Neetel Inside ニートノベル
表紙

越えられない彼女
おまけ:じゅんぺいくんとなみちゃんの保健室でいちゃいちゃタイム

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※この話はとても短いです。
※ヤマ、オチ、イミはありません。
※時系列もばらばらです。 

     

「雨超やばいねー」
 窓の外を見ながら今西が呟く。
 下校時間が迫っていて、でも雨はますます激しくなってきていた。
「天気予報だと別に何も言ってなかったのになー」
「降水確率10%じゃなかったっけ?」
「10%って普通降らないっしょ」
「降っちゃったんだからしょうがないでしょー」
 なぜか慰めるように背中を叩かれる。いや別に落ち込んでないし。
「確かに今は凄いけど、夕立だからそのうち止むでしょう。下校時間は少し過ぎてもいいから止むまで待ってなさい」
「「はーい」」
 二人して手を挙げて、暇なのか今西は椅子を一回転させる。足が当たって痛くはないけど腹立つ。
 膝を叩いてやると逆方向に半回転した。あ、自分の鞄蹴った。
 ちらっと恨めしそうな顔で見られたけど無視。
 それからなんとなく会話がなくなって、しばらくすると雨が一気に止んできた。もうぽつぽつと外の木からしずくが垂れている程度になっている。
「そろそろかなー」
「だな」
 時間は下校時間ギリギリで、雨だからまだ帰る人たちが校門前にいない。
 鞄を持って立ち上がり、扉を開ける。
「じゃ先生、さよならー」
「さよならー」
「あら、結局間に合っちゃったわね。さようなら」
 手を振って保健室の扉を閉めて、上靴を履きかえる。
 雨の匂いがぷんぷんする外に歩き出そうとすると、今西が肩を叩いてきた。
 なんだよと思って振り返ると、今西が折りたたみ傘を持って笑っていた。
「あれ、持ってたの?」
「うへへー」
 歩きながらひゅんひゅんと振ってみせる。がちゃんと音を立てて柄が伸びた。
「なら普通に帰ればよかったのに」
「やだ、あんな雨の中出て行きたくなかったし、どうせなら一緒に出たかったし」
「じゃなんで見せたん?」
「あたしの先読み力を自慢したくて」
 どや顔やめろ。
「それともあたしと相々傘したかった?」
 その笑顔もやめろ。
「いや方向逆だし」
「だよねー」
 今西はちぇー、と呟いて柄を戻して傘を鞄にしまう。
「え、何今西こそ期待してた系?」
「いやいや、戸田くんがびしょ濡れになるの見たかったなーって」
「てめぇ!」
「ばーいばぁーい!」
 僕が捕まえるよりも早く、今西は自分の家のほうへと走っていった。

     

「あれ、髪切った?」
「……おぉー」
「いやなんで感動するんだよ」
「戸田くんがそんな微妙な変化に気付けると思ってなかった。ちょっと短くしただけなのに」
「いや僕をそんな馬鹿にするなよ」
「でもこないだあたしが筆箱変えたときは気付くのに2日かかったよね」
「「…………」」
「ふっ」
「くっ」
「まあ今回分かったことは褒めてあげましょう、よしよし」
「撫でんな! てか今西人の頭撫でるの好きだよな」
「うん、髪の毛触るの好きー」
「んーよく分かんないわ」
「やってみる?」
「え、いいの?」
「いいけど掴んで引っ張るのはやめてね」
「おっけー、どれどれ」
「ど、どう?」
「よくわからん」
「えー! なんかあるでしょ!」
「あー、なんかイメージしてたよりやらかいし軽い、かな?」
「ほうほう」
「……んー」
「な、なんでゴムのとこつついてんの」
「いや、ここでスパッて切り落としたらどうなるのかなーって」
「にゃー!」
「っわ、いきなり動くなよ!」
「なに恐ろしいこと考えてんの!」
「いやだって、なんか面白そうかなーって」
「人の髪の毛なんだと思ってんだー!」
「いいじゃん、考えるだけなら」
「だめです! やるなら自分の髪の毛でやって!」
「僕そんな結べるほどないし」
「ないんだったら伸ばせばいい!」
「いやそれはないだろ」
「いいじゃん女の子みたいで。スカート貸すよ?」
「なんで僕が女装する話になってるんだよ!」
「大丈夫、頑張ればいける」
「その頑張りはしなくていい頑張り」
「じゃあジャンケンで負けたら女装しよう」
「今西が負けたらポニーテールちょん切るならやってもいい」
「むー」
「ふっ」
「あさってのゼリーあげるから」
「どんだけ安く見られてるんだよ僕……」
「いやいや、戸田くんは貴重な人材ですとも」
「じゃあもうちょっと盛れよ」
「おー盛ってやる!」
「ちょ、ま、髪の毛の話じゃない! しかもそれは盛るじゃないぐちゃぐちゃにするだ!」
「うっさい! も少しさわらせろー!」

     

「そーいや戸田くんて誕生日いつだっけ?」
 英語のノートを写しながら、今西が突然そんなことを聞いてきた。
「え、12月の4日だけど」
「そっか。じゃまだ先だねー」
 そう言って手を止める。背中から何かオーラが見えるので
「今西はいつなの?」
 と聞いてやると弾かれたように振り返って、
「10月の1日!」
 右手のシャーペンを垂直に立てて、左手は0を作る。
「つまりあたしの方が年上!」
「……2ヶ月だけどね」
 そこそんなに誇るところじゃないだろ。
「でも上は上!」
「はいはい」
 正直身長で負けてる以上今更年上だったところで大差ないというか。
 いやでもうーん、なんか腹立つ気もしてきた。
 身長はまだ伸びるけど生年月日は無理だし。
「まあ成績なら僕のが上だけどね」
 ちょっとやり返すつもりで呟いてみる。
「いやそれはしょうがないというか」
「どのように」
「やっぱりノートだけのあたしが遅れを取るのは当然的な」
「でも、上は上だから」
 そしてどや顔。
「……きっさまー!」
 今西が立ち上がって、僕の目の前に立つと
「ふ」
 と見下ろして、いや見下して笑う。
 僕も対抗して――――何しよう?
 なんか咄嗟に今西に勝ってる部分が思いつかないぞ。
 というかこれやられたら何で対抗しても勝てない気すらする。頭一つ分はでかすぎるだろ。
 それでも何か、んーと、あ、そうだ。
「体重なら僕のほうが軽いかもしれっ」
 最後まで言い終わる前にチョップが落ちてきた。
「ざけんなー!」
「お、何自信ない感じ?」
「あるわ! 馬鹿にするな!」
「じゃあちょっと言って――――」
「戸田くん」
 ぞくりとして振り向く。
 パソコンに向かっていた田原先生から、聞いたことのないぞくっとするような声が聞こえてきた。
「確かに最近の子達は体重を気にしすぎだわ。みんなもっと痩せたいと言うけれど、そういう子の大半は十分標準の体重をしているのよ。他の痩せてる子の体重を聞いて羨ましがる必要だって別にないわ。」
 何これ。何も怖いこと言ってないのに怖い。
「でも」
 先生はくるりと振り返って、
「女の子に体重を聞くのは、なるべくしないほうがいいわよ?」
 笑顔でそう言って、またパソコンに向かった。
 数秒間の静寂の後、静かに僕と座った今西は向かい合って、
「み、見たか今の」
「見た」
「死ぬかと思った僕」
「あたしも正直ビビった」
 小声で震える。
「今日は余計なことやめよう、大人しくしてよう」
「だね……」
「争いは何も生まないんだ」
「平和が一番だよね」
 今西がシャーペンを持ってノートに向かいなおして、僕はそれを暇しながら眺める作業に戻った。

       

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Neetsha