Neetel Inside ニートノベル
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ゴミ扱いの不人気文芸作家にありがちなこと
②ナメきった後ろ向きな考え!!(10/06/30)

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 暗い部屋で一人、座イスをぎしぎしと言わせながら、俺は悔しさを噛みしめていた。
 俺の作品は面白くない。
 たったそれだけの事実が、俺のガラスの心臓を、蛇のように締め付ける。
 面白い作品が書きたい。この衝動は、最早呪いだ。面白い作品を書いて、そしてそれを読者に評価されるまで、解けることはない。面白い作品を書こう。そしてコメントを貰おう。

 そう思い立って、二日が過ぎた。筆は進まない。あの日、溶解アイスバー先生は、「売り」が必要であると教えてくれた。「売り」──俺にしか書けないもの、俺の小説だけのアピールポイントって何だ?
 分からない。だが、書かない事には、作品は完成しないし、コメントは貰えない。分析だ。分析が必要だ。新都社で人気が出てる作品、俺が書こうとするジャンル。それを読む。そして、そこから成功の方程式を導き出す。自分の売りも見えてくる。これはどうだろうか。
 うん、これはなかなか良いかもしれない。ググってみると、小説の書き方について言及してるサイトはあるが、それはもう使い古された手だろうし、新都で通用するとは限らない。新都で既に活躍してる人達を真似れば、俺も成功出来る。最初から持ってる才能なら、根拠はないが絶対に俺の方が上、同じ事をすれば、俺が勝つ。その筈だ。
 そう決めると、俺は新都社で連載してる小説を読み始めた。

 まず目についたのは、人気作家には、漢字姓+カナ名の人が多いということ。伊瀬カツラ、後藤ニコ、青谷ハスカ、崩条リリヤ。これは偶然のようなものだが、真似て損するものではない。どちらにせよワイルドキャットの名は使えない。だって<キャノンボール>はつまらない。その後面白くなったとしても、つまらない第一話で皆読むのを辞めてしまうから、もう見込みなしというわけだ。作者名の形は決まった。
 次に、文芸の人気作や話題作を読むうちに、俺はジャンルを決める事の必要性に気付いた。真似るにしても、ジャンルに差がありすぎると、方針が定まらないのだ。
「ファンタジーがいい」
 そう思った。
「ファンタジーなら書くときに知識がいらなそう」
 ナメきった後ろ向きな考え。消去法。

 さて、新都社のファンタジー小説は、かなり充実している。禁術師、ドラゴンクエストオリジナル、権謀のヴィエルジュ、ファンタジア、血のフィアンセ、その他エトセトラエトセトラ……。
 彼等は全て、俺が新たに書くファンタジー小説の踏み台になるわけだが、どの作品にも、共通していえるのは堅実であるということ。無理に、わけのわからない展開に持っていったりとかは、しない。あるがままに、書く。そして、魅力的な登場人物。
 そういえば、不人気作家の墓場という、編集部のスレに、誰かが書き込んでいた。
「魅力的な登場人物が重要だ」
 魅力的、そう魅力が必要だ。まず、魅力的な登場人物を考えよう。世界観だとか、お話だとかは、その魅力的な人物が活躍できるように作ればいい。となれば、まずは主人公だろう。
 主人公の名前、これはすぐに思いついた。かっこいいっぽいカタカナを並べれば、完璧だろ?

 主人公の名前は、グレイ・ウォッチャー・エルナト。
 てきとーだが、なかなかサマになった。
 外見は、オッドアイ。イケメンで、スマート、力持ちで、素早さが高い。剣術の達人ってのもいい。他のキャラが西洋のなまくら刀を持つ中、グレイだけは日本刀。髪の色は、名前そのままに灰色。出生も、小作農の三男だとか、商人の息子とかではなく、王族の血を引いてるってことにしよう。秘められし力だとか、選ばれし者だとか、そういう要素だって欲しい。
 グレイ・ウォッチャー・エルナトが、どんどん固められてきた。性格は、クール。いたってクールだが、優しい。何をやっても一番で、パーフェクトだが、それを少しも鼻にかけないで謙虚。そして凄い策士。
 かつて世界を滅ぼそうとした反逆者にして転生を繰り返す稀代の大魔法使いの魂を肉体に同居させており、その力を借りる事もある。
 おお、どんどん良くなってきた。
 一匹狼タイプだが、女にはモテて、稲妻のように素早く剣術の達人ということで、エクレールの異名を持つ。自身は魔法がからっきしだが、魔法使いの魂の力を借りることによって、核爆弾に匹敵する攻撃力を持つ必殺技を使う事が出来て……。
 忘れていた。主人公には、目的が必要だ。目的、それは勿論、世界を救うこと。いや、それはちょっと古いか。もっとダークな感じにしよう。大魔法使いと契約し、かつて大魔法使いを倒した五人の英雄を倒す事を目的にしよう。どういう契約か? 五人の英雄を倒したら、グレイの死んだ恋人を生き返らせてくれる、なんてどうだ。うんうん、お涙ちょうだいなんじゃないの?
 良い感じだ。
 まとめよう。主人公、グレイ・ウォッチャー・エルナトは王族の血を引く剣術の達人で恋人をよみがえらせるために英雄殺しの冒険をする。外見は漆黒のコートにオッドアイでイケメンでスマートで日本刀を持ち、二刀流で灰色の髪を風になびかせ、その腕前から稲妻──エクレールの異名を持ち、ドラゴンを倒したことで武勇が大陸全土に響き渡っており、かつて世界を滅ぼそうとした大魔法使いの魂を肉体に同居させ、クールな一匹狼で頭も切れる。大魔法使いと協力しての必殺攻撃は核爆弾に匹敵し、月にが欠けたのはかつて力が暴走した際の彼の仕業で都市がけし飛ぶ。基本的には優しい男で面倒見がよくみんなに慕われてる。

 あらら、ちょっと設定が増えた気もするが、まあいいか。
 あと、なにが必要だ? ヒロイン、ライバル、あと敵にストーリーの流れ。段々とワクワクしてきた。
 そう、この感じだ。創作が楽しくて楽しくてたまらないこの感じ。
 この時点でまだ俺は、大きな間違いをおかしていることに気付いていなかった。

       

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