Neetel Inside 文芸新都
表紙

和泉新斗物語
第十三話「開幕!地獄の体育祭」

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新都学園、体育祭。
僕らはクラス毎に、グラウンドに整列していた。
まだ暑さが残るため、体操服は早くも汗でベッタリしている。
朝風呂に入った意味も無くなる程にだ。
全校生徒はその暑さのためか、ほとんどが気だるそうな顔をしていた。
そんな中、やはり体育祭でも彼の挨拶はあった。

新都学園、園長。

体育祭の開会式で、彼は空気を読まずに長々と語っている。
学園長(52)既婚、円形脱毛症の話になんて全く興味は無いのだが。
という以前に、体育倉庫に隠してあった美少女フィギュアの片付けは終わったのだろうか?
明に弱みを握られて、裏で脅されたりしていないだろうか?
もしそんな事をしていれば、間違いなく明は広報部などでは無く諜報部だ。
いや、そんな部活なんて無いけれど。
体育祭の挨拶なんかより、僕は学園長の事の方が数倍気に掛かるのだが。

そんな事を長々と一人考えていても、学園長の挨拶は一向に終わる気配を見せなかった。
僕は退屈のため、早くも欠伸を漏らしていた。

「ふぁ~・・。」

眠気と退屈で呼び出された欠伸は大きく、今にも眠りそうだった。
瞳からこぼれる涙を手で拭い、目を擦る。

「おい、和泉。」

僕の後ろから、春日が小声で話しかける。
汚れた体操服を着て、まさにスポーツ少年といったオーラをかもし出している。
いや、もはや貧乏少年と呼ぶべきであろうか。
とにかく、その体操服は洗濯するべきではないだろうか。

「何だよ、朝っぱらから~。」
「お前、やる気あんのか?まだ開会式なのに、欠伸してんじゃねーよ。」
「あぁ・・ごもっとも・・。」

いきなり優勝を誓った事を忘れていた。
これだから最近のオサボリ系主人公は困る。
僕は自分の顔を軽く二、三度叩くと、気合を入れなおした。

「もう大丈夫!優勝する気で行くから!」
「おう!その意気だぜ!」

無駄に気合を入れる僕らを尻目に、学園長の挨拶は長々と続いた。
終始美少女フィギュアについてが気に掛かっていたのは、秘密にしておこう。


開会式が終わると、クラス内で班毎に集った。
B班は予想通り、僕と春日以外のメンバーはやる気無さそうにしている。

「あ~ぁ、面倒くさいわね。」
「全くだす。あ、朝っぱらから・・。」

早くも文句をたれている明と朽木を見て、僕は思わず喝を入れてやりたくなった。
だが、明の巨乳を強調する体操服だけは褒めてやりたい。
素直にそんな事を思ってしまったのも、秘密にしておこう。

「おいおい、二人供。まだ始まってもないのに、そんなに嫌そうにするなよ。」
「・・あんた元気ねぇ。」
「い、和泉君、珍しくやる気だすね・・。」

確かに、ここまでやる気に満ち溢れている僕は珍しいかもしれない。
体育祭なんて別に好きでもないし、面倒くさいと思うはずなのに。

僕はすぐ隣で、猫に餌をあげている神無さんを見つめる。

きっと体育祭を楽しむことが出来れば、彼女との気まずい雰囲気も、
その楽しさに紛れて、修復できるんじゃないかと思っていた。
当然、ロリっぽく着こなした体操服に見惚れていたのもあるが。

「と、とにかく。僕は体育祭を楽しもうって決めたんだからさ・・。」

僕が柄にも無くそんな話をしていると、聞き覚えの無い声が聞こえる。

「良いこと言うねぇ~、和泉君!」
「は?」

とっさに振り返ると、そこには見たことの無い少女が立っていた。
黒いショートの髪と体操服がとっても似合う、元気そうな可愛い笑顔の少女が。

「えーっと・・どちら様でしょうか?」

尋ねると、彼女が答えるより先に春日が口を開いた。

「ん、真波じゃん。お前何でここにいんだ?」

どうやら春日と知り合いの様である。

「何でここにって、ひどい事言うねぇ。」
「はぁ?何がだよ。」
「翼に挨拶しに来たに決まってるじゃない。」

あぁ、そういえば春日の下の名前は翼って言うんだっけか。
完璧に忘れていたけれども。
というか、春日にこんな可愛い女友達が居るなんて全く想像できなかったのだが。
学園でも、明と神無さん以外の女子と話しているところも見たこと無いし。
実は兄妹とか、そういうオチが用意してあれば僕も納得できそうなのだが。

「何が挨拶だよ。お互い体育祭頑張ろうってか?」
「うーん、まぁそんな感じかにゃ。」
「悪いけど、今年の優勝はウチが貰うぜ?」
「言うと思ったよ。でも、ウチも負けないからね?まぁ、お互い頑張ろう。」
「はいはい、お前は程ほどにしとけよ。」

少女は春日との会話を終えると、軽く僕らに会釈しながらその場を去った。

「春日、今の子は誰?」

僕が春日に問うと、春日は面倒くさそうに話した。

「あ~、そっか。お前にまだアイツ紹介してなかったっけか~。」
「何だかあの子、僕の事知ってたみたいだったけど・・?」
「あぁ。あいつ相坂真波(あいさかまなみ)って言ってさ、俺の幼馴染なんだよ。」
「お、幼馴染?」
「そそ、家が隣でさ。真波にはお前の事話したりしてたからさ。」
「へぇ~、そうなんだ。」
「まぁ、あいつC組で学校じゃあまり会わないし、お前がアイツを知らないのは無理も無いけどな。」

幼馴染ねぇ・・。
あんなに可愛い女の子が、春日の幼馴染だなんて信じられない。
まぁ、彼女もこの学園の生徒なのだから、どうせ変わり者なんだろうとは思った。

「そんなことよりよ、俺らの班の午前中の競技は何だ?」
「あ、そうだね。プリントは明が持ってたっけ?」

明は体操服のポケットから、しわくちゃになったプリントを引っ張り出すと僕に渡した。

「・・しわくちゃじゃないか・・。」
「うるさいわね、持ってるだけありがたいと思いなさい。」
「・・わかったよ。」

僕は渋々ながらも、しわくちゃのプリントを手で広げる。
このちょっと湿っているのは、明の汗なのだろうか。
・・気がつけば変態的な事を考えていた自分を、殴り飛ばしたい気持ちになった。

「え~っと、B班の競技は、っと・・。」
「どれどれ?」

午前中の第一競技は、しっぽ取り。
その次に、騎馬戦がある。
そして昼食を挟んだ午後は、クラス対抗の短距離走や長距離走。
最後はフォークダンスでフィニッシュの様だ。

「何だ、班毎に競技が分かれるのは午前中だけなのか。」
「毎年そうだぜ?」
「いや、僕今年からだし。って言うか何だよ、しっぽ取りって・・。」


小学生じゃないぞ、と言いたかった。


グラウンド中で、様々な競技が行われている中。
しっぽ取りに参加する各クラスのB班が、グラウンドの中心に集まる。
それぞれ体操服の腰の辺りに、各クラスのカラーのしっぽを挟んでいる。
B組みである僕らには、青色のしっぽが配布されていた。
何だかしっぽの根元の部分に、黒い箱がついているがこれは何だろうか・・?

ちなみに、ルールは実に単純だ。
一年生から三年生までの、A~E組までの五クラス。
その五クラスの中のB班のみが、この競技に参加する。
各クラス五人参加で、学年の壁を越え、同じアルファベットのクラスは仲間である。
つまり、十五人の仲間達と協力し、いかに他クラスの選手のしっぽを奪うかだ。
しっぽを奪われた生徒は退場で、制限時間内に多くしっぽを取ったクラスの勝利だ。

と、ここまでだと普通のしっぽ取りのルールである。
その時、僕はルールが書かれたプリントの端に目を止めた。

「・・新都学園専用、しっぽ取り特殊ルール・・って?」

そこには特殊ルールなるものが書かれていた。

体育祭を盛り上げるために、特殊なしっぽを使用。
本来ならばしっぽ取りのしっぽはビニール製だが、本学園は違う。
本学園の特殊しっぽは、電脳部が制作したものである。
しっぽを引き抜かれる瞬間に、根元に装着されたブラックボックスより、
全身に向けて電気ショックが流れる仕組みになっている。
これは体育祭を盛り上げるためのもので、規定以外の使用を禁ずるとともに────以下略。

「・・・は?」

全身に向けて電気ショックって何?
体育祭でこういうの、普通ありえなくないか?
いやいや、というか電脳部が制作したしっぽとか意味が分からない。

僕がプリントを睨んだまま固まっていると、明が声を掛けてきた。

「何してんの、和泉君?競技始まるわよ?」
「あ、明・・。特殊ルールって・・電気ショックって・・。」
「ん、あぁ~。これ、いつもの事よ?」
「いや、いつもの事って。そんな簡単にさ・・。」
「はは~ん、さてはビビってるわね?」
「いや、電気ショックだよ?流石にビビるだろ、普通・・。」
「大丈夫、大丈夫よ!」
「何がどう大丈夫なのか、五十文字以内で説明してくれ!」
「しっぽを取られなきゃいいの。」


わずか十三文字だった。


「それでは、今よりしっぽ取りを開始します。参加選手の皆様、準備はよろしいですか?」

アナウンスがグラウンド中に響き渡る。
いくら毎年の事かは知らないが、どうしてたかが体育祭に体を張らなければならないのだ。
というか、毎年こんな無茶苦茶なことを行っているこの学園は、やはり普通では無い。
文句も言わずに参加する生徒も、やはり変人に違いない・・!

家に逃げ帰りたい衝動を抑えつつ、僕は神無さんに視線を送る。

彼女みたいなか弱い少女が、こんな危険なスポーツに参加するなんて。
一体世の中どうなっているんだろう・・。
一人頭を抱えていると、神無さんは僕の視線に気付いたのだろうか。
数秒僕を見つめた後、彼女は何かを決めたかのように僕の元へと駆け寄って来た。
一瞬困惑した僕だったが、その場を動かずに彼女を待った。

「あ、あの・・・。」
「・・な、何かな・・?」

心臓の音が聞こえる。
鼓動が早くなっているのが、自分でわかる。
何だか気まずさのせいか、ものすごく緊張してしまうのだ。
クラスメイトに声を掛けられるだけで、この緊張具合だ。
情けないなどの域をとっくに超えてしまっている・・。
またもや逃げ出したい衝動に駆られながらも、何か言いたそうな神無さんと見つめたまま、僕はただ静止していた。
すると彼女は少し言いにくそうに、だが強い声で僕に言った。

「え、えっと・・頑張りましょうね・・。」

彼女はそれだけ言うと僕に背を向け、自分の定位置に戻った。
神無さんの背中が、いつもより小さく見える気がする。
そんな彼女の背中を見つめながら、何も言い返せない自分が憎かった。
春日、朽木、明も特に競技を嫌がる事も無く、定位置で競技の開始を待っている。
神無さんも普通の表情のまま、準備運動をしているようだ。

そうだ、一体僕は何を嫌がっていたのだろう。
確かに危険で馬鹿げた競技だが、優勝したいと誓ったハズだ。
それに、仲間が皆やる気になっている。
こうなれば、もはや腹をくくって参加するしか道は無いんじゃないだろうか。

「それでは、まもなくしっぽ取りを開始します。・・・3,2,1・・」

無情にも競技の開始を告げるアナウンスが響く。
あぁ、どうせもう逃げられない。
逃げられないなら、もう頑張るしかないじゃないか。

「競技開始!」

僕は競技開始とともに、思いっきり敵陣に向かって走り出した。
もう、思いっきりやるしかないのはわかってしまっていたから。

「うおぉぉぉ!もうどうにでもなれぇぇぇ!!」

そう叫びながら、僕はただ真っ直ぐに猛進した。

       

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Neetsha