Neetel Inside ニートノベル
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日常生活の取り留めもない会話の収集
永遠(とわ)に……永遠に……終生の伴侶を愛しているという件

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六月某日。午後五時二十六分。某民家の床の間にて。
これは、どこの誰だかわからない、病床に臥すお爺ちゃんとその孫の女の子の会話です。

「……ん? なんね? 光子(ひかるこ)、まだ、おったとね? (ん? なんだい? 光子、まだいたのかい?)」
「あ……。爺ちゃん……ごめんね。起こしちゃった?」
「よかよか。(いいんだいいんだ)自然に目が覚めた」
「そっか……」
「……」
「……」
「光子」
「な~に?」
「白湯(さゆ)ば飲ませてくれんね(白湯を飲ませてくれないか)」
「あ、うん。わかった、光貞叔父さんに頼んでくるね」
「……あぁ。ありがとう」
「……ちょっと、待ってて」
「あぁ」
「……」
「……」
「……」
「……あぁ」
「……」
「……」
「はい! 爺ちゃん……お待たせ! 持ってきたよ」
「あぁ……すまんなぁ」
「いいよ、いいよ」
「……」
「……」
「あぁ、美味しかった」
「そう」
「ありがとうなぁ……光子」
「うん」
「……あぁ」
「何?」
「……光子……家に帰らんでもよかとか? もう夕方やろ? (……光子……家に帰らなくてもいいのか? もう夕方だろう?)」
「あ~……大丈夫だよ。お母ちゃんが車で迎えに来てくれるから……」
「そうね? なら心配いらんたい。(そうなのか? なら心配いらないなぁ)」
「うん」
「……あぁ」
「何?」
「光代は……光代は元気にしとるね? (光代は……光代は元気にしているか?)」
「うん」
「そうねぇ(そうかぁ)」
「うん」
「……あぁ」
「うん」
「……あぁ」
「……」
「光代は……お前のお母ちゃんは、ちゃんお前の面倒ばみよるか? (光代は……お前のお母ちゃんは、ちゃんとお前の面倒をみているのか?)」
「うん……よくしてもらってるよ」
「……あぁ……そうかぁ」
「でも、たまに怒られたりする事もあるんだけどね」
「なんね? 光子は、ようお母ちゃんにがらるっとか? (なんだい? 光子は、よくお母ちゃんに叱られているのか?)」
「まあね……私、悪い子だから……仕様がないよ」
「……あぁ……そうかぁ」
「うん」
「……あぁ。光子は悪い子じゃなかぞ。(……あぁ。光子は悪い子じゃないよ)」
「ありがとう……爺ちゃん」
「……あぁ」
「……」
「光子は悪い子じゃなかぞ」
「……ありがとう」
「光(ひかる)に……光子の婆ちゃんに、よう似とるよ(光に……光子の婆ちゃんによく似ているよ)」
「え? ……そうかなぁ?」
「……あぁ。似とる。似とる」
「そっか」
「……あぁ」
「……」
「光子」
「な~に?」
「おいに手ば見せてみんね(俺に手を見せてみなさい)」
「え? ……あ~……はい」
「……」
「……」
「……おお……よう似とる、似とる」
「……そうかなぁ?」
「……右手の中指に黒子(ほくろ)のあるやろうもん? (右手の中指に黒子があるだろう?)」
「……うん」
「……おお……よう似とる、似とる……」
「……」
「……あぁ。……光に会いたかねぇ~(……あぁ。……光に会いたいなぁ~)」
「……」
「……あぁ」
「……爺ちゃん。……駄目だよ……」
「……あぁ。なんね? 光子?」
「……駄目……だよ」
「……あぁ。そうね(そうか)」
「……うん」
「……そげな事ば言うな(そんな事を言うな)」
「……」
「……」
「……ごめん……なさい」
「……あぁ」
「……」
「……よかよか(いいんだよいいんだよ)」
「……」
「……爺ちゃん」
「なんね?」
「暑くない? 大丈夫? 窓を開けようか?」
「……ありがとう。……でも、よか。すーすーすっけんね(……ありがとう。でも、いいよ。スースーするからね)」
「……そう」
「……あぁ」
「……ごめんなさい」
「……ん? なして謝っとね? (……ん? どうして謝るんだい?)」
「……」
「……」
「……」
「……あぁ、光子」
「な~に?」
「……窓の外ば見てくれんね? (窓の外を見てくれないか?)」
「え? な~に?」
「……あぁ。枇杷(びわ)の実は、もう生(な)っとるね? (……あぁ。枇杷の実は、もう生っているか?)」
「え? あ~どうだろう?」
「……あぁ。……どがんね? (……あぁ。……どうだね?)」
「……う~んと」
「……」
「あ!……生ってる! 生ってるよ! 爺ちゃん!」
「……そうねそうね」
「うん! とっても、美味しそう!」
「……好きなだけ持って帰らんね(好きなだけ持って帰りなさいね)」
「え? いいの?」
「……あぁ。よかよか」
「……ありがとう」
「……あぁ。よかよか」
「……爺ちゃんは食べないの?」
「……あぁ。おいはもうよか(……あぁ。俺はもういいよ)」
「そうなの?」
「おいじゃなか。光に食べさせんね。光は枇杷ば、ばり好いとったろーもん(俺じゃない。光に食べさせてくれよ。光は枇杷がとても好きだったろうが)」
「……うん。……うん。そうだね。仏壇にお供えしておくね」
「……あぁ。そいがよか、そいがよか(……あぁ。それがいい、それがいい)」
「……」
「……」
「……」
「……あぁ」
「……」
「……あぁ」
「……爺ちゃん?」
「……なんね?」
「お腹空いてない?」
「……あぁ」
「……」
「よかよか。……おいはひもじゅうなか(いいんだいいんだ。俺はひもじくないよ)」
「お腹空いてないの?」
「……あぁ。よかよか」
「そう」
「……光にご飯ば食べさてやらんね」
「……うん」
「……」
「……」
「……あぁ。光子」
「な~に?」
「……おいはまたぬっけん(俺はまた寝るから)」
「……」
「もう、そけおらんちゃよかけん居間でテレビでも観とかんね(もう、そこにいなくてもいいから居間でテレビでも観ていなさい)」
「……いいの?」
「よかよか」
「……」
「行かんね(行きなさい)」
「……」
「……あぁ」
「……わかった」
「……あぁ」
「……また」
「……あぁ」
「会いに来るからね」
「……」
「……あぁ」
「ちゃんと、元気でいてね」
「……」
「……バイバイ」
「……あぁ」
「……」
「……」
「……」
「……あぁ」
「……」
「……あぁ」
「……」
「……」
「……」
「……あぁ。光……。……枇杷は……美味かね?(……あぁ。光……。……枇杷は……美味しいかい?)」

       

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