4がつ13日
今うから、ぼくは日っきおつけることにしました。
がんばって、出き杉よりもあたまがよくならないといけない。
勉きょうして、でんちがきれたドラえもんをいきかえらせる。
どらミちゃんともやくそくした。
もうきめたんだ。
ドラえもん、みていてね。
5月3日
しゅくだいをがんばっててます。
せん正がこのところしゅくだいをちゃんと出してるなえらいぞと、ほめました。
ジャイアンとすね男にのびたのくせになまいきだといじめられた。
けど、なかなかった、もうなかないよドラえもん。
6月1日
野きゅうこいといわれたけど行きませんでした。
そしたらむりやりつれていかれて、いじめられた。
ドラえもんはどうしたんだよ、いつもみたいによんでみろっていうから、未らいにかえたよっていった。
ぼくはないてしまった。
でも、ジャイアンたちはかえっちゃった。
しずかちゃんがたすけに来てくれた。うれしかった。
うちにかえったらママも心ぱいしてくれたよ。
のびちゃんどらちゃんがいなくてだいじょうぶってきいたので、ぼくは大じょうぶだっていった。
本とうはさみしいです。
7月8日
テストでいい点をとったよ。
55てんだった。
せんせいがほめてくれた。
ママに見せたら、すごくよろこんでくれた。ママはちょっとないていた。
パパがケーキをかってきた。
えらいぞのびたってパパもすごくよろこんだ。
でもあんまりむりするなっていった。
でもぼくはもっとがんばらなくちゃ。
8月2日
夏やすみも勉きょうします。
宿だいも、もう半分もおわったよ。すごいでしょう。
ぼくのこれからの目ひょうのために、図しょかんにほんをかりにいきました。
ぼくはロボットの本をさがしました。
でも、学校の図しょかんにはあんまりありませんでした。
図しょかんの先生に聞いたら、じゃあエスエフ小せつとかはどうだい、っていわれた。
よくわからないけど、未来のこととかのお話だって。
こんどまちのとしょかんに行くことにします。
9月25日
今日は運どう会でした。
勉強はがんばってるけど、やっぱり運どうはにが手です。
でも、ドラえもんが言っていたことを思い出しました。
にが手なことからにげちゃりっぱな大人になれないぞって。
だから、ぼくは運どう会までれん習した。
パパもきょう力してくれた。
がんばったけど、やっぱりびりでした。
でもパパはよろこんでくれた。ママはおいしいおべんとうをもってきてくれた。
パパは、おべんとうを食べながらドラえもんにも見せてやりたかったなあ、といった。
そのとき、ぼくはなみだが出てしまった。
ぼくはやっぱり泣き虫だ。
10月14日
もうすっかり秋だ。
ぼくは今、読書の秋にしようと思っています。
本を読むようになりました。もう今月三さつ読みました。
マンガも読みたいけど、なるべくがまんしています。
小学生向け、って書いてある本ならけっこう読めるようになりました。
今までだと、何ページかめくるとすぐねちゃってたけど、だんだん本がおも白くなってきました。
前におしえてもらったSF小説も読んでいます。
いろんなロボットとかきかいが出てくるので、なんだかドラえもんのポケットを思い出しました。
タケコプターでもういちど空をとびたいよ、ドラえもん。
11月1日
またジャイアンとスネ夫にいじめられた。
先生に野比くんをみならえって言われて、あたまに来たんだって。
うら山に連れていかれて、なぐられてけられた。
いたくてももう泣かなかった。
そしたらジャイアンが、
「のび太がいくらがんばったってたいしたことないんだよ。いいかげんにあきらめろよ」って言った。
スネオが、「ドラえもんだって、お前にあきれて帰ったんだろ」って言った。
ぼくは「ちがう」って言った。
「ドラえもんもできのわるいロボットだからなー、未来に帰ってスクラップにでもされたんじゃないの」って言った。
ぼくはきれた。
スネオのうでに思いっきりかみついた。
なぐられてもはなさなかった。
スネオが、「もうかんべんしてくれ、悪かった」って言ったのではなした。
スネオは泣いていた。ジャイアンもスネオといっしょに帰った。
夜、スネオのママがおこってうちに来た。
スネオは病いんで三はりぬったって言っていた。
うちのパパとママはずっとあやまっていた。
ぼくはへやから出なかった。
パパとママにおこられるかと思ったけど、おこらなかった。
ママに「のびちゃん、どうしてそこまでしたの」ってきかれた。
ぼくは泣きながら、「ドラえもんをバカにしたんだ」って言った。
そうしたら、ママがやさしく頭をなでてくれた。
ぼくはそのまま、なきつかれてねてしまった。
ごめんね、ドラえもん。やっぱりぼくは泣き虫です。
11月2日
スネオのうちにあやまりに行ったよ。
やっぱりスネオのママにしかられた。
でもぼくの顔もきずだらけなのをみて、スネオのママもあんまりねちねち言わなかった。
しばらくするとスネオが出てきたから、ぼくはくやしかったけど、あやまった。
そしたらスネオが「へやに上がれ」って言った。
何をするんだろうと思っていると、ビデオテープをくれた。
ぼくが「何これ」ってきくと、「見ればわかるよ」って、ビデオを見せてくれた。
テープには、ぼくとドラえもんとみんなで高井山に行ったのがうつっていた。
スネオが、高いビデオカメラを買ってみせびらかしていたときのテープだ。
少しだけだけど、ちゃんと、ドラえもんがうつっていた。
ドラえもんの声が聞けた。
ぼくはまた泣いてしまった。
「おまえんちもビデオ買えよ。買ったら、ドラえもんがうつってるテープ分けてやるから」ってスネオが言った。
ぼくは泣きながら、「ありがとう、ありがとう」って言った。
スネオは「泣くなよ、またぼくがいじめたみたいじゃないか」って言った。
ドラえもん、ぼく、ちょ金して、ビデオ買うよ。
そしたら、ドラえもんの顔が見れるから。
12月9日
ジャイアンとけっとうをした。
ぼくがもうしこんだんだ。
ぼくはもういじめられて泣いてるひまなんかない。
だから、決着をつけるんだ、って。
でも、やっぱりジャイアンは強かった。
ぼくのパンチは当たらなくて、ジャイアンのパンチはものすごくいたい。
でも、もうかみついたりはしなかった。
なんどもひっくり返った。
いっしょうけんめい立ち上がったけど、けっきょく、負けちゃった。
気がつくと、しずかちゃんが手当てしてくれていた。
「どうしてここにいるの」ってたずねたら、
「たけしさんが、ここでのび太がのびてるから、って教えてくれたの」
「どうしてだろう」
「きっと、たけしさんものび太さんとなかなおりしたかったのよ」
って言った。
「のび太のやつ、強くなったって言ってたわよ」
ぼくはうれしかった。
12月25日
今日はクリスマスだ。
しずかちゃんちでクリスマスパーティーをした。
ひさしぶりに、とっても楽しかった。
みんなで出し物をした。
しずかちゃんはピアノ、スネオは手品、ジャイアンは歌を歌った。
ジャイアンの歌はあいかわらずすさまじかったよ。
ぼくはおもちゃのピストルで的当てをした。
めずらしく、みんなにうけた。
みんなで楽しくさわいでいると、
「これでドラえもんがいたらもっとおもしれえ出しもんが見れたのになあ」ってジャイアンが言った。
ぼくは気がついた。
さびしかったのは、ぼくだけじゃなかったんだって。
みんなも、ドラえもんがいなくてさびしかったんだ。
ドラえもん、帰ってきてよ。
君は未来のすごいロボットだろ。
何か楽しい道具を出してよ。ドラえもん。
1月1日
ドラえもん、年が明けたよ。
親せきの人がたくさん来た。
お年玉をたくさんもらったから、パパにたのんでデパートに連れて行ってもらった。
そしてビデオを買ったんだ。
帰りに、スネ夫のうちに行った。
ジャイアンとしずかちゃんも呼んで、みんなでいっしょにドラえもんがうつってるビデオを見た。
そのテープをかりて、うちでもくりかえし見た。
ビデオっていいね。これでさびしいとき、いつでもドラえもんに会えるよ。
あけましておめでとう、ドラえもん。
2月14日
バレンタインデーだった。
しずかちゃんに、チョコレートをもらった。
「のび太さん、とってもがんばってるからごほうびね」って言ってくれた。
すごくうれしかった。
ぼく、もっともっとがんばるよ。
3月7日
つくえでねてたら、かぜを引いた。
「勉強も大切だけど、体も大切にしなさい」とママにしかられた。
こんなおせっきょう、はじめてだ。
くしゃみをしながら横になっていると、そういえば、ドラえもんもさむいのは苦手だったなあ、って思い出した。
よくコタツで丸くなってたよね、ロボットのくせに。
ネコ型ロボットだったからかなあ?
ぼくもかぜを引かないように気をつけます。
4月5日
新学期になった。
とうとうぼくも6年生だ。
ぼくはちょっとでも大人になったかなあ?
4月13日
今日で日記をつけだしてから一年たった。
ごめんよドラえもん、ぼくはまだまだです。
でも、きっと、ドラえもんを起こしてみせるからね。
5月19日
やった!とうとうやった!
テストで100点を取った!
理科で100点を取ったよ!
クラスのみんなは、あののび太が、ってびっくりしてた。
パパはがくぶちに入れようって言ったけど、ぼくがはずかしいからやめてもらった。
ママはぼくの好きなものばかり作ってくれた。
もっともっとがんばるからね、ドラえもん。
6月7日
学校の帰りに、雨がふってきた。
かさをわすれたのでどうしようとおもっていると、しずかちゃんがかさに入れてくれた。
スネ夫とジャイアンに、「やーい、あいあいがさだ」とからかわれた。
でも、ふたりでならんで歩いているとすごくどきどきした。
やっぱりぼくはしずかちゃんが好きだなあ。
7月12日
前からほしかった「現代ロボット史」を本屋さんで買ってきた。
ちょっとむずかしい本だけど、ロボットについてていねいに書いてある。
やっぱりロボットってすごい。
ドラえもんはやっぱり、すごかったんだなあって感心しています。
すごいロボットなのに、どら焼きが大好きだったのが面白くって、ひとりでわらっちゃったよ。
ドラえもん、目がさめたらどら焼きをうんとごちそうするよ。
7月31日
出来杉君のうちで勉強をした。
ジャイアン、スネ夫、しずかちゃんもいっしょだ。
出来杉君は本当に頭がいい。
教え方もすごくわかりやすい。
「のび太くんも本当にすごいよ。前じゃいくら教えてもぜんぜんわからなかったのに、今じゃちょっとヒントをあげただけですぐ解いちゃうじゃないか」って言われて、とてもうれしかった。
前までわからなかったことがわかるようになるのが、最近は楽しいよ。
ドラえもんにネコミミを
小学生編
8月10日
もう、夏休みの宿題はほとんど終わっちゃった。
やればできるもんだなあ。
あとは、自由研きゅうがのこってる。
いつもだったら、ドラえもんに泣きついていたね。
みんなで自由研きゅうのためにいろんなところにぼうけんに行ったのを思い出したよ。
今年は、自分ひとりの力でやってみようと思う。
テーマは決まってる。
ロボットについてだ。
むずかしいとおもうけど、いま勉強していることをまとめるいいきかいだ。
9月1日
夏休みが終わって新学期になった。
小学校最後の夏休みはたくさん勉強した。
遊びに行ったのは、みんなと2回くらいプールに行っただけ。
ぼくはやっぱり泳げなかった。
わらわれちゃったけど、まあ、しょうがないね。
そうそう、自由研きゅうもちゃんと提出した。
ぼくがわかっていること、調べたことをきちんとまとめたつもり。
それにしても、やっぱりロボットってすごい。
日本の会社が作っているロボットだって、ドラえもんにはぜんぜんかなわないけど、ものすごい技じゅつのかたまりなんだってことがよくわかった。
未来のロボットの前に、まずは今の時代のロボットをもっと勉強しなくちゃ。
9月25日
ジャイアンたちと野球をしていて、手首をひねった。
ちょっとねぶそくでうとうとしていたら、ボールが飛んできてとびつこうとして変なちゃく地をしたときにいためたみたいだ。
けっきょく試合は負けちゃうし、ジャイアンにはどなられるし。
さんざんだ。
でも右手じゃなくてよかった。
ペンがにぎれないと困るから。
前のぼくなら、「やった、大いばりでなまけられる!」とか言ってよろこんでただろうけど。
10月6日
もうすぐ修学旅行だ。
場所は日光だって、先生が言ってた。
帰り道で、
「修学旅行楽しみね」としずかちゃんに言われて気がついた。
「ああ、そうだっけ」と僕が返事をすると、
「もう、のび太さんは楽しみじゃないの?」とおこられた。
それよりも、僕が気になって仕方なかったのは先週テレビで見た「ASOMO」っていうロボットのことだ。
大手の車のメーカーが作ったらしい。
あれはすごかった。
だれが作ったんだろう。
作った人に会いたい。できれば弟子にしてもらいたいくらいだ。
でも、ドラえもんのほうがもっともっとすごいロボットだっていうことも教えてあげたい。
とかなんとか考えていると、
「ねえ!のび太さん私の話聞いてる!?」とまたおこられた。
「このごろのび太さんずっと考え事ばっかり。返事もてきとうだし。知らない!」
と、僕をおいて帰ってしまった。
さすがにしまったと思った。
10月11日
修学旅行一日目。
日光まではバスで行く。
車の中でもみんなおおはしゃぎだ。
このまえ買ったアイザック・アシモフの本を読みたかったけど、僕は乗り物よいがひどいからやめておいた。
一日目は、日光東しょう宮と中ぜん寺湖に行った。
いい天気だったし、けしきも良かった。
このところ勉強ばかりしてたから、気分てんかんになった。
夜、旅館でみんなとおそくまではしゃいだ。
そして、ねころがりながらどの女の子が好きかを話しだした。
「ばかやろ、しずかちゃんはおれのもんだ。男はなあ、強くなくっちゃだめなんだよ。おれみたいにな」
「いやあ、今の世の中芸じゅつてきセンスが大事だよ。ぼくみたいに美しいものを理解できる男性がもてると思うよ」
とか言ってた。
みんなやっぱりしずかちゃんが好きみたいだ。
「のび太はどうなんだよ」と聞かれたので、
「うーん、よくわからないなあ」と答えたら、
「はっきりしねえやつだなあ、そんなんじゃ女子に好かれねえぞ」と、めずらしくジャイアンにまともなことを言われて気がついた。
最近、しずかちゃんとしっかり話をしていない気がする。
このところずっと上の空だったから。
明日は自由行動だから、しずかちゃんとまわってみよう。
10月12日
修学旅行二日目。
おそくまではしゃいだあとで日記を書いたからすごくねむい。
今日は、日光江戸村で自由行動だ。
しずかちゃんを連れていこう。
と思っていたらジャイアンとスネ夫もついてきちゃった。
しかたなく四人で回った。
忍者屋しきで二人になったので、思い切って話しかけた。
「あの・・・しずかちゃん。ごめんね、このところ、僕、ぼんやりしてて」
「そうね、のび太さん、ぼんやりしてること多いわね。なにかあったの?」
「うん、今さらかもしれないけど・・・やっぱり、さみしいなあ、って」
少し考えてから、しずかちゃんは
「ドラちゃんの、こと?」と言った。
僕は、そう言われて急に切なくなってしまって、うなずいた。
「大丈夫よ!きっとドラちゃん、タイムテレビでのび太さんのこと見てるわ。会えないのは何かじじょうがあるんでしょうけど、今ののび太さんを見てきっとよろこんでるわよ」
と言ってくれた。
僕は涙が出そうになってしまった。
本当のことを話してしまいそうになった。
けど、なんとかこらえた。
しずかちゃんにまで悲しい思いをさせたくない。
僕はわらって、
「ありがとう、しずかちゃん」とだけ言った。
しずかちゃんは安心してくれたみたいで、
「のび太さん、なにかなやみができたら言ってね。私いつでも話を聞くから」
と、わらってくれた。
しずかちゃんのわらっている顔を見たら、元気が出た。
帰りのバスの中はほとんどねちゃってたけど、いい旅行だった。
11月9日
テストでいい点を取ることが多くなった。
今日返ってきた算数のテストは89点だった。
でも、大事なところでのうっかりミスが多い。
ぼくはもともとおっちょこちょいなのだから、もう少し気をつけないと。
11月30日
休みの日に、ロボットの研きゅうで有名な先生の話(こうえん会、でいいのかな)を聞きに出かけた。
ちょっと遠かったけど、パパも
「のび太がきょうみあることはおうえんするよ。たまには勉強いがいのこともしなくちゃな」と言って連れて行ってくれた。
僕の本当の目的のことはだれにも言っていない。
パパにも。ママにも。もちろん友達にも。
なんでかは、まだ僕にもよくわからない。
電車で40分くらいのところにある科学博物館まで行った。
話をしてくれたのは、依田先生という、ちょっと変わったおじさんだった。
ふだんは大学の先生をしているらしい。
えらい人のはずなんだけど、どう見てもえらそうなかんじがしなかった。
背が低いのにさらにねこ背だから年をとった子どもみたいだ。
マイクを使って話をしているんだけど、声がぼそぼそしててよく聞こえない。
ぼくはなんとか聞きとろうと必死に耳をすませた。
けど、言っていることがわからない。
子供むけのこうえん会のはずだけど、難しいことばっかりしゃべっている。
けっきょく、話の内ようはちっともわからなかった。
なんだか、この先生は子どもに話をするつもりがないんじゃないだろうか、とも思える。
でも、話の最後に聞いた言葉がとてもいんしょうに残った。
「私は必ずロボットを完成させます。今の、人形でしかない、形だけのロボットではなく、本物の、どく立した意思を持つロボットを」
この人は、僕と同じ目的を持った人なんだ。
それを聞いて、僕はそう思った。
こうえん会が終わったあと、僕はこの先生のところに行った。
そして、
「先生、さっき言っていたことは本当ですか?」とたずねた。
そしたら、
「ああ、本気だよ。君は、ロボットが好きなのかい?」とぎゃくに質問された。
「・・・好きっていうのとちがいます。でも、友達を」と言いかけて、まずい、と思ってだまってしまった。
「?・・・まあ、いいか。どうきはよくわからんが、私のつまらないこうえんをねっしんに聞いていたね。君にも何か目標があるようだ。もし君がロボットへのじょうねつをうしなわなければ、また会えるかもしれない。このぎょうかいは広いようでせまいから」
と言って、名しをくれた。
「私はその大学できょうべん(?)をとっている。もし君が将来門をたたくならかんげいするよ」
と言って先生は行ってしまった。
勉強になったというより、なんだか変な気分にさせられた一日だった。
名しは、とりあえずとっておくことにした。
12月22日
いよいよ真冬の季節だ。雪が降ってきた。
学校も明日から冬休み。
終業式なので、通知表をもらった。
去年まではこの通知表をもらう時間がいやで仕方なかった。
でも、今年は自信がある。
先生がわたしてくれるとき、とてもいい顔をしていた。
「野比、たいへんすばらしい成績だ。よくがんばったな。むねを張ってご両親にお見せしなさい」と言われた。
まわりからおおーーっと声が上がった。
僕はうれしいのとはずかしいのがまざってよくわからなくなってしまって、急いで席に戻った。
あわてていたので、転びそうになり、わらわれてしまった。
体育と図工と家庭科は2、音楽は3だった。
歌はだめだけど、楽器はがんばったおかげだ。
他は国語が5、算数が4、理科が5、社会が4と、上出来だった。
われながらいい成績だ、と思ってにやにやしていると、いつのまにか、スネ夫とジャイアンが後ろからのぞいていた。
「うわ、のび太のくせに5があるよ」とスネ夫。
「ちぇー、のび太の野郎、出来杉みたいになりやがって。おれなんか、また母ちゃんにげんこつくらっちまうぜ。『たけし!またこんな1と2と3ばっかりの通知表よこして!たまには体育以外で5を見せてみたらどうなんだい!』ってな」と、ジャイアンがじょうだんっぽく言った。
まわりは大わらいだ。
ジャイアンは、このごろあまりらんぼうでなくなった。
もちろん、けんかっぱやいし短気なのはあいかわらずだけど、あまり弱い者いじめをしなくなった。
去年の冬くらいからだ。
理由は僕もよく知らない。
もともと親分みたいなやつだから、みんなからもけっこう人気が出てきた。
スネ夫とコンビになって、お笑いみたいなまねをしている。
みんな、ちょっとずつ変わってきているんだろう。
だって、僕らももうすぐ中学生なんだから。
学校から帰る前にこの日記を書いている。
はやくパパとママに見せたい。
きっとよろこんでくれるはずだ。
けど、本当に見せたい人に見せられないのが、とても悲しいし、くやしい。
どうだい、僕でも通知表で5をとれるんだよ。
1月1日
お正月だ。
今日くらいはのんびりしなさいとパパやママが言うので日記だけ書いて勉強は休むことにした。
お年玉をたくさんもらった。
パパとママはこのごろとてもやさしい。
通知表がよっぽどうれしかったんだと思う。
日記をたくさん書くくせがついてきたから、今日は短くしておく。
考え事もあるし。
1月4日
三が日もすぎた。
僕は今年になってから、あることをしよう、と決めていた。
それをやってみることにした。
あの日から1年以上たって、ようやく、ドラえもんの体を調べてみることにした。
とてもおそろしかった。
うまく書けないけど、僕はとにかくこわかった。
なにも言ってくれないドラえもんと向き合うのが、こわかった。
ずっとしめっぱなしだった押し入れの戸をふるえながら開けた。
大きなダンボールの中で、ドラえもんはあの日のまま、ねむっていた。
僕は、1年ぶりにドラえもんの顔を見た。
とたんに、なみだが出てしまった。
とてもなつかしいのに、とても悲しくて、どうしたらいいかわからなくなってしまった。
けっきょく、その日はドラえもんに泣きつくことしかできなかった。
なさけなかった。
2月4日
押し入れを開けてから、一か月たった。
あの日以来、まだ開けていない。
本当に僕は自分がなさけない。
勉強も気がのらない。
どうしたらいいのかわからない。
2月14日
しずかちゃんから今年もチョコをもらった。
「のび太さん、最近なんだかおちこんでるみたいだから・・・これ食べて元気出して」と
手紙がついていた。
あいかわらず、僕はしずかちゃんに助けられっぱなしだ。
僕はたんじゅんでよかった。
しずかちゃんには電話でありがとう、とだけ言っておいた。
チョコで元気が出た。
思い切って、もう一度押し入れを開けた。
動かないドラえもんを見るのはやっぱりつらかったけど、せいいっぱいがまんしてドラえもんを調べた。
あいかわらず、本当にネコ型ロボットとは思えない変わったかっこうだ。
それに、電池が切れているせいか、やたら重い。
手足を動かしてみようとすると、動くことは動くけど力がいる。
それに、動かすと元の場所にもどらない。
固まったままだ。
体の材質も調べてみた。
昔にさわっていた時にはあまり変に思わなかったけど、変わった手ざわりだ。
僕らの着ている洋服とはちがうし、ひふと金ぞくの間みたいな感じだ。
そしてなにより、冷たい。
動いているころのドラえもんは、人と同じであったかかった。
どうしてあったかかったのかは、なんとなくわかる気がする。
未来の人も、きっと、人と同じくあたたかいロボットを作りたかったんだと思う。
この冷たい体が、ドラえもんが今は電池が切れていることを教えてくれた。
ごめんよ、ドラえもん。
寒いのは、苦手なのにね。
僕は、ドラえもんをダンボールにもどしてから、その上にふとんをかけておいた。
今日はまだじゅんびみたいなもんだ。
つらいけど、これからが本番だ。
2月16日
どうやったら、ドラえもんの体の中を見ることができるのだろう?
どこかにスイッチがあるのだろうか?
調べていたら、いつの間にか夜になっていた。
宿題やってなかった。
あわてて宿題をやる。
2月17日
やっとわかった。
こしのつけねに小さなスイッチがあった。
押すと、ゆっくりおなかのカバーが開いた。
よかった。
電池が切れていてもカバーは開くみたいだ。
それにしても、何度か見たことはあったけど、すごい部品がぎっしりつまっていた。
くらくらした。
これはとてもじゃないけど、今の僕にはむりだ。
うちにあったさびたペンチくらいじゃさわるのもこわい。
ざんねんだけど、もっといろいろ調べなくては。
工具もいる。
知しきもいる。
3月2日
いよいよ、卒業式も近くなってきた。
学校では卒業式の練習ばかりだ。
僕はそれどころじゃない。
とりあえず、前にスネ夫が夏休みの自由研究で提出していたロボット工作セットを買ってみた。
それを組み立ててみることにする。
ちゃんと工具も買った。
僕はぶきっちょなので、いい練習だ。
説明書を見ながら、じっくりやってみる。
3月15日
なんとかできた。
おもちゃのネズミが、部屋をかけまわっている。
こんなおもちゃをつくるだけでこんなに大変なのか。
押し入れを見ると、気が遠くなる。
けど、くじけちゃいられない。
少しずつ、やっていこう。
3月26日
とうとう、僕も小学生を卒業した。
4年生をもう一回やる、なんてことがなくって本当によかった。
先生も泣いてよろこんでいた。
りっぱに卒業できたのも、半分はドラえもんのおかげだ。
いや、全部だ。
ドラえもんがいなかったら、きっと、ずっとビリだった。
僕はもう小学生じゃなくなっちゃうけど、ドラえもんとくらした日のことは、絶対に忘れない。
忘れないから。
だからドラえもん、君もきっと、おぼえてくれているよね。
いつか、君が目をさました時も。
もう、夏休みの宿題はほとんど終わっちゃった。
やればできるもんだなあ。
あとは、自由研きゅうがのこってる。
いつもだったら、ドラえもんに泣きついていたね。
みんなで自由研きゅうのためにいろんなところにぼうけんに行ったのを思い出したよ。
今年は、自分ひとりの力でやってみようと思う。
テーマは決まってる。
ロボットについてだ。
むずかしいとおもうけど、いま勉強していることをまとめるいいきかいだ。
9月1日
夏休みが終わって新学期になった。
小学校最後の夏休みはたくさん勉強した。
遊びに行ったのは、みんなと2回くらいプールに行っただけ。
ぼくはやっぱり泳げなかった。
わらわれちゃったけど、まあ、しょうがないね。
そうそう、自由研きゅうもちゃんと提出した。
ぼくがわかっていること、調べたことをきちんとまとめたつもり。
それにしても、やっぱりロボットってすごい。
日本の会社が作っているロボットだって、ドラえもんにはぜんぜんかなわないけど、ものすごい技じゅつのかたまりなんだってことがよくわかった。
未来のロボットの前に、まずは今の時代のロボットをもっと勉強しなくちゃ。
9月25日
ジャイアンたちと野球をしていて、手首をひねった。
ちょっとねぶそくでうとうとしていたら、ボールが飛んできてとびつこうとして変なちゃく地をしたときにいためたみたいだ。
けっきょく試合は負けちゃうし、ジャイアンにはどなられるし。
さんざんだ。
でも右手じゃなくてよかった。
ペンがにぎれないと困るから。
前のぼくなら、「やった、大いばりでなまけられる!」とか言ってよろこんでただろうけど。
10月6日
もうすぐ修学旅行だ。
場所は日光だって、先生が言ってた。
帰り道で、
「修学旅行楽しみね」としずかちゃんに言われて気がついた。
「ああ、そうだっけ」と僕が返事をすると、
「もう、のび太さんは楽しみじゃないの?」とおこられた。
それよりも、僕が気になって仕方なかったのは先週テレビで見た「ASOMO」っていうロボットのことだ。
大手の車のメーカーが作ったらしい。
あれはすごかった。
だれが作ったんだろう。
作った人に会いたい。できれば弟子にしてもらいたいくらいだ。
でも、ドラえもんのほうがもっともっとすごいロボットだっていうことも教えてあげたい。
とかなんとか考えていると、
「ねえ!のび太さん私の話聞いてる!?」とまたおこられた。
「このごろのび太さんずっと考え事ばっかり。返事もてきとうだし。知らない!」
と、僕をおいて帰ってしまった。
さすがにしまったと思った。
10月11日
修学旅行一日目。
日光まではバスで行く。
車の中でもみんなおおはしゃぎだ。
このまえ買ったアイザック・アシモフの本を読みたかったけど、僕は乗り物よいがひどいからやめておいた。
一日目は、日光東しょう宮と中ぜん寺湖に行った。
いい天気だったし、けしきも良かった。
このところ勉強ばかりしてたから、気分てんかんになった。
夜、旅館でみんなとおそくまではしゃいだ。
そして、ねころがりながらどの女の子が好きかを話しだした。
「ばかやろ、しずかちゃんはおれのもんだ。男はなあ、強くなくっちゃだめなんだよ。おれみたいにな」
「いやあ、今の世の中芸じゅつてきセンスが大事だよ。ぼくみたいに美しいものを理解できる男性がもてると思うよ」
とか言ってた。
みんなやっぱりしずかちゃんが好きみたいだ。
「のび太はどうなんだよ」と聞かれたので、
「うーん、よくわからないなあ」と答えたら、
「はっきりしねえやつだなあ、そんなんじゃ女子に好かれねえぞ」と、めずらしくジャイアンにまともなことを言われて気がついた。
最近、しずかちゃんとしっかり話をしていない気がする。
このところずっと上の空だったから。
明日は自由行動だから、しずかちゃんとまわってみよう。
10月12日
修学旅行二日目。
おそくまではしゃいだあとで日記を書いたからすごくねむい。
今日は、日光江戸村で自由行動だ。
しずかちゃんを連れていこう。
と思っていたらジャイアンとスネ夫もついてきちゃった。
しかたなく四人で回った。
忍者屋しきで二人になったので、思い切って話しかけた。
「あの・・・しずかちゃん。ごめんね、このところ、僕、ぼんやりしてて」
「そうね、のび太さん、ぼんやりしてること多いわね。なにかあったの?」
「うん、今さらかもしれないけど・・・やっぱり、さみしいなあ、って」
少し考えてから、しずかちゃんは
「ドラちゃんの、こと?」と言った。
僕は、そう言われて急に切なくなってしまって、うなずいた。
「大丈夫よ!きっとドラちゃん、タイムテレビでのび太さんのこと見てるわ。会えないのは何かじじょうがあるんでしょうけど、今ののび太さんを見てきっとよろこんでるわよ」
と言ってくれた。
僕は涙が出そうになってしまった。
本当のことを話してしまいそうになった。
けど、なんとかこらえた。
しずかちゃんにまで悲しい思いをさせたくない。
僕はわらって、
「ありがとう、しずかちゃん」とだけ言った。
しずかちゃんは安心してくれたみたいで、
「のび太さん、なにかなやみができたら言ってね。私いつでも話を聞くから」
と、わらってくれた。
しずかちゃんのわらっている顔を見たら、元気が出た。
帰りのバスの中はほとんどねちゃってたけど、いい旅行だった。
11月9日
テストでいい点を取ることが多くなった。
今日返ってきた算数のテストは89点だった。
でも、大事なところでのうっかりミスが多い。
ぼくはもともとおっちょこちょいなのだから、もう少し気をつけないと。
11月30日
休みの日に、ロボットの研きゅうで有名な先生の話(こうえん会、でいいのかな)を聞きに出かけた。
ちょっと遠かったけど、パパも
「のび太がきょうみあることはおうえんするよ。たまには勉強いがいのこともしなくちゃな」と言って連れて行ってくれた。
僕の本当の目的のことはだれにも言っていない。
パパにも。ママにも。もちろん友達にも。
なんでかは、まだ僕にもよくわからない。
電車で40分くらいのところにある科学博物館まで行った。
話をしてくれたのは、依田先生という、ちょっと変わったおじさんだった。
ふだんは大学の先生をしているらしい。
えらい人のはずなんだけど、どう見てもえらそうなかんじがしなかった。
背が低いのにさらにねこ背だから年をとった子どもみたいだ。
マイクを使って話をしているんだけど、声がぼそぼそしててよく聞こえない。
ぼくはなんとか聞きとろうと必死に耳をすませた。
けど、言っていることがわからない。
子供むけのこうえん会のはずだけど、難しいことばっかりしゃべっている。
けっきょく、話の内ようはちっともわからなかった。
なんだか、この先生は子どもに話をするつもりがないんじゃないだろうか、とも思える。
でも、話の最後に聞いた言葉がとてもいんしょうに残った。
「私は必ずロボットを完成させます。今の、人形でしかない、形だけのロボットではなく、本物の、どく立した意思を持つロボットを」
この人は、僕と同じ目的を持った人なんだ。
それを聞いて、僕はそう思った。
こうえん会が終わったあと、僕はこの先生のところに行った。
そして、
「先生、さっき言っていたことは本当ですか?」とたずねた。
そしたら、
「ああ、本気だよ。君は、ロボットが好きなのかい?」とぎゃくに質問された。
「・・・好きっていうのとちがいます。でも、友達を」と言いかけて、まずい、と思ってだまってしまった。
「?・・・まあ、いいか。どうきはよくわからんが、私のつまらないこうえんをねっしんに聞いていたね。君にも何か目標があるようだ。もし君がロボットへのじょうねつをうしなわなければ、また会えるかもしれない。このぎょうかいは広いようでせまいから」
と言って、名しをくれた。
「私はその大学できょうべん(?)をとっている。もし君が将来門をたたくならかんげいするよ」
と言って先生は行ってしまった。
勉強になったというより、なんだか変な気分にさせられた一日だった。
名しは、とりあえずとっておくことにした。
12月22日
いよいよ真冬の季節だ。雪が降ってきた。
学校も明日から冬休み。
終業式なので、通知表をもらった。
去年まではこの通知表をもらう時間がいやで仕方なかった。
でも、今年は自信がある。
先生がわたしてくれるとき、とてもいい顔をしていた。
「野比、たいへんすばらしい成績だ。よくがんばったな。むねを張ってご両親にお見せしなさい」と言われた。
まわりからおおーーっと声が上がった。
僕はうれしいのとはずかしいのがまざってよくわからなくなってしまって、急いで席に戻った。
あわてていたので、転びそうになり、わらわれてしまった。
体育と図工と家庭科は2、音楽は3だった。
歌はだめだけど、楽器はがんばったおかげだ。
他は国語が5、算数が4、理科が5、社会が4と、上出来だった。
われながらいい成績だ、と思ってにやにやしていると、いつのまにか、スネ夫とジャイアンが後ろからのぞいていた。
「うわ、のび太のくせに5があるよ」とスネ夫。
「ちぇー、のび太の野郎、出来杉みたいになりやがって。おれなんか、また母ちゃんにげんこつくらっちまうぜ。『たけし!またこんな1と2と3ばっかりの通知表よこして!たまには体育以外で5を見せてみたらどうなんだい!』ってな」と、ジャイアンがじょうだんっぽく言った。
まわりは大わらいだ。
ジャイアンは、このごろあまりらんぼうでなくなった。
もちろん、けんかっぱやいし短気なのはあいかわらずだけど、あまり弱い者いじめをしなくなった。
去年の冬くらいからだ。
理由は僕もよく知らない。
もともと親分みたいなやつだから、みんなからもけっこう人気が出てきた。
スネ夫とコンビになって、お笑いみたいなまねをしている。
みんな、ちょっとずつ変わってきているんだろう。
だって、僕らももうすぐ中学生なんだから。
学校から帰る前にこの日記を書いている。
はやくパパとママに見せたい。
きっとよろこんでくれるはずだ。
けど、本当に見せたい人に見せられないのが、とても悲しいし、くやしい。
どうだい、僕でも通知表で5をとれるんだよ。
1月1日
お正月だ。
今日くらいはのんびりしなさいとパパやママが言うので日記だけ書いて勉強は休むことにした。
お年玉をたくさんもらった。
パパとママはこのごろとてもやさしい。
通知表がよっぽどうれしかったんだと思う。
日記をたくさん書くくせがついてきたから、今日は短くしておく。
考え事もあるし。
1月4日
三が日もすぎた。
僕は今年になってから、あることをしよう、と決めていた。
それをやってみることにした。
あの日から1年以上たって、ようやく、ドラえもんの体を調べてみることにした。
とてもおそろしかった。
うまく書けないけど、僕はとにかくこわかった。
なにも言ってくれないドラえもんと向き合うのが、こわかった。
ずっとしめっぱなしだった押し入れの戸をふるえながら開けた。
大きなダンボールの中で、ドラえもんはあの日のまま、ねむっていた。
僕は、1年ぶりにドラえもんの顔を見た。
とたんに、なみだが出てしまった。
とてもなつかしいのに、とても悲しくて、どうしたらいいかわからなくなってしまった。
けっきょく、その日はドラえもんに泣きつくことしかできなかった。
なさけなかった。
2月4日
押し入れを開けてから、一か月たった。
あの日以来、まだ開けていない。
本当に僕は自分がなさけない。
勉強も気がのらない。
どうしたらいいのかわからない。
2月14日
しずかちゃんから今年もチョコをもらった。
「のび太さん、最近なんだかおちこんでるみたいだから・・・これ食べて元気出して」と
手紙がついていた。
あいかわらず、僕はしずかちゃんに助けられっぱなしだ。
僕はたんじゅんでよかった。
しずかちゃんには電話でありがとう、とだけ言っておいた。
チョコで元気が出た。
思い切って、もう一度押し入れを開けた。
動かないドラえもんを見るのはやっぱりつらかったけど、せいいっぱいがまんしてドラえもんを調べた。
あいかわらず、本当にネコ型ロボットとは思えない変わったかっこうだ。
それに、電池が切れているせいか、やたら重い。
手足を動かしてみようとすると、動くことは動くけど力がいる。
それに、動かすと元の場所にもどらない。
固まったままだ。
体の材質も調べてみた。
昔にさわっていた時にはあまり変に思わなかったけど、変わった手ざわりだ。
僕らの着ている洋服とはちがうし、ひふと金ぞくの間みたいな感じだ。
そしてなにより、冷たい。
動いているころのドラえもんは、人と同じであったかかった。
どうしてあったかかったのかは、なんとなくわかる気がする。
未来の人も、きっと、人と同じくあたたかいロボットを作りたかったんだと思う。
この冷たい体が、ドラえもんが今は電池が切れていることを教えてくれた。
ごめんよ、ドラえもん。
寒いのは、苦手なのにね。
僕は、ドラえもんをダンボールにもどしてから、その上にふとんをかけておいた。
今日はまだじゅんびみたいなもんだ。
つらいけど、これからが本番だ。
2月16日
どうやったら、ドラえもんの体の中を見ることができるのだろう?
どこかにスイッチがあるのだろうか?
調べていたら、いつの間にか夜になっていた。
宿題やってなかった。
あわてて宿題をやる。
2月17日
やっとわかった。
こしのつけねに小さなスイッチがあった。
押すと、ゆっくりおなかのカバーが開いた。
よかった。
電池が切れていてもカバーは開くみたいだ。
それにしても、何度か見たことはあったけど、すごい部品がぎっしりつまっていた。
くらくらした。
これはとてもじゃないけど、今の僕にはむりだ。
うちにあったさびたペンチくらいじゃさわるのもこわい。
ざんねんだけど、もっといろいろ調べなくては。
工具もいる。
知しきもいる。
3月2日
いよいよ、卒業式も近くなってきた。
学校では卒業式の練習ばかりだ。
僕はそれどころじゃない。
とりあえず、前にスネ夫が夏休みの自由研究で提出していたロボット工作セットを買ってみた。
それを組み立ててみることにする。
ちゃんと工具も買った。
僕はぶきっちょなので、いい練習だ。
説明書を見ながら、じっくりやってみる。
3月15日
なんとかできた。
おもちゃのネズミが、部屋をかけまわっている。
こんなおもちゃをつくるだけでこんなに大変なのか。
押し入れを見ると、気が遠くなる。
けど、くじけちゃいられない。
少しずつ、やっていこう。
3月26日
とうとう、僕も小学生を卒業した。
4年生をもう一回やる、なんてことがなくって本当によかった。
先生も泣いてよろこんでいた。
りっぱに卒業できたのも、半分はドラえもんのおかげだ。
いや、全部だ。
ドラえもんがいなかったら、きっと、ずっとビリだった。
僕はもう小学生じゃなくなっちゃうけど、ドラえもんとくらした日のことは、絶対に忘れない。
忘れないから。
だからドラえもん、君もきっと、おぼえてくれているよね。
いつか、君が目をさました時も。