Neetel Inside ニートノベル
表紙

中年傭兵ラドルフの受難
風向きと…

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 男は悩んでいた。この状況をどうするべきかと。状況は最悪。悪臭漂う密室に、彼はいまだに動けずにいる。しかし、彼の経験によって培われたカンが告げている。”さっさとトンズラしろ!!”と。外には武器を持った男たちが店主に金を要求しているようだ。もしかしてこのままじっとしていれば、連中は逃走するのではないかという期待もあったのだが。どうやら街の保安騎士どもが外で待機してる様だ。説得を試みている声が聞こえる。強盗どもは店にたてこもるつもりのようだ。
 臭い空気を吸い込み,、幸せとともに吐き出した。ため息である。無論なるべく音を殺してだ。わたくし傭兵業で売り込み中のラドルフ.リーデン(35)独身(童貞)はこの状況におけるストレスによる頭痛と、さっき食べた魚料理による腹痛と戦っている最中である。…察していただきたい。まさかトイレで唸っている間に店に強盗がくるなんて誰が予測できようか。まさに、日ごろの行いのたまものだろう。そしていくら上の口を静かにしていても下からは結構な音量とともに大量の排せつ物が出ているわけで…。ラドルフは二度目のため息をはいた。
「隣に居るのはもしかしてラドルフか?」
 なんか聞いたことのある声が隣の個室から聞こえる。ここの飯屋は宿屋も兼ねているためトイレは結構広い。小便器3つ、大便器個室が2つである。
「もしかしておっさんか?」
「案の定お前か。その下から出る汚いもんをさっさと止めんか!!臭くてしゃーねぇや」
 おっさんこと宿屋兼飯屋の店主モルド(49)である。
「うるせぇな。声のトーン下げろ。外の連中にばれるだろうが!」
「お前さんは傭兵じゃろが!!ちゃっちゃと始末してこんかい!!そのためのあのバカでかい剣じゃろが!!」
 ラドルフは少し声を詰まらせると、声を荒げて言った。
「うるせぇー!トイレにあんなバカでかいもん持ってくるわきゃねーだろ。そもそもてめーの出した魚料理が腐ってたんだろーが!!」
 おっさんは何だそんなことかと言わんばかりに、
「は、ツケも払わずにいっちょ前に客気取り追ってからにだいたいお前さんはいつもじゃな…」
 ――ドンドン
 ドアが乱暴に叩かれた。
「はいってます」
「はいってます」
 おっさんとラドルフの声がハモる。
 爆音とともにトイレのドアが両方蹴破られる。
「なーにこそこそ隠れてんだ?声が向こうまでダダ漏れなんだよ!」
 いらついた様子で剣をチラつかせながらおっさんが引っ張り出された。ようやくラドルフの排泄が終わった。驚いたせいで出るもんも出なくなってしまった様だ。
「てめぇーはさっさとツケ払うより先にケツを拭いてさっさと出てこい!」
「はい!」 
 ビシッと返事をし、ケツを拭いてラドルフはトイレを後にした。
 店ではお約束なかんじで、店の隅っこに人が集められている。おっさんの奥さんとその娘で、看板娘のメリーさんも無事のようである。なんかおっさんがやたら鋭い眼で奥さんに睨まれているが、いい気味だ。自業自得である。とか思っていたら、客の方から似たような視線がラドルフに突き刺さる。断言しよう。彼らの思いは100パーセントラドルフに伝わっている。
(傭兵のくせに隠れてやがったのか…!!)
と、そんな感じである。おっさんがザマ―ミロ的な顔をしてたが奥さんにつねられて変なツラが余計変になった。
 ――そのとき、不意に外から女の声が聞こえた。
「罪を自覚しているなら出てきなさい」
 上から見下すような嫌な声だ。と思っていた矢先に強盗連中がフラフラとした足取りで外に出て行こうとしている。コトダマ使いか――。瞬時に状況を把握するためにラドルフは頭をフル回転させる。しかし、こんなショボイ立てこもり事件でわざわざコトダマ使いが出張ってくるものなのか?犯人たちの意識が定まってないうちに、連中の荷物に目を向ける。なんかやばいものでも盗ったんじゃなかろーか。ふとそんな風に思いつく。客たちが不思議そうに犯人たちを見ている今のうちに、ラドルフは連中の荷物の中から妙に高価そうな箱を手に入れた。それを見つからないように懐にしまうと、外から犯人たちの悲鳴が聞こえてきた。
「なっ…なんだってんだ。チクショウ!!」
 一人が自棄になって保安騎士の一人に特攻するが、軽くいなされ手首を切り落とされた。
「があああああああ!!くそがああああああ!!!」
 店の中や野次馬からは悲鳴に似た声が聞こえていたが、例の女は虫けらでも見るかのような目つきだった。
 やばそうだなーと心の中では思っているのだが、懐に入れたこいつでひともうけできるという期待が大きかったせいもあり俺はこいつを隠すことにした。
 ようやく俺も人生の風向きってやつが変わってきたか――。
 そんな風に思い口を歪ませて笑っていたラドルフだったが、彼は知らない…。風向きは確かに変わったが、その風の強さを彼は理解していなかった。

       

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