【オラの日記】
半年ごとの大掃除である今日、押入れから埃を被ったこの一冊のノートをダンボール箱から見つけた。
「…ああ、お父さんの日記か」
悟飯は押入れから体を出し、一休みと言う都合のいい理由をつけ、モノが散乱している真っ最中の床をあぐらで座った。
そうか、お父さんもこういうものを書いていたんだな。修行が大好きで、勉学どころか鉛筆にも塵ほどの興味も示さなかった悟空が書いた日記には、その息子である悟飯にはとても興味深い物だった。
「どんなことが書いてあるのかな・・・」
奇妙な躍動感と好奇心が混ざった不思議な感覚が悟飯のノートに向ける手を進める。
――――エイジ776 7月28日――――
「あれ?エイジ776・・・。僕がビーデルと結婚する前の時だ」
『オッス、オラ悟空!!今日はサタンの開いたパーティに呼ばれたんだ!!みんな来てたし、ご馳走がすごかったぞ!!』
「ああ、そうか。コレって、ベジータさんの弟さんが地球にやってきたときだっけ。懐かしいなぁ」
そうつぶやきながら、ページを捲っていく。
7月31日
『オッス、オラ悟空!!今日は雨だったんだ。畑いじりが出来なかったもんだから修行しようと思ったら、チチにセイコーウドクがどうとか言われたんだ。しょうがないから本を読んだんだ』
ペラ
8月2日
『オッス、オラ悟空!!今日はベジータとブルマたちとデパートで会ったんだ!!ベジータがなんだかゲーム?とか言う機械をトランクスに買ってやったんだ。トランクスが嬉しそうにしてたぞ。良かったな、トランクス!!』
ペラ
8月5日
『オッス、オラ悟空!!オラも悟飯にゲームっつーのを買ってやろうと思って、チチにカネを貰おうと思ったんだ。そしたらあいつ、すげえカオになって怒りやがってな。えれえ一日になっちまった』
ペラ
8月6日
『オッス、オラ悟空!!魚を捕りに海に飛んでったら、ちょうどスッゲーでけー魚がいたもんで、そのまま尻尾を掴んで海から持ってきたんだ!!チチもおでれーてたけど、一ヶ月は食べられる大きさだって喜んでたな!!良かったよかった!!』
「そうそう。お父さんがものすごい巨大なサメを持ってきたんだっけなぁ。確かなんて言ったっけな・・・ああ、メガロドンだったっけ」
味はまあ普通だったな。そんなことを思いながら、さらにページを捲っていく。
ペラ ペラ ペラ
9月15日
「あれ?何にも書いてないや。それに11日以降から一気に飛んでる・・・」
最後のページまで捲ってみても、ただの白紙のままだった。
「変だなぁ。日付は書いてあるのに。お父さん、書くの飽きちゃったのかな」
おかしくは思ったが、大掃除の最中と言うこともあり、悟飯は日記を後で悟空に渡そうと戸棚にしまっておいた。
黙々とダンボール箱を出し入れしていたが、ただ一つの違和感が脳裏をよぎっている。
「なんなんだろうなぁ。八月って言うと夏休みの真っ最中で・・・」
ガタガタ
「ビーデルともデートしてたっけなぁ。それに悟天とも虫取りしたり・・・」
ガタガタ
「それに・・・」
――あっ
ふと片手に持っていたダンボールを落してしまった。ガシャンと音がしたが悟飯は気にも留めていない。
「そ、そうだ。思い出した。思い出したぞ・・・」
何故忘れていたのだろうか。あんな不思議な体験を。あの日の出来事は、やっと思い出した今でも鮮明に記憶に甦ってくる。
僕たちの世界とは違う、あの大冒険の日々を。