飛び去るエクシアを見送ってまもなく、アムロのもとにAEUのMS部隊が到着した。
「また新型」
ヘリオンが十数機、イナクトが三機。三機の内の一機にはパトリック・コーラサワー少尉が搭乗していた。
彼はフランス軍のエースパイロットであり、AEUのエースとも自負している。が、そのことは「自称」レベルにとどまっている。
最初にCBが登場した場面でガンダムと対峙したのが彼、パトリック・コーラサワーだ。
その結果は今まで模擬戦無敗を誇ってきた彼にとっては消したいものであり、しかし、消せないものでもある。
彼のパイロットの技量が決して低いわけではない。ガンダムと既存のMSとの間に技量では埋めがたいほど大きなスペック差が存在していることが最も大きな敗因といえる。
ガンダムに敗北して以来、パトリック・コーラサワーは打倒、ガンダムに燃えていた。
今日もガンダム出現の知らせを受けると、真っ先に飛び出してきたのだ。命令もなく。
「ガンッダムの野郎! 俺様に恐れをなして逃げ出したか!」
既に姿のないエクシアに対して、どうしてそういうセリフが吐けるのか甚だ疑問だ。
「少尉。青いのはいませんが、別の奴がいます。五機目でしょうか」
一人がアムロのガンダムを見て言った。現在、CBには四機のガンダムが存在していることが判明している。同じ顔の未確認機を見てそういう発想に至るのは当然だった。
コーラサワーはそう言われてからようやくガンダムを認識した。エクシアのことばかり考えていたので、視界に映ってはいたが、視えていなかった。
彼はコックピットのハッチを開けると、外に身を乗り出して叫んだ。
「俺はAEUのエース、パトリック・コーラサワー様だ! CBの新しいガンダム。大人しく抵抗しろ!」
「少尉、投降です」
「……投降しろ!」
一同は顔を覆った。腕はあるのにどうしてこの人は馬鹿なのだろうか、と。
アムロは聞き慣れない単語を耳にした。AEU。CB。
どちらも組織的な何かのようであるが、アムロにはそれがなんなのかわからなかった。わかったのはその二つが敵対しているらしいことと、AEUのエースはアホだということだ。
アムロは回線を開くと告げた。(当然、コックピットから出るなんて愚行はしない)
「こちらは地球連邦軍第13独立艦隊ロンド・ベル所属のアムロ・レイ大尉だ。そちらと交戦するつもりはない」
相手がネオ・ジオンでないいじょう戦う理由はなかった。
「地球連邦軍だぁ!?」
コーラサワーが部下の一人に尋ねたが、首を横に振った。アムロがAEUを知らないように、彼らも地球連邦軍を知らなかった。
アムロは彼らからの応答を待つ間に周辺の地形データから座標を割り出そうとしていた。
『一致する地形がない?』
ガンダムのモニタに表示されたのは中途半端な一致率を示す地形の候補だった。
「アムロ・レイとか言ったな。お前が大人しく投降すると言うのなら国際条約に基づいてお前の身の安全は保証しよう」
戦闘に持ち込もうとするコーラサワーだったが、何人かの部下に諭されこういう結論に至った。戦う意志のないガンダムと無理矢理に戦って負けるよりも、鹵獲したほうが評価されるということを考えるよりも、ガンダムに対面して血がのぼってしまうのだから部下は苦労をする。
アムロは考える。どうするべきか。
少尉はああ言っているものの実際の待遇がどうなるかは戦争を幾度も経験したアムロには想像がつく。
しかし、ここで逃げたとしてもガンダムのエネルギーはいづれつきるだろう。
さらに先程戦闘したガンダムらしきMS。あれがCBの機体なのだということは見当がつく。
結局はコーラサワーの申し出を受けるほかなかった。