Neetel Inside ニートノベル
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〜あなひだ・わたみぎ〜
Phase 6

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INSIDE(6)

『属性つきノベルジャンキーたちは明日を夢見ることができるか?』
 Act6. アキラのブログ(下)

~実加の場合 <日曜日>~

 日差しに起こされたのはまたしても昼近くだったが、またしてもなんか眠い。
 今日こそちゃんと掃除しなきゃなのになあ。
 ――でもその前に。
 まだ隣でむにゃむにゃ言ってるヒナをおいてわたしはベッドを出た。

 きのう、ヒナとゲームに熱中しちゃったし、そのあとは飲んで食って爆睡(あ、歯は磨いてる。これだけはお母さんにサンザンしつけられたから)だったから、最近としては珍しくサイトチェックしてなかったのだ。
 パソを開けて作品一覧ページへGO。
 はたしてアキラの小説はアップされてた。
 しかも、アキラの名前にはアンダーラインがついている。リンクが張られているのだ。
 そうか、ブログできたんだ!
 わたしはちょっと迷ったが、とりあえずまずは小説の方から見ることにした。

 アキラはいつも、安定してるのだ。文章量も、クオリティも。
 はたして今回分もいつもの通りのボリューム、いつもの通りの面白さだった。
 いや、いつもより、何割か増しかな?
 これもわたしに余裕が生まれたせいなのか。
 とにかく、待ってました♪ やっぱ面白いんでほっとしましたとコメ入れて(そういえばこれもはじめてだ)、わたしはアキラのブログへと移動した。


 最初の記事には、来てくださってありがとうございます。友人の助力でこのブログが作れた、この場を借りて感謝しますと書いてあった。

 ページの左端にはリンクが並んでた。
 まずは『MeetNovel』へのやつ。その下が秘密の掲示板。
 ――いや、ほんとにそう書いてあるんだから仕方ない。
 アキラって、こんなネーミングセンスだったっけ(笑)どっちかっていうとヒナに近いよこれは(笑)
 興味をそそられたわたしは、リンクをクリックしてみた。
 すると、パスワードを入れてください、と書かれた灰色のコメ板(ていうのかな)が出てくる。
 ヒントは、憧れの作者のペンネームです、とある。
 え~??
 ちょっとまってよ。
 アキラは(わたしの知る限り)SF書きだ。だからやっぱ、アイザック・アシモフあたり?
 ――結果はハズレ。アイザックもアシモフも試したが「残念です」とかえってきた。
 うーん。うーん。
 わたしはわかる限りのSF作家の名前を入れてみた。どれもハズレだ。
「え~? どーゆーこと??」
「おはよーミカ~。どしたの?」
 その声に振り返ると、そこにはすっかり目のさめた様子のヒナがいた。
「あ、ごめん起こしちゃった?」
「うん。なにそれ秘密の掲示板?」
「あ、うん。アキラがさ、ブログ作ったんだけど秘密の掲示板なんてのあって。憧れの作者のペンネームがキーワードなんだけど全然ヒットしないんだよ~。
 アキラってSF書きだし、だれかSFの巨匠とかだと思うんだけどさ。だれかそれっぽい作家しらない?」
「ん~~~。
 あのね明智くん」
「……ハイ?」
 こっほん、と咳払いをしてヒナは、ベッドに足を組んで座った。
 これは、ヒナが名探偵モードにはいった証だ。
 なんで呼びかけが『明智くん』なのかはナゾだけど(明智って探偵のほうじゃなかったっけ? まあいいけどさ)
「――まずその掲示板への入り口について考えてみよう。
 我々がわかる限り、それはただひとつ。このブログである。
 そしてこのブログはどことつながっているか?
 リンクがはってあるのはミノベだけ。よくある『管理人のサイト』すらも存在しない。
 よって、現時点でこの“秘密の掲示板”へと辿り着くことができるのは、ほぼ限られた人間だけ――ミノベからリンクをたどってやってきた読者だけ。つまり、非常にせまいコミュニティに属する、そんな人間だけだ。
 普通ならばそんな人間に対し、“秘密の”掲示板などはさらさない。
 なぜなら相手は自分の特徴をそれなりに知っている。キーワードなどすぐばれるだろう、ましてやそれが、著名な作家の名前ともなれば。
 そんなセキュリティの低い掲示板に、己の秘密など書くものがこの時代はたしているだろうか?
 いや、それはどうあれ、このアキラがそんなリスキーな真似をするだろうか。投稿作品とコメレス対応から見て、あきらかに明晰な頭脳と最低でも常識レベルのネット知識を持つ人間が。
 答えはNOだ。
 これは“秘密の”掲示板なんかじゃない――
 キーワードが著名な作家の名前なら」
 ヒナはここでわたしの目を見た。
(いや、これで目を見ないとヒナはいぢけるので見ざるを得なかったんだけど)
「そうでない場合話は全く変わってくる。
 通常では察し得ない名前がキーワードである、ということは、これは事実上、招待制の掲示板であるのと変わらない。
 自らの選んだもののみを入場させ、それ以外のものを排除する。
 なぜか? そこには彼の“秘密”があるからだ。
 いや、そうでないというほうが不自然だ。
 そもそも“秘密”の名を冠した秘密でない掲示板など、作るメリットが彼にあるだろうか。アキラは更新頻度は高いが、文章量は少ない。非常に多忙な人間と推察される。つまり多少のメリットでそんなものをつくっているヒマがあるとは思われない。実質“秘密でない”掲示板なら、このブログひとつで充分だろう。
 これはホンモノの“秘密の掲示板”だ。
 よってこれのパスワードは『通常では察し得ない名前』、つまり『世間的には著名ではないが、アキラ本人は私淑している作者』のペンネームであるということになる。
 ここで、わざわざ作『家』でなく作『者』とされていることにも注目しよう。
 そのものは、プロの『作家』ではないということになる。すくなくとも、アキラの知りうる限りでは。
 さて、ここで最初の考察に立ち戻ろう。
 この掲示板にこられるのはミノベ読者だけ。
 そんな掲示板に、『アキラ本人は私淑している作者』のパスワードロック。
 となれば、対象はおのずと絞られてくる――」
「まさか」
「そう。
 パスワードになっている名前は、ミノベ作者のなかの誰かよ!」
「…………長っ」
「だまらっしゃいv」
 わたしの脳天にヒナの手刀がめりこんだ。

「でもそっか、なるほどね。ミノベで書いてる作者か………
 やっぱあの人かな」
 わたしは、作品を発表すればつねにコメ数ランキングの上位に並ぶ、何人かのペンネームを入力してみた。5人入れた時点でヒットなし。
「なんだかなあ……」
「いや、他人の評価のっといこーる自分の好みじゃない?
 だってミカの憧れのアキラだって、トップグループじゃないでしょ」
「確かに……」
 今名前を入れた5人の作品は、確かに面白い。というか正直更新を楽しみにしている。
 新作発表されるとやっほーいとか思ったのだ、最近のアンダーなわたしでも。
 でも、それはアキラに対する感情とは、違う。


 アキラに対しては、もっと――

 トップ5のひとたちは、どれだけ面白いものかいてても、けっこう普通に読んで楽しめる。そして読み終わっても『あー面白かったー♪ 次回もたのしみ♪♪』でオシマイ。
 でもアキラのは。
 単に面白いなんて、客観視してられない。
 更新分が面白いと読んでてすごく楽しい。
 でも、おなじだけ嫉妬心も増すし。
 けど昨日みたく更新ないと、すごく心配で――
 もしもこのクオリティがくずれていったらとか投げられたらとか考えると、ドキドキする。怖いもの見たさと、そんな見たくないというのと……

 連載終わるたび不安になる。これで終わったらどうしようと。
 このひとが世界から消えてしまう、そんな気がして。
 新作出るたび、マウスを持つ手が震える。
 今回はもう読むのやめようか、こんなに心が乱れるなら、そんな風に悩んで、それでも結局クリックして、読み始めてしまう。
 そしてまた喜んで落ち込んで、の無限ループにはまるのだ。

 ――いっそこのひとがわたしのものだったら。そんな風にさえ思う。
 いっそ彼もそう思っててくれたらこの苦しさも半分になるのに。

 馬鹿な妄想だけど、本当にそう思うのだ。


 次の瞬間、わたしは入力してた。
 わたしのペンネームを。


 ――M、I、/、K、A――


『パスワードを受理しました』


 わたしは腰からくずおれた。

 涙で曇る掲示板には、言葉はずっと控えめだけれど、おんなじ想いがつづられていた。


     

OUTSIDE(6)

***ミサキ:@自宅パソ前 なう***

 どんでんがえしは、なかった。


 数日の準備期間をおいてアップされた数話ぶんは予想通りクライマックスだった。
 たぶんここで、もしくはこのいきおいのまま、エンドだ。
 そしてその内容は、またしてもわたしが体験したこととほぼ同じ。

 ということは。

 信じたくない。信じられない。
 アキラは――アキは。
 ミカと――わたしと。

 同一人物だなんて。

 だってそうでしょ? わたしにはアキの記憶なんてない。あんな文章だってかけない。
 わたしはアキじゃない。だってブログだってやってない。
 あたしのコメにちゃんとレスだってきてる、ちょっとぶっきらぼうだけど優しいレスが。わたしはこんなの書いてない。かいてないよ。

 わたしは秘密の掲示板をひらいた。

『アキ。この話、わたしたちのことなの?
 うそだよね? 信じられない。
 だってわたしはアキじゃないよ?
 だってわたしはアキのことが』

 ここまで打って、わたしははっとした。
 もし。もしもわたしとアキが、本当に同一人物なのだとしたら?
 おかしいよね。こんなこといったら。
 はたから見れば最悪の馬鹿者じゃないか。
 でも。

 ――でもわたしは、アキが好きだ。

 わたしは腹を決めてうちこんだ。


『すきです』


 今日は、このまま待っていよう。
 ここに反応があるまで。
 アキが、返事をしてくれるまで。
 だってわたしはアキじゃない。
 アキはわたしじゃない。確かめるんだ。みて確かめるんだ。

 そのとき、ケータイがなった。
 もう、そんな場合じゃないのに。
 おもいつつケータイを手に取ると、かけてきたのはヒカリだった。

「もしもし」
『もしもしミサ?
 読んだ、アキノくんの小説?』
「読んだよ?」
『……どう、おもった?』
「すごいよね今回の設定。びっくりした。さすがはアキってとこかな」
『そうじゃなくて』
「………ほんとにそんなのってあるのかな?」
『ある、ていったら?』
「ないよ。わたしがミカならまってるもん、アキラからレスレス来るまで。
 わたしも今日は待ってる。アキからの反応あるまで。
 だって信じられないもん」
『……更新があったとしてさ。
 それが、アキノ君がやったんだって、どうしていえるの?
 それだけじゃアキノ君が、ミサと同一人物じゃないって証拠にはならないよ』
「ヒカリ。なんなの?! どうしてそんなこというの?!
 わたしはアキじゃないよ。ぜったい違う。だってわたしはアキがすき」
『はっきりさせなきゃ進めないよ。
 たとえばふたりが両想いでも。
 だったらだからこそ、ハッキリさせなくちゃ』
「……………」
『ミサ。あたしだってミサがいやがること、、そんな言いたくないよ。
 おねがい。
 証明できたらもう、……二度とこんなこと言わないから』
「どうするの」
『あしたミサんちに泊めて。
 一晩長回しでビデオ撮るの。
 あたしと、眠ってるミサと、パソコンの画面が入るようにして。
 念のため、アキノ君には明日もブログ更新してくださいってお願いしといて』
「もしわたしが真夜中起き上がって更新したりすれば……」
『そういうこと』
「わかった。そうしよう。
 わたしはぜったいそんなことしない。だから、それを証明する」
『うん。
 ビデオカメラとかはあたし持ってく』
「じゃ、ごはんとお酒はわたしが用意するね」
『あ! あたしも持ってく。こないだ親戚のひとからもらったお酒あるから』
「ありがと。でも重かったら無理しないでね」
『うん。
 じゃ何時ごろいく?』
「明日って土曜日だよね。ヒカリも掃除あるし、午後でいいよ。適当にきて」
『わかった。じゃあおやすみ』
「おやすみ」

       

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Neetsha