立ち込めるなか、怒号は何よりも優先的に皆の鼓膜に響き、視線はやせ細った一人の男に集まる。けたたましい虫の音は止んだ。
「なんでこんなクズ二人が20ポイントなんだよッ! 採点間違ってるんじゃねえのか!?」
 その男、ラングは一同の視線を浴びている事などは意に介さない様子で続ける。
「試験最中も可笑しい態度とりやがって、それを我慢してこっちは面接官を演じきったんだぞ! それなのにこいつらの点数の方が高いとは何事だ! 分かるように弁明しろよ!」
 ラングは試験中に鬱積した気持ちが堰を切って止め処なく流れ出した。それ故に彼の周りには唾がまき散らかされているが、それも気に留める様子もなくラングは異議を唱え続けた。
 ラルロはその言葉を一つ一つ、全てを聞き漏らさないといった態度で耳を傾けている。
 ラングの暴言にも似た言葉を、明らかに侮蔑ともとれる言葉を、ラルロは真剣な眼差しで全てを受け止めた。受け止めて、そして、
「貴方は、勘違いしています」
 落ち着いた声で言った。
 それは今までの様子とは打って変わって真剣な雰囲気が感じられる。
「勘違いしているだって?」
 ラングは肩で呼吸しつつ聞き返した。
「まず、貴方がここに何しに来たのかを思い出してください」
「はんっ、そんなのはニートの王になる為に決まってるだろ?」
「正解です。では、ニートの王になって何をするおつもりですか?」
「何って……グダグダ……過ごすんだよ。皆の反面教師になる為にな」
 パンっとそこでラルロは手を叩いた。
「正解ですっ」
 すると、彼女の相貌は再び以前の様に明るく朗らかな表情に戻った。戻ったのだが、それもつかの間の事で、その微笑は一瞬にして陰りを帯びる。
「それで、貴方は何をしていました?」
 ――ゾクッ、とその表情を見てナイトウは寒気を感じた。
 それはラルロの目の前に対峙している男も感じ取ったようで一瞬にして顔が強張るのが分かった。
「何って……普通に……面接を、だ、よ」
 その態度に怖気づきならもラングはさっきの勢いでギリギリ強い姿勢を保とうとする。
 バゴン!
 しかし、その強気な態度もラルロが机を叩いて粉砕して見せた途端にしおらしくなる。
「皆の反面教師になる方々が『普通』に面接官をこなしてどうするんですか。『普通』に面接をしたのならばここにいるクズ達の駄目な所が露呈して点数が上がるのは当たり前でしょう? だってニートの王を決める試合なんですから。面接官の役割はいかに試験者を『普通』の人物に見せるか、いかにお前たちはニート王に相応しくないって事をアピールしてポイントを下げるのが仕事なのですよ? それなのに――」
 ラルロは振り返り様に近くにある空席を蹴り飛ばすと、再びその席も轟音を鳴らして砕け散った。
「どうしてそんなに、『普通』な事、しちゃうかなぁ?」
 皆は黙る事しか出来なかった。当然、当事者であるラングもこの恫喝にも似た行為には流石に目を剥いているようだった。
 その屈服した態度をみてラルロは次に皆を見回して声を上げた。
「それが分かったなら面接官はとりあえず試験者を褒めて殺しなさい、試験者はとりあえず自分がニートの王に相応しい事をアピールしなさい、以上。それが分かったのならば速やかに二回戦目を開始します」
 そう言って彼女は役割カードを回収すると、再び切り始める。
 シュ、シュ、とカードを切る音はまるで得物を砥石を使って磨く音にも似ており、これにはナイトウも少し肝を冷やしていた。そのすべてをひれ伏す事ができる、圧倒的な暴力の前に。
 その性で、というのは下らない言い訳になるのかもしれないがこの時、ナイトウは目の前の狂気じみた光景に目を奪われ、いつもの冷静さを欠いてしまっていた。
 いつもならば疑問に思っていたであろう事に、微塵の疑いも持たずに、ただただその直線的な力に魅入ってしまっていた。
 しかし、惚けたナイトウを時は待ってくれはしない。
 二回戦目はそんなナイトウをしり目に、静かに幕を上げようとしていた。

       

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