Neetel Inside ニートノベル
表紙

〜あなひだ・わたみぎ〜
Phase 3

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INSIDE(3)

『属性つきノベルジャンキーたちは明日を夢見ることができるか?』
 Act3. 奈落→天国


~アキラの場合~

 今日もだった。
 短くなっていた。きのうと比べて三割程度は確実に。
 三割分へってしまった楽しみを、補うべく俺は今回分をもう一度読み直した。
 それでもなんとなく物足りない。
 そういえば最近、MI/KAの小説は一回が短い。
 そうだ、コメ入れよう。もっと読みたい、と。
 俺の経験から言って、そういうコメをもらうと、翌日の文章量は1.5倍程度になる。
 さっそく『サスペンド・エンド』コメページを開く。どうやらここ一週間はコメがついてないようだ。まあいい、それは俺が今入れる。
 しかしそのとき――がくりと首が落ちかけた。こみ上げる眠気。こうなると俺はもう文章なんかかけない。
 くそ、MI/KA。明日まで待ってくれ。間違っても、投げるな。
 俺にとってはお前の小説が――



~実加の場合 <水曜日>~

 わたしの気分は限りなく直線に近い下降カーブを描いてた。
 口紅もうまくぬれない。仕事でミスもしてしまった。
 おかげで残業。ごはんは外でひとりで済ませた。
 お酒は飲まなかった。だってまだ、小説が残ってる。
 書かなくちゃ。ダメなのはわかってる、けど書かなくちゃコメもらえるかもしれない、ちょっとの可能性すら潰えるんだ。
 書き続けなきゃ。毎日更新して、リストの上の方に名前を持ってくる。すこしでも名前を覚えてもらって見てもらう可能性を増やす。ちょっとでも文章がマシになるよう書き続ける。それくらいしかわたしのとれる戦略なんかない。
 ――晶<アキラ>。あなたはこんな風に苦しんでないよね。
 だってあんな文章書けるんだもの。
 人間としての基盤が違うんだもの。
 うらやましいよ。うらやましいよ……
 わたしはひとり、がらんとした車内で泣いていた。
 大丈夫、口紅ももう落ちている。
 いやそれより、ここで泣くのは時間の無駄だ。
 仕上げなくちゃ。この電車がわたしのおりる駅に着くまで。
 ハンカチは嫌いだからもってない。わたしは、手の甲で乱暴に涙をぬぐって、にじむディスプレイに意識を集中させた。



~アキラの場合~

 大急ぎで『サスペンド・エンド』コメページを開く。くそ、やってしまっていた。
 コメページにはわけわかんない文字の羅列が表示されていた。
 昨日、意識が朦朧としていたせいで、コメ入れ失敗したのだ。
 くそ、なんてことだ。よりにもよってMI/KAに。
 俺のせいなのか。今日の分がえらく短いのも、クオリティ保持のための努力のあとがいつにもまして見えまくりなのも。
 挽回の方法はただひとつ。正直に白状するのだ。

『↓投稿失敗スマソ。MI/KAの小説はいつも読んでる。ガンバレ』

 読んでくれ。読んでくれよMI/KA。
 MI/KAの投稿時間はいつも俺より早い。だから多分、みるのは明日になるだろう。
 でもそれで間に合うか――
 俺は神に祈っていた。頼む、一度でいい。投げる前に一度……



~実加の場合 <木曜日、金曜日>~

 はいってたコメはわけわかんない文字の羅列でわたしは脱力。泣く気さえうせた。
 だからその翌日、正直休もうかと思った。
 でもわたしはひとり暮らしだ。いざというときのため、有給は無駄遣いできない。
 それに――
 電車に乗らなきゃ小説かけない。
 熱っぽい気がする。正直気が重い。でもわたしはそんな自分を引きずって会社に行った。

 勤務時間中のことは覚えていない。

 今日は、晩ご飯いらない。食べる気にならない。
 わたしは電車のドアにもたれ、必死で文章を打ち込んだ。
 正直――めたくそだ。頭にきていっぺん全部けし、書き直した。
 結果、クオリティはちょっとましだけど、ずいぶん短いものになってしまった。
 短いぞって叩かれればちょっとはマシかな。いやわたしにはそんなこともないけどさ。
 自嘲してわたしは、いまいちどデータを消したくなる前に、それを投稿してしまった。

 しかし夜明け前、奇跡は起きた。

 ピリリリリリリ、という音で目が覚める。
 わたしの頭はノートパソのキーボードを枕にしていた。どうやら、音はそれが原因のようで頭を離すと数秒後に消えた。
 ゆうべ――ベッドに戻る気力もなくてうつうつとしているうち、寝落ちしてしまったようだ。
 ああ、パソ消さなくちゃ。そして、寝なくちゃ。
 そうしてディスプレイを見たわたしの目に飛び込んできたのは燦然と輝く。

『↓投稿失敗スマソ。MI/KAの小説はいつも読んでる。ガンバレ』

 ――こんなことが。こんなキセキが。
『ありがとうございます。書いててよかったです。これからもがんばります!』
 わたしは泣きながらコメレスして、そのままベッドに飛び込んだ。
 久しぶりに、すごく久しぶりに、嬉しくて泣いて幸せに眠った。


 そしてその翌朝は。
 目覚めスッキリ六時前。
 お肌の調子がいいのでひさびさにファンデまで塗ってしまった。口紅だってうまくぬれた。
 仕事も順調で、ボスにほめられてしまった。
 いつものランチメニューもやけにおいしい。
 ヒナは『よっしゃ今夜は祝杯あげるぞ!』て喜んでくれた。
 もちろん残業なんてハメにもならない。わたしたちは意気揚々と会社を出た。

 わたしとヒナは、子供のころからの付き合いだ。
 最近は行き来することも少なくなっていたが、お互いのウチは知っている。
 だからわたしたちは一旦解散した。
 わたしは、ソフトドリンクとお菓子を調達したのち、片付けの最終確認に。
 ヒナは、料理とお酒とDVDを調達に。
 通勤ルートが違うので電車の中では、いつものごとく書きまくりだったけど。
 いうまでもなく調子はよくて、というかもう絶好調で、昨日に比べたら三倍はあるんでないかというボリュームをわたしは書き上げることができたのだった。
 きっと昨日の人も読んでくれるよね。
 また、コメもらえたらすごくうれしいな。
 いや、読んでもらえるだけでもうれしいよ。
 そんなことを考えながら、わたしは今日の分を投稿した。


     

OUTSIDE(3)

***ヒカリ:@自宅パソ前 なう***

 真夜中すぎ、秘密のチャット板を開いたあたしは驚いた。
 アキノがさきにログインしている。
 珍しい。
 まあ原因は、あたしがばかみたくいつも、板にはりついてるせいなんだけど。

 あの日以来。
 またアキノが再ログインしてくるんじゃないか、と思うとなかなかログアウトできなくて。
 貴重なアキノとの時間を、あたしの都合で削ることは嫌、と思うといつも早めにログインしてしまって。
 いつも、アキノを待ってしまう――

 でも今日は何かが違った。
 あたしは全速力でキーをたたきログインした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ピカりん☆ がログインしました。


ピカりん☆: へいへーい、ピカだよーん。どしたよアキノちゃん

アキノ: 気づかれたかも知れない。いまブログで聞かれた

ピカりん☆: なんて?

アキノ: 引用させてもらう

> 昨日の『ノベジャン』読んだよ! 今回も面白かった♪
> ミカとヒナの会話なんか、リアルすぎでびっくりするくらい。
> アキってほんと何でも書けるんだね……なんかまたうらやましくなっちゃうかも☆
> うそうそ。
> わたしと会話すると創作意欲わく、てあなたにシットなんてもう出来ないから///
> ミカが悩んでるシーンのリアルさとかも、あれ、あなたの実体験があるんだよね。
> なんていうかもうぎゅっとしたいでしゅ//▽//なんちて(^^ゞ

> それはそうと、じつはちょっと気になったことがあって。
> カンチガイだったらゴメンね。
> アキひょっとして、わたしの友達の誰かと友達だったりする?
> だってあの会話、ちょっと前にわたしが、友達とした会話にすごく似てる気がしたから……
> ほんとに、間違いだったらゴメンね。

以上。
とりあえず、まだネタばらしは先にしたい状態であることに変わりはないよな

ピカりん☆: ああモンダイなっしんぐよ。
『今度やつがきたとき聞いとく』って書いとけば。
アキノちゃんは自由に出歩く余裕とかないし、まだ会いに来てくれないっつーことで回答いくらでも伸ばせるス☆
名前を伏せることも、個人情報だしOKしてくれるんじゃないかな?
とりあえずそれでとどめといて、こっちは残りのぶん一気に仕上げて投稿しちゃおう。
延ばせば延ばすほど偽装、難しくなるしさ。
ほれそうと決まったらすぐ返事しといで♪ 可愛いカノジョがすねちゃうぞ♪♪

アキノ: TNXわかった。
つかほんとお前の脳すげーな

ピカりん☆: 脳あるタマはツメを隠すのさ♪

アキノ: それはタカ
んじゃ

ピカりん☆: ういっす

アキノ: あ、今回ぶんも採用


 アキノ がログアウトしました。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 聞きたかった言葉は一番最後に滑り込んできた。
 だからその日もあたしは、次回分を執筆しつつも、寝オチ寸前までチャットにいた。
『それは能』ていうツッコミもこないかな、なんて思いながら。


       

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