Neetel Inside ニートノベル
表紙

禁術師
ルゥラナ=メグザの記憶

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 俺はふと、どうして俺たちがメイラについていっているのか疑問に思った。
 たしかに、禁術というのがどんなものなのか気になる、だとかそういう言い訳を出せばきりがないのだけれど、本当の所はどうなのか。
 俺は、分かる。彼女に――メイラに惹かれているのだ。言葉に出来ないのがもどかしいけれど、その何か。それに俺は惹きつけられているんだと思う。
 ただ、それだけが理由というわけでもないだろうと思う。メイラは、俺の妹に似ていたのだ。
 忌まわしき数年前のあの出来事。つまり、俺が一人旅に出る事になった、あの出来事。
 俺が住んでいた、何の変哲も無かったまさに普通と言うに相応しかった、俺の故郷。それが――突如として現れた多くの魔物によって消された。その時に、どうして突然魔物が大量発生したのかは未だに解明されていないけれど、そこで今、俺が特に言いたいのはつまり――家族が全員殺されたということだ。
 生き残りだって確かにいて、事実俺はその中の一人だった。けれど、その中に家族の姿は無かった。父親も、母親も、兄も、妹も、全員が全員殺されていた。
 全員、魔物によって殺された。
 それなら――よかったのに。
 家族を皆殺しにしたのは、……俺だった。
 剣の扱いを教えてくれた父親を、いつも父の支えとなってくれていた母親を、俺を俺らしい俺にしてくれた兄を、俺を元気付けてくれていた妹を。それを殺したのは、俺だった。
 どうしてそんなことをしたのか。
 そんなこと、俺が教えて欲しい。
 俺は俺が怖かった。意味も分からず、おそらく無意識の内に大切だった家族を殺してしまっていた自分の事が。
 俺は俺の中に別の何かがいると思った。そうでもしないと、その行為の意味が分からない。
 魔物に村を襲われてパニックになった?そんなわけがない。パニックになってどうして家族を殺すという結論に至るというのか。むしろ子供だったら家族に頼る。そのはずなのに。
 そして、それ以降俺は旅に出た。
 その村に居場所がもうなかったから――というだけではないだろう。ただ単に、おそらく俺はそこから逃げたかったんだと思う。そこにいたら俺が何をするのか、それが自分でも分からなかったから。
 逃げてから数日間は、それでもなお自分が怖かった。しかしそんな俺が自分を恐れなくなれたのは、皮肉にも俺の妹の言葉だった。
 『自分を恐れちゃだめ。自分を抑えられるのは自分だけなんだよ?その役目を放棄しちゃったら、また後悔することになるんだから、ね?』
 その時に死んだ妹の声が聞こえたというわけではなく、昔妹に言われた言葉だった。
 昔のシチュエーションとは似ても似つかなかったけれど、その言葉こそ、その時の俺に必要なものだった。
 口調なんかは、別にメイラに似ていたわけでもない。けれど、雰囲気。それが、メイラはどこか俺の妹と似ていたのだった。
 だからもしかしたら、俺がメイラについていっているのは……それが原因なのかもしれなかった。
 そうなってくると、他の二人の理由が俺は気になった。またいつか暇な時にでも訊いてみようか。そう、俺は思った。


「この世界の歴史はね、……全てが全て、間違っているのよ」
 というメイラの声で、俺は現実に引き戻される。メイラは誰に語るでもなく、俺たち3人に話しかけていた。その表情は、いつものお調子ものであるそれとは違っていて、真面目な表情だった。「どういうことだ?」と俺は訊く。
「誰もが知っているだろう歴史、『神魔戦争』のこと。あれは全てが全て、彼らの都合のいいように改ざんされているのよ」
「彼らっていうのは誰のことなんですか?」
 メルミナが興味深そうな目でメイラを見ている。『情報操師』として見逃せないからなのかもしれない。
「今のこの世界の成り立ちを創ったといえる『パラ教』のこと。みんなもその名前くらい知ってるわよね」
「逆に、今のこの世界でそれを知らずに生きている方が難しいんじゃないかな」
 さも当然、とばかりにレクシスが答える。もちろん俺やメルミナだって知らないはずはない。今のこの世界は、その宗教を基にして作られていると言っても過言ではないほどなのだから。
 一昔前の謎の争い『神魔戦争』の謎をを、最も紐解いているといわれる宗教であり、その宗教だけでいくつかの都市国家だって作れるといわれているほどの宗教。
「その『パラ教』が、歴史を改ざんしている……?」
「そ。あたしが仲間を集めたのはね、その『パラ教』を本来あるべき姿に戻すためなのよ」
「はあ。まさか、『パラ教』の総本山に突撃するとかか?」
「よく分かったわね」
「いや、冗談だったんだが!?」
 まさかそんな馬鹿みたいなことをするために、俺らは仲間にされていたというのだろうか。そうだとしたら、情けない話だが俺はこのパーティから抜ける。間違いなく。
 『パラ教』っていうのは世界で一番信仰されている宗教であると同時に、世界最強の『神官』を持っている。『神官』というのはつまり、戦闘用の兵士、みたいなものだ。
 そんなのを持っている『パラ教』に正面から挑んで勝てる道理などない。
「ルゥ、それだけじゃないわよ。正面から『パラ教』に喧嘩を売りなんてしたらそんなものじゃ済まない。『神官』はもちろんのこと、そんなことしたら『神徒』も出てくるでしょうね」
「『神徒』……」
 つまり『パラ教』における実質のトップ3人のことだ。『神魔戦争』の神の子だといわれていて、その実力は『神官』を大きく凌ぐといわれている。
「そもそもメイラちゃんは、どうして『パラ教』が歴史を改ざんしていると思うんだい?」
 と、レクシスがもっともな質問をした。
 それを質問してから、俺はメイラの言葉を疑いもしていなかったことに気が付いた。流石に少し疑いが少なすぎた。信頼している……ということなのだろうか。
「そりゃああたしは知ってるに決まってるじゃない。だって……あたしの先祖が、あの戦争に関わってたんだから」
「……先祖が?」
 それは少しおかしい。『神魔戦争』というのは不自然なぐらいに誰も全容を覚えておらず、書物なども一つとして残っていないはずなのだから。メイラが(その先祖ということは、メイラの親も)それについて何か知っているというのなら、謎の解明の大きな一歩となるはずだ。
「あくまで皆『敵』だから深くは教えてあげられないけど、あたしは……その戦争の真実を知っているのよ」
「ほぅ、レクシスだけでなく、俺やメルミナさえも『敵』だと言うか」
「ええ。これからの行動次第で昇格してあげるわよ」
 ものすごく上から目線。何故だ、無性にむかつく。これも妹に似ているから……なんだろうか。
「でしたらお姉ちゃん、それを皆さんにお伝えしたら済む話じゃないんですか?」
 メルミナに至っては、本当に俺らの妹キャラでいくようだ。馬鹿なのか、それとも馬鹿なのか。俺には判断しかねる。
「まあそうなるわけなんだけど、そう簡単にはいかないわけよ。だってよく考えてみて、今更あたしが『パラ教』は間違っています、なんて言って誰が信じると思う?むしろそんなことを各地で繰り返しでもしたら、処刑されるでしょうね、神に背く者だとして。もし『パラ教』を奨励していない国だとしても、噂はどうしても立ってしまうから結果は同じでしょうね」
「はあ」
「だからどうしても、地道に協力者を増やしていくしかないわけよ。できるだけ『パラ教』信者から信頼されていて、かつなかなか力のある人。……そうね、『神官』を説得しようかと考えているわ」
「また難しいことをしようとするね……」
 レクシスの言うとおりで、説得なんてそんなに簡単なものじゃない。相手は宗教のトップに近い人たちだ。その分信仰度だって高いに違いない。下手をしたら、その『神官』に異端者を報告されかねない。そうなったら逃げるか、もしくは……排除せざるを得ない。
「……言い忘れていたけど」
「どうした」
「あたしの『仲間』である間は、一切の人殺しは禁止よ。たとえどんな理由があろうと、あたしはそれを許さない。絶対に」
「……」
 まあ俺だって、もう殺しはしたくないと考えているから同感だといえる。メイラにはメイラなりの過去があって、それで人殺しを許せないんだろうと思う。……俺に、俺の過去があるように。


 こうして――俺たちは協力者を得るための旅をすることになった。
 メイラのことをどこまで信用できるのか分からないけれど、直感では信じてもいいと思えた。そう思えるようになっただけ、俺は俺を信じられるようになる。俺にとって、他人を信じられるようになるというのは、自分を信じることができるのが前提だから。

       

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