防具の購入と短剣の手入れを終えて、ラドルフ達は仕事を探しに街へ出た。戦争の気運が高まっている中、あまり時間のかかる仕事は受けたくはないラドルフは保安騎士の詰所へと来ていた。詰所の一角にある掲示板を見つけると、ラドルフは一通り眼を通し始めた。ジーノもそれにならってラドルフの後ろから掲示板を見ているが、あまりよくわかっていないようだ。それを見たラドルフは、せっかくなのでジーノに説明することにした。
この掲示板に張られている紙に書かれている人物たちは、一般的に賞金首と言われている。その中には脱走した奴隷の捜索から大量殺人者の抹殺まで、様々なものが存在する。それらにはたいてい条件があって、例えば無傷で捕まえることが条件だったり、期間が限定されているものだってある。これらは依頼を受けずとも本人さえ条件を満たして捕まえるなり、殺すなりして保安騎士駐在所に持って行けば賞金が手に入る。そのため、常に妨害者や横取りに気をつけなくてはならない。たいてい大量殺人者や重犯罪人たちの懸賞金は国が掛けるものだが、それら以外はほとんどが商人や貴族がかけているものが多いのである。
「だからジーノ、こんなことわざがあるんだ」
さも得意げに話すラドルフの様子とジーノの様子に、周りに居る保安騎士たちはほほえましい表情で見ていた。
「狂人と金持ちは敵に回すなってな」
そのセリフで周りからの視線の種類が一気に変わったが、二人は気にせず話を続けていた。
「誰だって理屈の通じない相手をするのはもちろんごめんだが、金持ちはある意味それ以上に厄介だ」
そう言って意味ありげな笑みを浮かべると、ラドルフは保安騎士の一人に話しかけた。
「あの、すいません。この賞金首のこと聞きたいんですが…」
中年の騎士は話しかけられるとは思わなかったようで、少しビクッとしたが気を取り直して話し始めた。
「ん?ああ、最近手配されたバリーのことか」
「なんか地域限定の手配書ですよね?しかも随分と新しい」
中年騎士は少し顔を曇らせると、ややうつむきながら話し始めた。
「一応バリーは盗人となっているが、噂じゃあ冤罪だって話だからなぁ。大きい声では言えないが、この賞金を懸けた商人のヴェルンて奴はあまりいい噂を聞かないんだよ」
「盗人で冤罪ですか…。何を盗んだことになっているんですか?」
「ついこの間まで有名だった鍛冶屋の武器加工技術らしいが…。それも本当は正当に受け継いだだけって話だよ」
中年の騎士はそう言った後かわいそうにとボソッと口にすると、何か用があるのか立ち上がって奥へと引っ込んでいった。それからラドルフはもう一度手配書の詳細を確認して詰所を後にした。
盗人バリー・ハント
不当にも死亡した有名鍛冶師の武器加工技術を独占しようとしている疑い。現在逃亡中であり、この身柄を無傷で押さえた者には賞金を与える。
一般的に傭兵は無法者、賞金稼ぎは人でなしとして知られている。まあ冤罪で懸賞金をかけられている連中が結構多いのは周知の事実なので、それをわかっていながら生業としている奴らは金のためなら人の人生なんて何とも思っていないと思われても仕方ないのだろう。実際そういう奴らばかりである。今回のバリー・ハントの件も冤罪の可能性は高いだろう。しかしここまでラドルフ達にとって条件の合った賞金首はそうはいない。手配されるのがごく最近で、賞金稼ぎ達が手間がかかる為なかなか選ばない生け捕りのみの賞金首だ。
手間がかかるのは探し出すこともそうだが無傷でとらえることも思いのほか難しい。とりあえず今回は探し出すことは心当たりがあるので問題ない。無傷でとらえる方法は、気は進まないが人質でも盗ることにしよう。
とりあえずその心当たりというのは、手配されてからそんなに経っていないのに、彼が冤罪であるという情報が流れ過ぎていることだ。賞金首の話なんて、普通はよっぽどの重犯罪者でもない限り一般人に知られることは少ない。殺人者ですらないバリーがここまで一般人にも知られているのは、おそらく彼の仲間が冤罪を晴らすべく噂を流布していると考えられる。ならば賞金目当てのラドルフとしては、その噂を広めている仲間をひっ捕まえてバリーの居場所を吐かせるのが手っ取り早いわけである。賞金首は早い者勝ちだ。急いで探さなくてはならない。ラドルフ達はなるべく人通りの多い道に出ると、それらしき人物を探し始めた。
中年傭兵ラドルフの受難
賞金首
ラドルフ達がそれらしき人物を見つけるのにそう時間はかからなかった。明らかに人が集まりそうな場所を選んで噂について話している。その男は20代後半くらいの男で、ごつい体をしているが見た感じ頭の悪そうな奴である。まず、そいつの素性を調べると鍛冶屋でバリーのもとで下働きをしていたラーオという男らしい。家族は老いた母が一人。そこまで調べがつけばやることは一つである。
ラドルフはラーオが人気のない路地に入るのを見計らい声をかけた。
「あんたバリーのとこで下働きしてたラーオだな?話がある」
ラーオはビクッとして振り向かずに走って逃げようとしたが、ジーノに足を引っ掛けられてすっ転んだ。
「逃げるなよ。でもまあ逃げるってことは知ってるってことだろうから、わかりやすくてありがたいがな」
ラーオは地面に這いつくばりながら顔を起こした。
「お、俺が何を知ってるって言うんだ」
ラーオの首筋に短剣を突き付けてラドルフは続けた。
「バリーの居場所だよ。さっさと言えよ?でないと俺の仲間がお前のお袋さんに何をしても知らんからな」
ラーオは眼を見開いた。あまりの憎悪、嫌悪感に吐き気すら覚えた。無論ハッタリだがラーオがそんなことを知る術はない。ここでラドルフが彼の母親の存在を知っているというだけで物事は有利に運ばれる。ジーノは無表情のままだが、情報の大切さを再確認していた。
「お、おめぇ!」
「時間が無いんださっさと案内しろ。お前の恨み言を聞いてやる暇も興味もないからな」
あくまで淡々と話すラドルフに観念したのか、俯いたままトボトボと歩きだすラーオ。その後ろをラドルフ達は臨戦態勢のままついて行った。
歩くこと数分、意外と町中にあるその建物にラドルフ達は入っていった。今は誰も使っていない建物、うす暗く埃っぽい地下にバリーは武装したまま横たわっていた。
「バ、バリーさん…」
その声にむくっと起き上がったバリーは眼を細めてこちらを見た。
「ラーオか?あまりここには来なくていいと…」
バリーが話しかけている途中で、後ろに居たラドルフがラーオを足払いしてその足を短刀で刺した。
「ぎゃああ!」
「んな!?」
それに驚いたラーオとバリー。ラーオは足を押さえてもがいている。バリーは素人ながらも剣を構えて距離を取った。
「いきなりだが、こいつの命が惜しけりゃ武器を捨てろ」
突然の出来事にバリーは考えがまとまっていないようだ。ラーオはただひたすらに泣きながらバリーに謝り続けている。少しすると、バリーは観念したのか剣と防具を床に置いた。
「おい、これでいいんだろう?ラーオを離せ」
ラドルフはバリーの声に諦めがこもっていないように聞こえた。ここは慎重にいくべきだろう。
「ジーノ、奴の体に武器が無いか調べろ」
ラドルフの後ろから無表情のまま近づく小柄な人影にバリーは驚いているようだ。ジーノがバリーの体を調べ始めた瞬間、バリーがジーノを羽交い絞めにして指輪に仕込んであったカミソリをジーノの首筋に当てた。
「これで条件は同じだ!さあラーオを離せ!!」
勝ち誇るように叫ぶバリーを冷ややかな目で見ると、ラドルフはラーオのもう片方の足を刺した。
「が、がああああ!」
そのあまりにも意外な行動にバリーはジーノを抱えたまま意味もなく後ずさってしまった。
「な、何を…」
「俺は武器を捨てろと言ったよな?」
「そんなことすればこのガキを…!!」
「殺してないじゃないか。まあジーノを殺しても状況が悪くなるだけだしな」
あくまで冷静に話し続けるラドルフに絶句するバリー。
「俺もラーオを殺せないのは同じだが、痛めつけることはできる。どうする?これ以上ダダをこねるならこいつの指を1,2本切り落とすが?」
いよいよ追い詰められたバリーは小刻みに震えだしている。そしてこんな状況でも全く表情を変えないジーノに気づきさらに怯え出した。
「ま、待ってくれ、俺はハメられたんだ!兄弟子たちとあのヴェルンって商人に…!!」
ラドルフはバリーの話の途中でラーオの小指を切り落とした。
「んぎゃあああ!あー、あー!指ぃいいい!!」
冷たい声と冷静な目線でラドルフはバリーに話しかけた。
「俺がそんな話を聞きたいと言ったか?お前のやったことが善行であろうと悪行であろうと、お前を捕まえれば金が手に入ることに変わりは無い」
その言葉を聞いてバリーはその場に崩れ落ちた。体だけでなく心も…。
その後、ラドルフ達はラーオの止血だけ済ますとバリーを保安騎士の詰所に引き渡した。2、3日後に報酬がもらえるようだ。宿に帰った後ラドルフは胸糞悪い仕事で重くなった気分のままジーノに話しかけた。
「今回みたいにお前が捕まっても、俺は基本的には助けるつもりはない。前にも言ったが、危ないと思ったらすぐ俺から逃げてもかまわない。好きにしろ」
その言葉を聞いてジーノは只まっすぐラドルフを見つめた。ラドルフにはその時のジーノがなにを考えているかさっぱり分からなかった…。
ラドルフはラーオが人気のない路地に入るのを見計らい声をかけた。
「あんたバリーのとこで下働きしてたラーオだな?話がある」
ラーオはビクッとして振り向かずに走って逃げようとしたが、ジーノに足を引っ掛けられてすっ転んだ。
「逃げるなよ。でもまあ逃げるってことは知ってるってことだろうから、わかりやすくてありがたいがな」
ラーオは地面に這いつくばりながら顔を起こした。
「お、俺が何を知ってるって言うんだ」
ラーオの首筋に短剣を突き付けてラドルフは続けた。
「バリーの居場所だよ。さっさと言えよ?でないと俺の仲間がお前のお袋さんに何をしても知らんからな」
ラーオは眼を見開いた。あまりの憎悪、嫌悪感に吐き気すら覚えた。無論ハッタリだがラーオがそんなことを知る術はない。ここでラドルフが彼の母親の存在を知っているというだけで物事は有利に運ばれる。ジーノは無表情のままだが、情報の大切さを再確認していた。
「お、おめぇ!」
「時間が無いんださっさと案内しろ。お前の恨み言を聞いてやる暇も興味もないからな」
あくまで淡々と話すラドルフに観念したのか、俯いたままトボトボと歩きだすラーオ。その後ろをラドルフ達は臨戦態勢のままついて行った。
歩くこと数分、意外と町中にあるその建物にラドルフ達は入っていった。今は誰も使っていない建物、うす暗く埃っぽい地下にバリーは武装したまま横たわっていた。
「バ、バリーさん…」
その声にむくっと起き上がったバリーは眼を細めてこちらを見た。
「ラーオか?あまりここには来なくていいと…」
バリーが話しかけている途中で、後ろに居たラドルフがラーオを足払いしてその足を短刀で刺した。
「ぎゃああ!」
「んな!?」
それに驚いたラーオとバリー。ラーオは足を押さえてもがいている。バリーは素人ながらも剣を構えて距離を取った。
「いきなりだが、こいつの命が惜しけりゃ武器を捨てろ」
突然の出来事にバリーは考えがまとまっていないようだ。ラーオはただひたすらに泣きながらバリーに謝り続けている。少しすると、バリーは観念したのか剣と防具を床に置いた。
「おい、これでいいんだろう?ラーオを離せ」
ラドルフはバリーの声に諦めがこもっていないように聞こえた。ここは慎重にいくべきだろう。
「ジーノ、奴の体に武器が無いか調べろ」
ラドルフの後ろから無表情のまま近づく小柄な人影にバリーは驚いているようだ。ジーノがバリーの体を調べ始めた瞬間、バリーがジーノを羽交い絞めにして指輪に仕込んであったカミソリをジーノの首筋に当てた。
「これで条件は同じだ!さあラーオを離せ!!」
勝ち誇るように叫ぶバリーを冷ややかな目で見ると、ラドルフはラーオのもう片方の足を刺した。
「が、がああああ!」
そのあまりにも意外な行動にバリーはジーノを抱えたまま意味もなく後ずさってしまった。
「な、何を…」
「俺は武器を捨てろと言ったよな?」
「そんなことすればこのガキを…!!」
「殺してないじゃないか。まあジーノを殺しても状況が悪くなるだけだしな」
あくまで冷静に話し続けるラドルフに絶句するバリー。
「俺もラーオを殺せないのは同じだが、痛めつけることはできる。どうする?これ以上ダダをこねるならこいつの指を1,2本切り落とすが?」
いよいよ追い詰められたバリーは小刻みに震えだしている。そしてこんな状況でも全く表情を変えないジーノに気づきさらに怯え出した。
「ま、待ってくれ、俺はハメられたんだ!兄弟子たちとあのヴェルンって商人に…!!」
ラドルフはバリーの話の途中でラーオの小指を切り落とした。
「んぎゃあああ!あー、あー!指ぃいいい!!」
冷たい声と冷静な目線でラドルフはバリーに話しかけた。
「俺がそんな話を聞きたいと言ったか?お前のやったことが善行であろうと悪行であろうと、お前を捕まえれば金が手に入ることに変わりは無い」
その言葉を聞いてバリーはその場に崩れ落ちた。体だけでなく心も…。
その後、ラドルフ達はラーオの止血だけ済ますとバリーを保安騎士の詰所に引き渡した。2、3日後に報酬がもらえるようだ。宿に帰った後ラドルフは胸糞悪い仕事で重くなった気分のままジーノに話しかけた。
「今回みたいにお前が捕まっても、俺は基本的には助けるつもりはない。前にも言ったが、危ないと思ったらすぐ俺から逃げてもかまわない。好きにしろ」
その言葉を聞いてジーノは只まっすぐラドルフを見つめた。ラドルフにはその時のジーノがなにを考えているかさっぱり分からなかった…。