Neetel Inside ニートノベル
表紙

炎上作番デスマチセブン
エピローグ

見開き   最大化      

 バッチの緊急対応以降、自社に対する周りからの風当たりが弱くなっている、と赤坂は思う。
 リーダー会議に出ても以前ほど作業をふられることはなくなったし、作業量が多すぎるという陳情はすんなり受け入れられて、作業量の再調整が行われることが約束された。
 意見が通りすぎて気味が悪くなったので依代に相談してみたが、彼女自身はいつもと変わらずニコニコ笑顔で「意見が通ってるならいいんじゃないの」と言う。赤坂自身も気味の悪さを感じているだけで実害がないため、何も言えなかった。
 昼ごはんを一緒に食べに行った埠頭にそのことを話してみると、依代とは少し違う反応が返ってきた。
「確かになんか引っかかる節はあるね。誰かがまんべんなく弱みを握っているとか、あるいは」
「あるいは?」
「私の美貌にみんな恐れおののいて遠慮しちゃったりなんかしちゃったりしてるんじゃないかな。あっはっは」
「このオムライス卵が半熟で超美味しいー」
「おい」

 舞浜佐波雄は、ますます肩身が狭くなっていた。
 もともと男が自分しかいない状況に加えて、最近は上中里が自分に対して敬語を使わないようになった。赤坂に注意するよう伝えたが、赤坂のいないときはやはりタメ口で偉そうに指示をしてくる。
 そんな折、舞浜のPHSに、外線で電話がかかってきた。
「はい、舞浜です」
「おう、ひさしぶり。元気でやっとるかい」
 忘れたくても脳の片隅にこびりついて離れない不快な声の主について、舞浜は必死に思い出さないよう努力したが、無駄だった。
「あ、名乗らないとわからないかな?海上ですよーわっはっは」
「うるせー!」
「あ?今何つったお前」
「あ、すいません。周りのやつが少しうるさかったもんで、黙らせてやりましたよ。ハハッ」
 鼻をほじりながら舞浜はいい加減に答える。
「で、どうしたんですか急に?今何やってるんです?」
「いや、そろそろほとぼりも覚めた頃かなーと思ってな。俺は今上の階で作業してるわ」
「同じビルにいんの!?まじパネェっす。肝太すぎっすよ」
「まあそんなにほめるなよ」
(ほめてねえよ)
 自社のメンバはこのことを知っているんだろうか。特に赤坂はこの事実を知ったらすごいことになりそうな気がする。
 会話を聞かれることを嫌った舞浜は自席から離れ、ドアの外にある踊り場の壁に腰を預けた。
「海上さんいなくてマジ大変なことになりましたよ。今同じビルにいるってこと、俺以外のやつは誰か知ってるんすか?」
「言うわけねーだろそんなこと。俺フルボッコにされちゃうよ」
「ハハッそうすね」
(おれもしたいしね!)
 話せば話すほど怒りが湧いてくるので、握りこぶしで壁を打ち付けないようコントロールするのが大変だった。
「海上さん抜けて男俺ひとりでしょ?色々やりづらいっすわ。しかも最近上中里からタメ口使われてるんですけど」
「ああ、お前知らんのか。上中里は院卒だぞ。お前より年上だわ」
「な、なんだってー!どういうことだキバヤシ!」

「あ、舞浜さん、やっと戻ってきましたね」
「なに?どしたの?」
 珍しく赤坂がにこにこ顔で声をかけてきたので、舞浜は動搖した。
(左遷……!?)
「やだなあ、左遷なんかしませんよー」
「エスパーかよ。心の中読まないでよねプリプリ」
「うわっ気色悪うっ。次その口から糞たれたら本気で左遷検討しますから」
「君そういう言葉どこで覚えるの」
 ハッとして、赤坂が平手を振り上げると、舞浜の頬に打ち付けた。
「いかんいかん、自分を見失っていた。落ち着け私」
「え、そういう時って自分を打つんだと思うんですけど。いたい」
「そうでした。舞浜さん。新しいメンバが加入しますよ。一人は男性です」
「まじで!?ヤッター」
「え、まじで、新しい人くんの?」
 赤坂のとなりに座っていた埠頭が、口を挟んできた。せんべいを加えている。
「うん、くるよー」
「どんなやつ?スキル的な意味で」
「うーんと、JAVAが出来る人と、C言語が出来る人らしいです」
 埠頭は、要領を得ない赤坂の回答に苛立を隠せず、頭をぼりぼりかきながら再質問する。
「いやだから、どの程度できんのよ。産廃処理はできんからなー」
「うーん、レベル的な話をしようとすると、いつもうまくはぐらかされるんだよね。次はちゃんと聞いてみるよ」
「ふーん、で、いつくんの?」
「明日」
 ガターン!
 部屋中の人間が、椅子から滑り落ちた。


 翌日依代が連れてきた男女は、異常なまでのフレッシュさをアピールしてくれた。
 大企業であれば、将来を有望視して是が非でも取りたくなるような人材なのだろう。
 問題は、現場がそんな人間を必要としていないということだった。
(いや、それでも、もしかしたらプログラムのエキスパートかもしれない!)
 一縷の望みを託して、埠頭と共に作成したプログラミングの課題を二人にやらせてみたところ、驚くべき結果が出てしまった。
 大学でJAVAを使っていたことがあると自称し、「プログラミングなんて余裕っすよ」が口癖の鈴本くんは、「プロパティってなんすか?いらなくないっすか?」とのことだった。
 研修でC言語を勉強したことのある市来さんにいたっては、「Rってどこにあるんですか?」とキーボードの配置を質問してくれた。
 プロジェクトを成功に導くために依頼した増援だったが、彼らが約束してくれるのは成功か、はたまた作番炎上か。

「なに、本社はこの現場をどんだけ炎上させたいわけ?」
「さあ。焦土作戦でも展開してんじゃないの」
「まあまあ、腐らずみんなで頑張っていきましょうよ」

システムエンジニア、赤坂未尽の戦いは、始まったばかりだ!

おわり

     


       

表紙

フッシマー [website] 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha