Neetel Inside 文芸新都
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21才
第二回 楽しそうな佐原ともみ

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 たとえば……“自分にとってどういう立ち位置にあるのか分からんこと”を愚直に続けたとして、
何を得るものがあるのだろう。
 自分の意志の進む先に……いや、そもそも、俺に意志なんかあんのか!?
 ただ、その場凌ぎで見つけた仕事に、何となくぶら下がっているだけで――

 肩を突く、指。




第二回 楽しそうな佐原ともみ




 少なくとも、“この店にとって”――いや、“あの男にとって”俺がどういう位置にいる人間な
のかは、考えるまでもなく分かる。
 そう、考えるまでも……ヤツが俺の前でのみ発する、不快な気配、闇の奥に鈍く映る、侮蔑の感情の篭った眼光。
 誰がどう見たって、間違いない。ヤツは……ただ単に、俺を潰したいだけだ。
 愛の鞭? 断じて違う。
 ヤツにあるのは――少なくとも、俺に対してのヤツにあるのは――底知れぬ、虚無だ。
 この、地下で一人静かに、汚れてもいない皿を見ていると、落ち着く。
 “それはいけないことなんだ”……
 心は確かに、そう叫びをあげている。
 分かっている。
 そうして、何だか訳の分からないところから出ている安寧にまどろんでいるうちに、俺が死んで
いくということ位……
 分かっているのに、俺は、なんで……こんな、暗い、誰もこないような――
 
 ガシャ

「…ああ、一人いたな……」
 佐原ともみが。
「あいった、なんでこんなとこに壷が……あ、すんません音だして」
「いーよ、なんもしてねーし」

 ともみは、中卒だという。
 高校へは進学したらしいが、すぐに不登校になり、辞めてしまったそうだ。
 それからは、親の経営するこのファーアンで調理人見習いをしている。
 スジはいいらしい。さすが、名料理人だった父の子供だと……
 …だから、ともみは厨房に立っているのか?
 …いや、違う……それはきっと、ともみが俺より一年キャリアが豊富だからだ。歳は一つ下だけ
ども。
 来年になれば……俺も――!
「…ああ」
「? どうしたの、黒田さん」
「いや、今、ちょっとだけ分かった――」
「え? なに、なにが分かったの!?」
「や、こっちの話だから……」
「えー!! ハンパに匂わされると気になるぅ~!」
 …怒られるぞ。

 ああ、だから、まだ、ここから逃げ出せないでいるんだな……

 帰りの電車内で、ムダにこちらの性的衝動を煽り立てるムダにもほどがあり、でも同時に代え難
い存在でもある女子高生が一匹もいないとき、いつもまとまらない思考の糸くずを結ぼうとしてい
る。糸は切れやすく、なかなか結べないのだけれど。
 ともみのお陰か、今日気付いた。
 ただ、あまり考えたくはない。
 だって……その、“俺が店から逃げ出せない理由”は……なんとも、どうしようもなく、子供染みた、ただ意地張ってるだけみたいなものだと、今日、気付いてしまったから。

 変わりたい。

 変わるには、変わろうとしなきゃ、ならない。

 次の日、俺は、若林に、正面から――
「お早うございます!」
 気持ち悪ぃな……と言われた。




第三回に続く

       

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