禁術師
ぷろろーぐ
「あんたを、あたしのお兄ちゃんにしてあげる」
俺の名前はルゥラナ=メグザ。職業は旅人(職業とは言わないが)。この世界のいろんな国を巡り、冒険し、世界を見つめている。……などど言うと聞こえはいいかもしれないので、ぶっちゃけて言うなら、ただの放浪者。それだけだ。ただ気の向くままに旅をして、ときどき誰かの依頼を受けて金を稼ぐ。傭兵、とは違うかもしれないが、そんなことをしている。
十歳ぐらいのころから剣の扱いを習い、まあそこで才能が開花するわけで、それから数年後に家を飛び出し、今に至る。言ってしまうと短いけれど、俺の人生なんてこんなものだ。今が何歳かなど分からないが、だいたい二十歳ぐらいだと思っている(永遠の二十歳だとかそういうのではなくて)。
愛用の武器は大剣だ(大剣の中では普通の剣に近い見た目だ)。背中に背負っているのがチャームポイントだと思っている。一応旅先で見つけた、いわゆる魔法剣とやらで、切れ味がよく刃毀れも無い仕様になっている。なっているようだ。これについてもう少し言及するなら、「金が浮くから助かるなあ」だ。こんなものだろう、やはり(旅人なんて金が無くて困るのが大半だ)。
そしてそんな俺が、今日も今日とてやっぱり旅人、な風に過ごしていたところ(つまりいつも通りだ)、突然声をかけられた。ついさっき町を出て、次の町へ向かっているときのことだった。
「あー、……誰だ?」
俺に声をかけてきたのは女(より詳しく言及するなら少女の部類。髪が長くストレートで、よく分からないが仰々しい赤い服を着ている。豪華な、とでも言うべきか)だったんだが、知り合いなどではなく(旅人という時点で知り合いに出会えることなんてまずないのだが)、見知らぬ奴だった。ぱっと見た感じ、16歳ぐらいに見受けられる。
「あたしはあたし、もちろんあたし。そしてそしてよくぞ聞いてくれたわね。そう、あたしがかの有名なメイラ=シュライナ。親しみを込めてメシって呼んでくれてもいいわよ」
「食い物かよ」
「ほんとに言ったらぶっ飛ばすからね」
「どっちだよっ!」
なんだ、こいつ。よく分からん。やけに親しげなのは多めに見ておいてやるとしても、もう一回言う。……なんだ、こいつ。
「なんだよお前。俺に何か用か?」
「あーあー、その前に一つ確認事項。あんたの名前、ルゥラナ=メグザ。二つ名『殺人周期(キャプリースフェイト)』。職業は旅人……ってこれは職業なのかしら。まあそれはいいとして、合ってるかしら?答えることを許してあげるわ」
「何故に上から目線だ」
ますます意味が分からん。
「答える義務など俺には無い」
「そ。ならあんたをそうだと仮定して話を進めるわ。あんた、あたしのお兄ちゃんにならない?」
「……は?」
そういえばさっきもそんなこと言ってたっけか。なんとなく無視させてもらったが、なんだ、本気だったのか。なるほどなるほど、『お兄ちゃん』ねえ……。
「……悪い、俺の理解力が無いからなのかお前の言い方が悪いからなのかは判断しかねるが、意味が分からん。分かれ、という方が酷だろう、それ」
「あたしは前者を推奨するわ」
「いやいやいや、間違いなく後者だろう」
「……厚謝?」
「お前に感謝する理由も原因も要因も要素も一つとして皆無だ」
「あたしは理由無く感謝されるべきよ」
「間違いなくそれはただの社交辞令だと言っといてやる」
状況にもよるが、間違いなく。
「つーか、仮定してるような奴を兄にするなんて言うか、普通。いや、もちろんその言葉の意味すらも分かりかねているが」
「理解力ないわねえ」
「破壊力ならある」
「あっそ」
……酷い。せっかくこいつのノリにわざわざ合わせたというのに何たる扱いだ(こんな子供のノリに合わせてる大人がここにいるけれど、それはそれ)。
「とりあえず話を進めてやるが、俺を兄にしたいというのは未だに理解できないままとして、俺のことを知っていて会いに来たというのは、つまりは挑戦しにきたと受け取っても構わないのか?」
「こんな少女に暴力振るう気?あんたは人間として恥ずかしくないの?」
「出会ってすぐに『あんたを、あたしのお兄ちゃんにしてあげる』なんて言う奴よりは恥ずかしくない」
「いや、あんたシスコンっぽかったから、その方が食いつくかな、と」
「酷くないっ!?」
見知らぬ女にそんなこと言われて食いつく奴いるかっ!それこそもう人間として終わっている。
……というか、その前提自体が物凄く俺としては悲しい。そんな奴に俺は見られているというのか。初見でシスコンなんて言われる奴ってどんな奴だ(俺だ)。
「あんたにも理解できる言語に直してあげるとね、つまり『あたしの仲間にならないか』、ってこと。理解できましゅか?」
「……なあ、馬鹿にしてるよな。馬鹿にしてるよな?」
「馬鹿になんてしてないわ。馬と鹿に悪いじゃない、その言い方」
「俺はまさかの馬と鹿以下の存在っ!?」
『馬鹿』をそう解釈する奴なんて始めて出会った。なんとなく少し凹む。
「……って、仲間?」
「そっ、仲間」
馬鹿な言動ばかりに振り回されていて若干反応が遅れたが、まあいいとして。
この俺を、仲間に誘うだと?よっぽどの馬鹿か馬鹿だろう、こいつ(少し対抗)。
「そういう勧誘は、もうちょい強くなってから言え。雑魚に誘われて即決で仲間になる奴なんているわけないだろう。俺にメリットがあるわけでもなし」
「あたしにメリットはある」
「俺にはねえ」
なんていう自己中野郎だ(少女だが)。
「ふふん、だけど勘違いしちゃだめよ。確かにあたしは『導き』に従って強い犬歯を捜した、それは事実」
「なんで犬歯を捜してんだよ」
「失礼、剣士。だけれど、あたしはあんたの何倍も強い。これもまた、事実」
「ほぅ……言ってくれるじゃねえか」
自分で言うのもなんだが、俺は二つ名が付くぐらいの実力はある。間違っても、こんな武器すら持たないような少女に負ける道理などない。自分の実力が分かるのも、また一つの実力。そんなかんじだ。
「武器ならあるわよ。……ほら」
と言い、彼女はソレを俺に見せる。いや、さっきからずっと視界には映っていたさ。何の違和感も無く、ソレをずっと使っていたから気にも留めなかっただけ。
「……扇?」
それは豪華な装飾が施された、扇としか言いようのない扇だった。素晴らしいぐらいに扇すぎて、そうとしか言いようが無い。つまりは。
「ただの扇じゃねえかっ!」
戦闘なんかには間違っても使えない、まさに本来の用途に相応しい扇だった。もちろん、彼女は出会い頭からずっとそれで自分の事を扇いでいたわけで、だからこそ余計、それに気を留めていなかった。
「何言ってるのよ。素晴らしい扇でしょ?」
「それを武器と言うお前の頭が素晴らしいっ!」
「褒められた……!?」
「うんまあ、褒めたってことにしといてくれ」
め、面倒くさい……。どこまで勘違いが多い奴なんだ。
「あ、そうそう。ちなみに」
「まだ何かあるのか……」
「あたしと戦わないと実力分からないというなら、もう証明してあげたから、ね」
「……あ?」
その時。俺は自分の目の前のソレを理解できなかった。
最後の一文。彼女がそれを話していたのは、……俺の背後だった。人間の死角。旅人として、剣士として、取られてはいけない、ポジション。
「……何をした?」
もちろん、いくら意味不明な女であろうと目を外すことなどしない、断じて。俺は常に彼女を視界に入れていた。その、はずだったのに。……気づいた頃には背後を取られていた。
「……『禁術』」
「……?」
「この場合における禁術っていうのは『使用を禁止されている魔法』というわけではなく、つまりは『失われた魔法』。理解できるかしら?」
「いや……俺の理解力が足りないのか、残念ながら理解できんな」
一般的に禁術と聞くと、彼女の言うところの前者が主だ。そういう魔法は確かに存在する。けれど……後者。そんなものは聞いた事は無い。『失われた魔法』?
「禁術を扱う者のことを『禁術師』、そうあたしは呼んでるわ。……なんとなくかっこいいでしょ?とは言っても、あたししか使えないわけなんだけど」
「さあ、な」
俺はここに至って、彼女の方を向く。ゆっくりと、ゆっくりと、向く。背中の剣に手をかけて。警戒心を――抱いて。
「……目的はなんだ」
「さっきも言ったでしょ。仲間になってほしいのよ」
「……それほどの謎の力を持っていてか?」
「そ。……騙すようで悪いんだけどね、実はこの禁術にも大きな弱点があるわけよ。あ、ちなみにもちろん秘密ね。まあだから、そのためにもあたしには何人かの協力者が必要なのよ。この世界のためにもね」
「ははっ、世界とはまた大きく出たもんだな。責任重大じゃねえか」
「……どう?最初は遊び感覚でもいいからさ、あたしの仲間になってくれない?駄目なら駄目で他をあたるけれど」
「はっ、しょうがねえ。あんたの秘密に免じて仲間になってやる。……って、こんなかんじでいいか?」
「ふふっ、上出来」
こんな子供についていくというのも癪だが……それ以上に禁術というのに興味がある。魔法はほとんど使わない俺といえども、そういうのに対する好奇心がないというわけでもない。それに……何といっても、俺をここまで恐怖に駆り立てたのはこいつが初めてだ。謎だからこそという要素もあっただろうが、それだけのはずがない。何か別のものがあったに違いない。まあ、俺のプライドの観点から言って、実力差などと認めたくはないのだけれど。
「じゃ、これからよろしくね、お兄ちゃん♪」
……たぶんこれが俺を恐怖に駆り立てたに違いない。そういうことにしておこう。
俺の名前はルゥラナ=メグザ。職業は旅人(職業とは言わないが)。この世界のいろんな国を巡り、冒険し、世界を見つめている。……などど言うと聞こえはいいかもしれないので、ぶっちゃけて言うなら、ただの放浪者。それだけだ。ただ気の向くままに旅をして、ときどき誰かの依頼を受けて金を稼ぐ。傭兵、とは違うかもしれないが、そんなことをしている。
十歳ぐらいのころから剣の扱いを習い、まあそこで才能が開花するわけで、それから数年後に家を飛び出し、今に至る。言ってしまうと短いけれど、俺の人生なんてこんなものだ。今が何歳かなど分からないが、だいたい二十歳ぐらいだと思っている(永遠の二十歳だとかそういうのではなくて)。
愛用の武器は大剣だ(大剣の中では普通の剣に近い見た目だ)。背中に背負っているのがチャームポイントだと思っている。一応旅先で見つけた、いわゆる魔法剣とやらで、切れ味がよく刃毀れも無い仕様になっている。なっているようだ。これについてもう少し言及するなら、「金が浮くから助かるなあ」だ。こんなものだろう、やはり(旅人なんて金が無くて困るのが大半だ)。
そしてそんな俺が、今日も今日とてやっぱり旅人、な風に過ごしていたところ(つまりいつも通りだ)、突然声をかけられた。ついさっき町を出て、次の町へ向かっているときのことだった。
「あー、……誰だ?」
俺に声をかけてきたのは女(より詳しく言及するなら少女の部類。髪が長くストレートで、よく分からないが仰々しい赤い服を着ている。豪華な、とでも言うべきか)だったんだが、知り合いなどではなく(旅人という時点で知り合いに出会えることなんてまずないのだが)、見知らぬ奴だった。ぱっと見た感じ、16歳ぐらいに見受けられる。
「あたしはあたし、もちろんあたし。そしてそしてよくぞ聞いてくれたわね。そう、あたしがかの有名なメイラ=シュライナ。親しみを込めてメシって呼んでくれてもいいわよ」
「食い物かよ」
「ほんとに言ったらぶっ飛ばすからね」
「どっちだよっ!」
なんだ、こいつ。よく分からん。やけに親しげなのは多めに見ておいてやるとしても、もう一回言う。……なんだ、こいつ。
「なんだよお前。俺に何か用か?」
「あーあー、その前に一つ確認事項。あんたの名前、ルゥラナ=メグザ。二つ名『殺人周期(キャプリースフェイト)』。職業は旅人……ってこれは職業なのかしら。まあそれはいいとして、合ってるかしら?答えることを許してあげるわ」
「何故に上から目線だ」
ますます意味が分からん。
「答える義務など俺には無い」
「そ。ならあんたをそうだと仮定して話を進めるわ。あんた、あたしのお兄ちゃんにならない?」
「……は?」
そういえばさっきもそんなこと言ってたっけか。なんとなく無視させてもらったが、なんだ、本気だったのか。なるほどなるほど、『お兄ちゃん』ねえ……。
「……悪い、俺の理解力が無いからなのかお前の言い方が悪いからなのかは判断しかねるが、意味が分からん。分かれ、という方が酷だろう、それ」
「あたしは前者を推奨するわ」
「いやいやいや、間違いなく後者だろう」
「……厚謝?」
「お前に感謝する理由も原因も要因も要素も一つとして皆無だ」
「あたしは理由無く感謝されるべきよ」
「間違いなくそれはただの社交辞令だと言っといてやる」
状況にもよるが、間違いなく。
「つーか、仮定してるような奴を兄にするなんて言うか、普通。いや、もちろんその言葉の意味すらも分かりかねているが」
「理解力ないわねえ」
「破壊力ならある」
「あっそ」
……酷い。せっかくこいつのノリにわざわざ合わせたというのに何たる扱いだ(こんな子供のノリに合わせてる大人がここにいるけれど、それはそれ)。
「とりあえず話を進めてやるが、俺を兄にしたいというのは未だに理解できないままとして、俺のことを知っていて会いに来たというのは、つまりは挑戦しにきたと受け取っても構わないのか?」
「こんな少女に暴力振るう気?あんたは人間として恥ずかしくないの?」
「出会ってすぐに『あんたを、あたしのお兄ちゃんにしてあげる』なんて言う奴よりは恥ずかしくない」
「いや、あんたシスコンっぽかったから、その方が食いつくかな、と」
「酷くないっ!?」
見知らぬ女にそんなこと言われて食いつく奴いるかっ!それこそもう人間として終わっている。
……というか、その前提自体が物凄く俺としては悲しい。そんな奴に俺は見られているというのか。初見でシスコンなんて言われる奴ってどんな奴だ(俺だ)。
「あんたにも理解できる言語に直してあげるとね、つまり『あたしの仲間にならないか』、ってこと。理解できましゅか?」
「……なあ、馬鹿にしてるよな。馬鹿にしてるよな?」
「馬鹿になんてしてないわ。馬と鹿に悪いじゃない、その言い方」
「俺はまさかの馬と鹿以下の存在っ!?」
『馬鹿』をそう解釈する奴なんて始めて出会った。なんとなく少し凹む。
「……って、仲間?」
「そっ、仲間」
馬鹿な言動ばかりに振り回されていて若干反応が遅れたが、まあいいとして。
この俺を、仲間に誘うだと?よっぽどの馬鹿か馬鹿だろう、こいつ(少し対抗)。
「そういう勧誘は、もうちょい強くなってから言え。雑魚に誘われて即決で仲間になる奴なんているわけないだろう。俺にメリットがあるわけでもなし」
「あたしにメリットはある」
「俺にはねえ」
なんていう自己中野郎だ(少女だが)。
「ふふん、だけど勘違いしちゃだめよ。確かにあたしは『導き』に従って強い犬歯を捜した、それは事実」
「なんで犬歯を捜してんだよ」
「失礼、剣士。だけれど、あたしはあんたの何倍も強い。これもまた、事実」
「ほぅ……言ってくれるじゃねえか」
自分で言うのもなんだが、俺は二つ名が付くぐらいの実力はある。間違っても、こんな武器すら持たないような少女に負ける道理などない。自分の実力が分かるのも、また一つの実力。そんなかんじだ。
「武器ならあるわよ。……ほら」
と言い、彼女はソレを俺に見せる。いや、さっきからずっと視界には映っていたさ。何の違和感も無く、ソレをずっと使っていたから気にも留めなかっただけ。
「……扇?」
それは豪華な装飾が施された、扇としか言いようのない扇だった。素晴らしいぐらいに扇すぎて、そうとしか言いようが無い。つまりは。
「ただの扇じゃねえかっ!」
戦闘なんかには間違っても使えない、まさに本来の用途に相応しい扇だった。もちろん、彼女は出会い頭からずっとそれで自分の事を扇いでいたわけで、だからこそ余計、それに気を留めていなかった。
「何言ってるのよ。素晴らしい扇でしょ?」
「それを武器と言うお前の頭が素晴らしいっ!」
「褒められた……!?」
「うんまあ、褒めたってことにしといてくれ」
め、面倒くさい……。どこまで勘違いが多い奴なんだ。
「あ、そうそう。ちなみに」
「まだ何かあるのか……」
「あたしと戦わないと実力分からないというなら、もう証明してあげたから、ね」
「……あ?」
その時。俺は自分の目の前のソレを理解できなかった。
最後の一文。彼女がそれを話していたのは、……俺の背後だった。人間の死角。旅人として、剣士として、取られてはいけない、ポジション。
「……何をした?」
もちろん、いくら意味不明な女であろうと目を外すことなどしない、断じて。俺は常に彼女を視界に入れていた。その、はずだったのに。……気づいた頃には背後を取られていた。
「……『禁術』」
「……?」
「この場合における禁術っていうのは『使用を禁止されている魔法』というわけではなく、つまりは『失われた魔法』。理解できるかしら?」
「いや……俺の理解力が足りないのか、残念ながら理解できんな」
一般的に禁術と聞くと、彼女の言うところの前者が主だ。そういう魔法は確かに存在する。けれど……後者。そんなものは聞いた事は無い。『失われた魔法』?
「禁術を扱う者のことを『禁術師』、そうあたしは呼んでるわ。……なんとなくかっこいいでしょ?とは言っても、あたししか使えないわけなんだけど」
「さあ、な」
俺はここに至って、彼女の方を向く。ゆっくりと、ゆっくりと、向く。背中の剣に手をかけて。警戒心を――抱いて。
「……目的はなんだ」
「さっきも言ったでしょ。仲間になってほしいのよ」
「……それほどの謎の力を持っていてか?」
「そ。……騙すようで悪いんだけどね、実はこの禁術にも大きな弱点があるわけよ。あ、ちなみにもちろん秘密ね。まあだから、そのためにもあたしには何人かの協力者が必要なのよ。この世界のためにもね」
「ははっ、世界とはまた大きく出たもんだな。責任重大じゃねえか」
「……どう?最初は遊び感覚でもいいからさ、あたしの仲間になってくれない?駄目なら駄目で他をあたるけれど」
「はっ、しょうがねえ。あんたの秘密に免じて仲間になってやる。……って、こんなかんじでいいか?」
「ふふっ、上出来」
こんな子供についていくというのも癪だが……それ以上に禁術というのに興味がある。魔法はほとんど使わない俺といえども、そういうのに対する好奇心がないというわけでもない。それに……何といっても、俺をここまで恐怖に駆り立てたのはこいつが初めてだ。謎だからこそという要素もあっただろうが、それだけのはずがない。何か別のものがあったに違いない。まあ、俺のプライドの観点から言って、実力差などと認めたくはないのだけれど。
「じゃ、これからよろしくね、お兄ちゃん♪」
……たぶんこれが俺を恐怖に駆り立てたに違いない。そういうことにしておこう。
「『導き』っていうのはつまり『あたしの仲間となるに相応しい人を探す魔法』のこと。ほんとは、厳密に言うなら違うんだけどそういう認識でいいとあたしは思うわけよ。で、次にあたしが仲間にしたいと思っているのはあたしの『敵』。意味分かる?」
「毎度のことだが分からん。なんで仲間に敵を加えるという結論に至るんだよ」
「そういうものなのよ、あたしというのは。昔からね」
「……?」
「まあ……いずれ話そうとは思うんだけど、今はその時じゃないから少し待っていて欲しいわね。とりあえずあたしというのはそういうもの、と認識しておいてくれたら十分よ」
「はあ。で、その敵っていうのはどういう観点から見て敵なんだ。もう既に会いに行こうとしてるのはいいとしても、それぐらいはおしえてほしいな」
「やだ」
「やっぱ酷いよ、メイラ」
メイラ曰く、「仲間といえばニックネーム。とはいえそこまで期待はしないから、せめて名前で呼ぶこと。いい?」だそうだ。別に強いて反対する気も無いので大人しく従っている(一応俺は大人だからな……ということで)。
「いとエクセレントっ!」
それが、次にとある町の中の宿屋みたいなところで出会った男の第一声だった。
そしてこの瞬間、俺は悟る。メイラが言っていた、『敵』の意味を。否が応にも。
「おっと失礼、初対面にも関わらず思わず本音が。いやいや、そんなに喜ばなくてもいいさ。ん?違う?ああ、そうだったかい、ごめんごめん。私は昔から変だと言われているものでね、まあつまりは『変態』と呼ばれているのだけれどね。……ところで私はふと思うんだよ。この世界の森羅万象あらゆる物事は全て『変態』というだけで、それを許容し認めることができるのではないか、とね。例えば変態である私がシスコンだと仮定……いやシスコンなのだけれど、そうだとする。そして君のような可愛らしい妹がいたとする。もちろん、まあ、変な事をするね?……ああ、ここで反論は認めないからよろしく。さてさて、話を進めよう。ずばり訊くよ、……どうなると思う?ああ、ああ、皆まで言わなくても私には分かるさ。そうだね、『変態』という言葉を言われるだけで、それ以上はお咎め無しだ。つまり、どんなことをしようとも、それが『変態』であるというだけで赦されるということなんだよ」
「「絶対に違う」」
『敵』、つまりは女性の敵ってところか。俺からしてみれば、女性だけでなく人類の大部分の敵だと思う。
というか。彼の演説は前提から全て間違っている。なんで許されると思ってるんだ(彼としては、赦される、の方がポイントだったりするのだろうか)。
「ええっと……もう必要なさそうだけれど、一応確認。あんたの名前はレクシス=シナディン。通称『変態』。職業……変態?こ、これは職業なの……?好きなものは……妹?あー、……好きな者ね、なるほどなるほど。……なんでだろう、次の言葉を言うのに物凄く抵抗を感じるのだけど、ルゥ」
「だろうな。でも見物だから言ってくれ」
「まさかの推奨っ!?」
文脈から分かるだろうが、俺のニックネームはルゥに決まったらしい。そんなに変なのじゃなくて一応俺は安心した。ただこの変態、自分でそう言うのもさることながら、他人からも言われているのかよ。相当に違いない。
「えー、と。じゃ、言うわよ。あんた、あたしのお兄ちゃんにならない?」
「喜んでっ!」
「「……」」
や、やはりこうなるのか……。展開としては物凄くやり易いはずなのに、なぜだろうか。大切なものを失った気がする(メイラが)。
「いやあ、私は嬉しいよ!君みたいな可愛い妹が欲しいと思って過ごした私の人生、ついにここにきて進展があろうとは誰が思っていただろうか、いや誰も思っていたはずがないっ!」
「そりゃ誰も思わないだろうな」
思う奴がいたとしたら、俺は断言しよう。そいつも『変態』だと。
「君、変態を馬鹿にしたら変態に泣くことになるよ」
「絶対に泣くことはない」
「むしろあたしは自分に泣きたくなってきた……」
「だ、大丈夫かい!?何があったんだい!?ま、まさか病弱な女の子要素もあったとでもいうのか。そ、それはそれでなんとなく私のストライクゾーンど真ん中ちょっと外れぐらいなのも事実だけれどっ!」
「……それってただのストライクゾーンじゃねえ?」
「そうだよ」
認められた、本人に。どうでもいいところで。
「ところでだね、突然だけど私の好きな言葉を教えてあげよう」
「本当に突然過ぎるまさかの展開だな」
「聞いたことあるだろうけれど、私が好きな言葉、それは『無知の知』」
……これまでふざけていた分、まともであることに抵抗感を感じてしまう俺。いや、そりゃそうだよな、いくら変態といえども、いくつかはまともな所もあるんだろうさ。そうさ、そうに違いない。
「だってこの言葉、『鞭の血』っぽいだろう?」
「SM系のノリっ!?」
まともを変態に期待した俺が馬鹿だった。……すまん、馬と鹿。ほんとに俺はお前ら以下の存在かもしれない。俺、自信喪失。
「ところでなんだけれど、君は、君たちは誰かな?」
「今更かよっ!?」
最初に訊いておくべき最重要事項じゃねえか、それは!よく今の今まで訊かずに話を進めていたものだ(実際ほとんど話は進んでいない)。そしてメイラは、待ってましたとばかりに、盛大にそれに答えた。こいつは自己紹介がしたいだけなのか……?
「ふふん、あたしはあたし、もちろんあたし。そしてそしてやっとのことでよくぞ訊いてくれたわね。待ちくたびれて昇天するところだったわ。そう、あたしがかの有名なメイラ=シュライナ。通称『禁術師』」
「で、だ。……一応俺はこいつの仲間のルゥラナ=メグザ。二つ名『殺人周期』……で分かるか?」
「私が興味あるのは、私の妹たりえる素質のある者だけだ」
「お前は人間として終わってるよ」
「いや、もちろん冗談だよ?」
「できれば出会ってからのこと全てを冗談だったことにしてほしい」
「それは無理な相談だね。なぜなら私は、私が変態であることにほくろを持っているのだから」
「ほくろなんて持ってても何の意味も無い」
「失礼した、誇りだ」
「どっちもどっちだ」
そんなことに誇りを持たれるぐらいなら、ほくろがある方が断然ましだ。
「ではメイラちゃん、私はどうしたら君の本当のお兄ちゃんに認定されるのかな?キスでもしたらいいのかい?」
「そんなことしたら無に帰すわよ」
メイラの目が本気でやばいことになっている。俺はここでも悟る。こいつ、本当にやりかねん、と。
「うーん、……やっぱこの言い方、本当の意味では伝わらないのかしら」
「俺もそれは言った」
お兄ちゃんにする……などと言われたって、意味が分からないか、そのままの意味で受け取るかのどちらかに決まっている(後者は非常に珍しいパターンにちがいない)。どこをどう解釈して、仲間になる、と受け取れるのか。
「じゃあ……普通に言うわよ?……あたしの仲間になってくれない?」
「喜んでっ!」
「やっぱりかっ!」
物凄く予想通りだった。
「つーか仕事はどうした、仕事は。お前、ここの宿屋もどきで働いてるんじゃないのかっ!?」
あまり宿屋にも見えないから、あくまでもどき。今回だってこの宿屋の店主に頼んで、この変態……もとい、レクシスと話をさせてもらっているだけにすぎない。だから働いている以上、そう簡単に了承してもいいはずがない。
「あー、いいよ、それぐらい。やめたらいいだけじゃないか」
「簡単すぎる……」
「それに……あのメイラ=シュライナが勧誘してくれたんだ。断る道理などあるはずもないだろう?」
と、言われたところで俺は気づく。メイラって……有名なのか?自分ではやたらと誇張して言ってるように感じたんだが、まさか、本当に有名だったのか?どうみても、見た目からは想像もつかないのだけれど。
「『禁術師』メイラ=シュライナ。見た目などは一切不明。ただし、一人で一国を滅ぼせるほどの力を持つ、と噂されている人だね。それがまさかこんな可愛い女の子だとは私も思いもよらなかったが、なるほど、実に可愛い」
「……お前、可愛いって言いたいだけだろ」
「妹だからね」
「もう兄になったのかよ……」
なんだ、……案外こんなものなのか。仲間集め、そう最初聞いた時は物凄く大変そうに感じたものだったけれど……なんてことはない。それほどでは、ない。それもこれも、メイラの強さ、ってか。俺はたまたま知らなかったとはいえ、メイラ=シュライナ。強いどころじゃない、それ以上だ。ただ、そうなると俄然一度は戦ってみたいと思ってしまう俺の癖は悪いものだろうか。……まあ、今はやめておこう。いつかは戦ってくれるんじゃないかと、俺は思えるから。
「……そういえばお前って何歳なんだ?」
「二五歳ぐらいかな」
なら、これからはお前という二人称はよくないから、せめてあんた、にしておこう。
つーか、……その歳で『変態』なのかよ。
「毎度のことだが分からん。なんで仲間に敵を加えるという結論に至るんだよ」
「そういうものなのよ、あたしというのは。昔からね」
「……?」
「まあ……いずれ話そうとは思うんだけど、今はその時じゃないから少し待っていて欲しいわね。とりあえずあたしというのはそういうもの、と認識しておいてくれたら十分よ」
「はあ。で、その敵っていうのはどういう観点から見て敵なんだ。もう既に会いに行こうとしてるのはいいとしても、それぐらいはおしえてほしいな」
「やだ」
「やっぱ酷いよ、メイラ」
メイラ曰く、「仲間といえばニックネーム。とはいえそこまで期待はしないから、せめて名前で呼ぶこと。いい?」だそうだ。別に強いて反対する気も無いので大人しく従っている(一応俺は大人だからな……ということで)。
「いとエクセレントっ!」
それが、次にとある町の中の宿屋みたいなところで出会った男の第一声だった。
そしてこの瞬間、俺は悟る。メイラが言っていた、『敵』の意味を。否が応にも。
「おっと失礼、初対面にも関わらず思わず本音が。いやいや、そんなに喜ばなくてもいいさ。ん?違う?ああ、そうだったかい、ごめんごめん。私は昔から変だと言われているものでね、まあつまりは『変態』と呼ばれているのだけれどね。……ところで私はふと思うんだよ。この世界の森羅万象あらゆる物事は全て『変態』というだけで、それを許容し認めることができるのではないか、とね。例えば変態である私がシスコンだと仮定……いやシスコンなのだけれど、そうだとする。そして君のような可愛らしい妹がいたとする。もちろん、まあ、変な事をするね?……ああ、ここで反論は認めないからよろしく。さてさて、話を進めよう。ずばり訊くよ、……どうなると思う?ああ、ああ、皆まで言わなくても私には分かるさ。そうだね、『変態』という言葉を言われるだけで、それ以上はお咎め無しだ。つまり、どんなことをしようとも、それが『変態』であるというだけで赦されるということなんだよ」
「「絶対に違う」」
『敵』、つまりは女性の敵ってところか。俺からしてみれば、女性だけでなく人類の大部分の敵だと思う。
というか。彼の演説は前提から全て間違っている。なんで許されると思ってるんだ(彼としては、赦される、の方がポイントだったりするのだろうか)。
「ええっと……もう必要なさそうだけれど、一応確認。あんたの名前はレクシス=シナディン。通称『変態』。職業……変態?こ、これは職業なの……?好きなものは……妹?あー、……好きな者ね、なるほどなるほど。……なんでだろう、次の言葉を言うのに物凄く抵抗を感じるのだけど、ルゥ」
「だろうな。でも見物だから言ってくれ」
「まさかの推奨っ!?」
文脈から分かるだろうが、俺のニックネームはルゥに決まったらしい。そんなに変なのじゃなくて一応俺は安心した。ただこの変態、自分でそう言うのもさることながら、他人からも言われているのかよ。相当に違いない。
「えー、と。じゃ、言うわよ。あんた、あたしのお兄ちゃんにならない?」
「喜んでっ!」
「「……」」
や、やはりこうなるのか……。展開としては物凄くやり易いはずなのに、なぜだろうか。大切なものを失った気がする(メイラが)。
「いやあ、私は嬉しいよ!君みたいな可愛い妹が欲しいと思って過ごした私の人生、ついにここにきて進展があろうとは誰が思っていただろうか、いや誰も思っていたはずがないっ!」
「そりゃ誰も思わないだろうな」
思う奴がいたとしたら、俺は断言しよう。そいつも『変態』だと。
「君、変態を馬鹿にしたら変態に泣くことになるよ」
「絶対に泣くことはない」
「むしろあたしは自分に泣きたくなってきた……」
「だ、大丈夫かい!?何があったんだい!?ま、まさか病弱な女の子要素もあったとでもいうのか。そ、それはそれでなんとなく私のストライクゾーンど真ん中ちょっと外れぐらいなのも事実だけれどっ!」
「……それってただのストライクゾーンじゃねえ?」
「そうだよ」
認められた、本人に。どうでもいいところで。
「ところでだね、突然だけど私の好きな言葉を教えてあげよう」
「本当に突然過ぎるまさかの展開だな」
「聞いたことあるだろうけれど、私が好きな言葉、それは『無知の知』」
……これまでふざけていた分、まともであることに抵抗感を感じてしまう俺。いや、そりゃそうだよな、いくら変態といえども、いくつかはまともな所もあるんだろうさ。そうさ、そうに違いない。
「だってこの言葉、『鞭の血』っぽいだろう?」
「SM系のノリっ!?」
まともを変態に期待した俺が馬鹿だった。……すまん、馬と鹿。ほんとに俺はお前ら以下の存在かもしれない。俺、自信喪失。
「ところでなんだけれど、君は、君たちは誰かな?」
「今更かよっ!?」
最初に訊いておくべき最重要事項じゃねえか、それは!よく今の今まで訊かずに話を進めていたものだ(実際ほとんど話は進んでいない)。そしてメイラは、待ってましたとばかりに、盛大にそれに答えた。こいつは自己紹介がしたいだけなのか……?
「ふふん、あたしはあたし、もちろんあたし。そしてそしてやっとのことでよくぞ訊いてくれたわね。待ちくたびれて昇天するところだったわ。そう、あたしがかの有名なメイラ=シュライナ。通称『禁術師』」
「で、だ。……一応俺はこいつの仲間のルゥラナ=メグザ。二つ名『殺人周期』……で分かるか?」
「私が興味あるのは、私の妹たりえる素質のある者だけだ」
「お前は人間として終わってるよ」
「いや、もちろん冗談だよ?」
「できれば出会ってからのこと全てを冗談だったことにしてほしい」
「それは無理な相談だね。なぜなら私は、私が変態であることにほくろを持っているのだから」
「ほくろなんて持ってても何の意味も無い」
「失礼した、誇りだ」
「どっちもどっちだ」
そんなことに誇りを持たれるぐらいなら、ほくろがある方が断然ましだ。
「ではメイラちゃん、私はどうしたら君の本当のお兄ちゃんに認定されるのかな?キスでもしたらいいのかい?」
「そんなことしたら無に帰すわよ」
メイラの目が本気でやばいことになっている。俺はここでも悟る。こいつ、本当にやりかねん、と。
「うーん、……やっぱこの言い方、本当の意味では伝わらないのかしら」
「俺もそれは言った」
お兄ちゃんにする……などと言われたって、意味が分からないか、そのままの意味で受け取るかのどちらかに決まっている(後者は非常に珍しいパターンにちがいない)。どこをどう解釈して、仲間になる、と受け取れるのか。
「じゃあ……普通に言うわよ?……あたしの仲間になってくれない?」
「喜んでっ!」
「やっぱりかっ!」
物凄く予想通りだった。
「つーか仕事はどうした、仕事は。お前、ここの宿屋もどきで働いてるんじゃないのかっ!?」
あまり宿屋にも見えないから、あくまでもどき。今回だってこの宿屋の店主に頼んで、この変態……もとい、レクシスと話をさせてもらっているだけにすぎない。だから働いている以上、そう簡単に了承してもいいはずがない。
「あー、いいよ、それぐらい。やめたらいいだけじゃないか」
「簡単すぎる……」
「それに……あのメイラ=シュライナが勧誘してくれたんだ。断る道理などあるはずもないだろう?」
と、言われたところで俺は気づく。メイラって……有名なのか?自分ではやたらと誇張して言ってるように感じたんだが、まさか、本当に有名だったのか?どうみても、見た目からは想像もつかないのだけれど。
「『禁術師』メイラ=シュライナ。見た目などは一切不明。ただし、一人で一国を滅ぼせるほどの力を持つ、と噂されている人だね。それがまさかこんな可愛い女の子だとは私も思いもよらなかったが、なるほど、実に可愛い」
「……お前、可愛いって言いたいだけだろ」
「妹だからね」
「もう兄になったのかよ……」
なんだ、……案外こんなものなのか。仲間集め、そう最初聞いた時は物凄く大変そうに感じたものだったけれど……なんてことはない。それほどでは、ない。それもこれも、メイラの強さ、ってか。俺はたまたま知らなかったとはいえ、メイラ=シュライナ。強いどころじゃない、それ以上だ。ただ、そうなると俄然一度は戦ってみたいと思ってしまう俺の癖は悪いものだろうか。……まあ、今はやめておこう。いつかは戦ってくれるんじゃないかと、俺は思えるから。
「……そういえばお前って何歳なんだ?」
「二五歳ぐらいかな」
なら、これからはお前という二人称はよくないから、せめてあんた、にしておこう。
つーか、……その歳で『変態』なのかよ。
「ねえルゥかレクシス、『情報操師』って知ってるかしら」
「……なんだそりゃ。聞いたこともないな。レクシスはどうだ?」
「私もない。なんだいそれは、メイラちゃん」
「んー……今から仲間にしたいと思ってる人の情報よ。つまりは、分かり易く言い換えるなら『情報通』のことらしいわ」
「その人づて口調はまあいいとして、なんで情報通ってのを今度は仲間にしようと思ったんだ。そんなに情報が欲しいわけでもあるまいに」
「そんなことないわよ。あたしからしてみれば、情報っていうのはとても重要なもの。それの有無で戦いにおける勝敗が決まるほどなのよ。それこそ、あたしの禁術みたいにね」
「あー、……なるほどな。確かに」
「それにルゥ君、情報というのはこの私、変態にとっても大切な――」
「無視」
メイラからその人の肩書き、『情報操師』とやらを聞いた時はお堅いイメージを俺は受けたものだったが、実際に会った人――つまり少女は、そんな肩書きとは似ても似つかない雰囲気だった。まあしかし、より彼女について説明するなら、少女というか、女の子、つまり子供だったと述べておこう。
「あなたが、『禁術師』メイラ=シュライナさんですね」
と、彼女に先に声をかけられた。
確かにメイラは有名だからな、と思ってしまえばそれはそれで普通の出来事だったのかもしれないが、しかしメイラに至ってはそうではない。メイラは、肩書きと名前しか広まっていないはずだった。それにも関わらずメイラをピンポイントで言い当てるというのは、こいつ……只者じゃない。『情報操師』というのは伊達ではない、それが一発で分かる初見だった。
「いかにも私が『変態』だが」
「あなたには訊いてませんっ!」
空気を呼んでくれ……。
なんでレクシスがしゃしゃり出てきたんだ。俺はもちろん無視させてもらう。
「ええと、いかにもあたしがかの有名なメイラ=シュライナだけれど……『禁術師』の……」
あ、こいつ、先手を取られて少し凹んでいる。俺らの時とは流れが違うから、若干覇気がないというかなんというか。
「やっぱりですね!あ、でしたらでしたら、『仲間』という名を騙った『妹』、いりませんかっ!?」
「え、う、うんまあそうね。いやあ、流石は『情報操師』、あたしが言わんとすることをことごとく悲しいまでに先手取ってくれるわね。嬉しくてもう涙が止まらない……」
「がんば、メイラ」
以外にシャイなやつだった。
にしても……俺らが(メイラが)仲間集めをしているということまで知っているのか。一体こんな子供がどうやってそんな情報を知ったのだか。ますます疑問だし、何より、不気味だ。
「お前さ、どうやってそんな情報知ったんだよ?」
「えへん、そんなの秘密に決まってるじゃないですか。……と本当は言いたいんですけど、他ならぬお兄ちゃんの頼みです、ほんのちょっぴり教えちゃいます」
「もう妹になってんの!?」
過去最速のスピードだった。まだ出会って間もないというのに(ほんとに初対面にもほどがある)、なんてスピードだ。さぞあの変態も喜んでいることだろう。……いや、まじで顔がシスコン顔になってるぞ、あの変態。
「と言ってもですね、そんなに深い意味のあることなんてしていません。ただの、普通の、魔法です。そうですね、ええと……こんなかんじです」
そう言った彼女の元に、どこかから飛んできたらしい鳥がやってくる。彼女が手を出すと、そこにちょこんと乗っかるようになる。しばらくそのままでいたのだが、今度はまたその鳥がどこかへ飛び去っていった。
「今ので、少し情報を仕入れました」
「そうか、お前は鳥と話せるというのか、夢があって大変素晴らしいな」
「嫌味っぽく言わないでください。違います違います、今のはただの鳥なんかじゃないですよう。あれが、魔法なんです」
「……?」
鳥と話せるようになる魔法とかだったりするのだろうか。
「うーんと、なんて言えば分かり易いんでしょう……。あ、そうですそうです、あの鳥そのものが――私の魔力なんですよ。それを、世界中に散らばして、こうしてたまに情報を得るんです」
「……まじか?」
「まじです」
だそうだ。俺にはそんな事ができるのか分からないが……すごい事なんだろうか(俺は魔法ってのはあんまし使わないから、必然、知識も少ない)。
「才能の問題ね。魔力っていうのは努力以上に、天性の所持量で許容量が決まるものだからね。世界中にさっきみたいな鳥なんかの情報収集魔法を散りばめられるっていうのは、やはりすごい事なんだと思うわ」
「ん、メイラはそういうのできないのか?」
「あたしは……残念ながら、普通の魔法は使えないのよ。……『禁術』しかね」
てっきり俺は普通の魔法を使えた上で、その禁術とやらも使えるのだと思っていたがそうではないらしい。やはり世の中そう都合のいいことばかりじゃない、ということか。
「なるほど、だから君は色んな情報を持っているということなんだね?」
「そーゆーことです」
なんとなく納得した。
「じゃあ、もう明らかに必要ないけれど、一応確認ね。あなたの名前はメルミナ=ナミル。肩書き『情報操師』。合ってる?」
「うん」
「いつもの流れでこのまま言うわよ?あなた、あたしの妹にならない?」
「もうなってます♪」
案の定、こいつもメイラのことをよく知っているパターンだったか(まあ、最初の時点で分かったことだったけれど)。となると、この三人でメイラを知らなかったのは俺一人だけということになる。……俺、再び自信喪失。
「……自己紹介でもしとくか。俺はルゥラナ=メグザ。二つ名『殺人周期』。お前なら知ってるよな?」
「もちろんです」
「そしてそして、この私が『変態』のレクシス=シナディン!すきな者は妹っ!ああっ、この私はなんて幸せなのだろうか、こんな短時間で理想だった妹が二人もできてしまうとは!それになんと義理の妹ときたものだ、これはもしや私のラブコメスタートの証ではないのか!?」
「先に『変態』を強調するのはやめてくれ。それにラブコメなんてスタートして欲しくもないしするわけもない」
「何を言う、君は僕と妹を奪い合うポジションなんだよ?」
「安心しろ、あんたにやる」
「いとハッピーっ!」
大の大人がなんて痛さだ……。見ているこっちが辛くなってくる……。頼むからこういうのはやめて欲しい。
「これからよろしくね、お兄ちゃん達とお姉ちゃん」
「っっっっっ!」
まあ、何をするためにメイラが仲間を集めたのか分からない以上、何を頑張るのかも分からないわけだが。
ちなみに……若干一名が喜びに打ちひしがれているけれど、いつも通り俺は無視することにする。
「……なんだそりゃ。聞いたこともないな。レクシスはどうだ?」
「私もない。なんだいそれは、メイラちゃん」
「んー……今から仲間にしたいと思ってる人の情報よ。つまりは、分かり易く言い換えるなら『情報通』のことらしいわ」
「その人づて口調はまあいいとして、なんで情報通ってのを今度は仲間にしようと思ったんだ。そんなに情報が欲しいわけでもあるまいに」
「そんなことないわよ。あたしからしてみれば、情報っていうのはとても重要なもの。それの有無で戦いにおける勝敗が決まるほどなのよ。それこそ、あたしの禁術みたいにね」
「あー、……なるほどな。確かに」
「それにルゥ君、情報というのはこの私、変態にとっても大切な――」
「無視」
メイラからその人の肩書き、『情報操師』とやらを聞いた時はお堅いイメージを俺は受けたものだったが、実際に会った人――つまり少女は、そんな肩書きとは似ても似つかない雰囲気だった。まあしかし、より彼女について説明するなら、少女というか、女の子、つまり子供だったと述べておこう。
「あなたが、『禁術師』メイラ=シュライナさんですね」
と、彼女に先に声をかけられた。
確かにメイラは有名だからな、と思ってしまえばそれはそれで普通の出来事だったのかもしれないが、しかしメイラに至ってはそうではない。メイラは、肩書きと名前しか広まっていないはずだった。それにも関わらずメイラをピンポイントで言い当てるというのは、こいつ……只者じゃない。『情報操師』というのは伊達ではない、それが一発で分かる初見だった。
「いかにも私が『変態』だが」
「あなたには訊いてませんっ!」
空気を呼んでくれ……。
なんでレクシスがしゃしゃり出てきたんだ。俺はもちろん無視させてもらう。
「ええと、いかにもあたしがかの有名なメイラ=シュライナだけれど……『禁術師』の……」
あ、こいつ、先手を取られて少し凹んでいる。俺らの時とは流れが違うから、若干覇気がないというかなんというか。
「やっぱりですね!あ、でしたらでしたら、『仲間』という名を騙った『妹』、いりませんかっ!?」
「え、う、うんまあそうね。いやあ、流石は『情報操師』、あたしが言わんとすることをことごとく悲しいまでに先手取ってくれるわね。嬉しくてもう涙が止まらない……」
「がんば、メイラ」
以外にシャイなやつだった。
にしても……俺らが(メイラが)仲間集めをしているということまで知っているのか。一体こんな子供がどうやってそんな情報を知ったのだか。ますます疑問だし、何より、不気味だ。
「お前さ、どうやってそんな情報知ったんだよ?」
「えへん、そんなの秘密に決まってるじゃないですか。……と本当は言いたいんですけど、他ならぬお兄ちゃんの頼みです、ほんのちょっぴり教えちゃいます」
「もう妹になってんの!?」
過去最速のスピードだった。まだ出会って間もないというのに(ほんとに初対面にもほどがある)、なんてスピードだ。さぞあの変態も喜んでいることだろう。……いや、まじで顔がシスコン顔になってるぞ、あの変態。
「と言ってもですね、そんなに深い意味のあることなんてしていません。ただの、普通の、魔法です。そうですね、ええと……こんなかんじです」
そう言った彼女の元に、どこかから飛んできたらしい鳥がやってくる。彼女が手を出すと、そこにちょこんと乗っかるようになる。しばらくそのままでいたのだが、今度はまたその鳥がどこかへ飛び去っていった。
「今ので、少し情報を仕入れました」
「そうか、お前は鳥と話せるというのか、夢があって大変素晴らしいな」
「嫌味っぽく言わないでください。違います違います、今のはただの鳥なんかじゃないですよう。あれが、魔法なんです」
「……?」
鳥と話せるようになる魔法とかだったりするのだろうか。
「うーんと、なんて言えば分かり易いんでしょう……。あ、そうですそうです、あの鳥そのものが――私の魔力なんですよ。それを、世界中に散らばして、こうしてたまに情報を得るんです」
「……まじか?」
「まじです」
だそうだ。俺にはそんな事ができるのか分からないが……すごい事なんだろうか(俺は魔法ってのはあんまし使わないから、必然、知識も少ない)。
「才能の問題ね。魔力っていうのは努力以上に、天性の所持量で許容量が決まるものだからね。世界中にさっきみたいな鳥なんかの情報収集魔法を散りばめられるっていうのは、やはりすごい事なんだと思うわ」
「ん、メイラはそういうのできないのか?」
「あたしは……残念ながら、普通の魔法は使えないのよ。……『禁術』しかね」
てっきり俺は普通の魔法を使えた上で、その禁術とやらも使えるのだと思っていたがそうではないらしい。やはり世の中そう都合のいいことばかりじゃない、ということか。
「なるほど、だから君は色んな情報を持っているということなんだね?」
「そーゆーことです」
なんとなく納得した。
「じゃあ、もう明らかに必要ないけれど、一応確認ね。あなたの名前はメルミナ=ナミル。肩書き『情報操師』。合ってる?」
「うん」
「いつもの流れでこのまま言うわよ?あなた、あたしの妹にならない?」
「もうなってます♪」
案の定、こいつもメイラのことをよく知っているパターンだったか(まあ、最初の時点で分かったことだったけれど)。となると、この三人でメイラを知らなかったのは俺一人だけということになる。……俺、再び自信喪失。
「……自己紹介でもしとくか。俺はルゥラナ=メグザ。二つ名『殺人周期』。お前なら知ってるよな?」
「もちろんです」
「そしてそして、この私が『変態』のレクシス=シナディン!すきな者は妹っ!ああっ、この私はなんて幸せなのだろうか、こんな短時間で理想だった妹が二人もできてしまうとは!それになんと義理の妹ときたものだ、これはもしや私のラブコメスタートの証ではないのか!?」
「先に『変態』を強調するのはやめてくれ。それにラブコメなんてスタートして欲しくもないしするわけもない」
「何を言う、君は僕と妹を奪い合うポジションなんだよ?」
「安心しろ、あんたにやる」
「いとハッピーっ!」
大の大人がなんて痛さだ……。見ているこっちが辛くなってくる……。頼むからこういうのはやめて欲しい。
「これからよろしくね、お兄ちゃん達とお姉ちゃん」
「っっっっっ!」
まあ、何をするためにメイラが仲間を集めたのか分からない以上、何を頑張るのかも分からないわけだが。
ちなみに……若干一名が喜びに打ちひしがれているけれど、いつも通り俺は無視することにする。