Neetel Inside ニートノベル
表紙

ひつまぶし短編集
「犯人はお前だ!」

見開き   最大化      

「犯人はお前だ! 被害者をこの杖で殴ったんだ! 杖と言えば老人。この中で該当するのはお前だけなんだよ!」
「違いますよ。だって、その杖って被害者のものじゃないですか」
 おばあさんにそう言われた君島はばつが悪そうだった。
 とあるレストランで起こった殺人事件。倒れているのは、白髪の目立つ定年は迎えているだろうお爺さんだった。頭から血を流しており、これが致命傷となった。凶器は杖。柄の方に血痕が付いている。彼自身が持っていたものだ。
 この場所にいるのは控えめなおばあさん(69)、怪しいオッサン(40)、やくざっぽいお兄さん(25)、色気のある女子高生(17)である。
 そして探偵役はさわやかスマイルにあう好青年、君島幸助(19)。ただし自称である。
「ならお前だ! 宗教じみてる、さっきから幸せの壺を売りつけようとしたオッサン! 買ってくれないもんだからついうっかりその壺で殴っちゃったんだろ!」
「凶器は杖なんでしょ? まぁ、この壺を買っておけばこの方は助かったかもしれませんがね……。貴方も一つどうですか?」
「いらねぇよ!」
 オッサンはその後、ひひひ、と怪しい声を出していた。
「んー、とするとお前か! お兄さん! 理由は――まぁぶっちゃけ見た目だ!」
「人を見かけで判断スンナや! 東京湾沈めるぞコラ!」
「ひいいい。すんませんでした」
 お兄さんの凄みと、元来君島がビビリなのがあいまって瞬間的に土下座まで作らされる格好となった。
 しかし、探偵役はそんなものには屈しないのだった。まだ容疑者はいる。お兄さんにお許しをもらった後、矛先は最後の容疑者女子高生に向いた。
「なら犯人はお前だ! 女子高生! お爺さんをたぶらかそうと思ったけどなんか上手くいかなくてつい殴ってしまった! そうだろう!」
「ちげーし! なんでこんなジジイたぶらかさなきゃなんねーんだよ。大体アタシ彼氏いるから!」
「いや、だからその彼氏に愛想尽かして……」
「だったらもっといい男狙うわ!」
「まぁ、証拠は残念ながらないしな。うーん、これは迷宮入りか……。犯人め、一体どんなトリックを使ったんだ」
 君島が右手を考える人のように顎に当てていると、オッサンが手を上げた。
「あのー」
「ん? なんですか?」
 オッサンは多少、言っていいか否か考える風を見せながらも言った。
「あの、私、犯人わかっちゃいました」
「え! 本当ですか!」
「ええ。というより、最初から気付いていたと思いますが。貴方も含めて」
「ん? そうなると、僕は犯人が解っているのに未だ捕まえていない……つまり何故か捕まえないようにしているということになりますが……」
「それはそうでしょう、だって」
「――貴方が犯人なんですから、君島さん」
「え」
「そうでしょう?」
「い、いや、何を言っているんですか! あなた達。それだとモーセの十戒を破ってしまうじゃないですか」
「誰も貴方が探偵役とは言ってないでしょう。あくまで自称。それにこんなふざけた事件、というとこのおじいさんには悪いですが、推理小説なんかにカテゴライズされないでしょう。精々コメディがいいところで。……というほど笑いも取れてないでしょうけど」
「メタ発言禁止!」
「いや、それは貴方が言い始めたことでしょう。十戒って。誤魔化すのは諦めていい加減認めたらどうです?」
「わ、罠だ。これは罠だ! オッサンが僕を陥れるために仕組んだ罠だ! だっておかしいじゃないか。第一証拠も何もない!」
「……あるじゃないですか。その、返り血をいっぱいに浴びた顔。服は変えたのかもしれませんが、どうしてそこまで気が回らなかったんですか。こんなの探偵じゃなくてもわかりますよ」
「あ、あああ。あああああああああ」
「……いんだ」
「は?」
「あのジジイが僕のショートケーキのイチゴを食べたのがいけないんだ! ボケてるくせに食の色気だけは出しやがる! 折角最後までとっておいたのに!」
「はぁ」
「最近の若者が切れやすいって本当なんですね」
「若者ってあいつがそうならアタシもじゃん。やだ、一緒にしないでよ」
「ああ、ごめんごめん」
「で、どうします? このグダグダ感」
「さぁ? 俺ぁ知らねぇよ」
「ちょーだりーんですけど」
「このまま終わるのがいいんじゃないですか?」
「だな」
「だねー」
「では、そうですね。お終いということで。めでたしめでたし」
 ザ・グダグダフィニッシュ。

       

表紙

近所の山田君 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha