賭博神話ゼブライト
15.遥かな未来にグッドバイ
窓ガラスの向こうで飛行機が斜めに飛んでいった。
よくもまァあのバカでかい図体で浮かんでいられるものである。
あれに乗るはずだったんだなァ――と雨宮は手元のチケットと旅客機を見比べた。
シマは約束の時刻に現れなかった。
自分は、と雨宮は思う。
いったいどちらを望んでいたのだろう。
本当にシマと大陸に渡って麻雀地獄に明け暮れてみたかったのか、それとも、やはりやつを『先』に進めてみたかったのだろうか。
自分や天馬が変われたように。
嶋あやめのことも、変えてみたかったのか。
もっともそれは雨宮の役目ではなかった。結局、彼は肝心なときに脇役にしかなれないことを自覚している。
ありとあらゆる言語と人種が入り乱れたロビーの椅子に腰かけながら、とんとん、と肩を叩かれた。
見ると頬に傷をつけ、サングラスをかけた男が立っていた。
男が言った。
「シマは来なかったか。ふん、あいつが人の言いなりになんてなるわけがない」
「かもなァ」
ぷかぁ、と雨宮は一服した。
何を見るでもなく、紫煙のゆらめきに見とれている。
「でもよ雨宮。どうして乗らなかったんだ? べつにシマがいなくたって俺とおまえなら百人力さ。誰にだって負けやしねえ」
「かもなァ」
「うん。――聞いてる?」
「かもなァ」
はぁ、と男はため息をつき、サングラスを外した。
途端に現れた少年の顔に通り過ぎる旅客が意外そうに眼を瞠って通り過ぎていく。
「これからどうするんだよ。いまんとこ、どこにもカモの噂も流れてねえし」
「うるさいよ、おまえ」
「雨宮――」
「俺はな、フラレちまったんだよ。少しの間くらいへこませてくれよ」
「へ?」
「本当におまえは天馬に負けず劣らずニブチンだな、昔から」
思わず浮かべた苦笑は、友人に向けるものと言ってよかったかどうか。
「なァ倉田――」
倉田は肩をすくめて、付き合いきれぬとばかりに去っていった。