あれから俺は無事に連中を撒くことに成功しなんとか冒険者の資格も手にいれた。
冒険者になるためにはどんな大変な苦難が待ち受けているのだろうかと試験内容が怖かったが蓋を開けてみると大したものではなかった。
書類手続きと身体検査。それと簡単な筆記テスト。たったそれだけで冒険者の資格を俺は手にいれた。
筆記テストの内容は主に冒険の内容についてだった。全部で20問ほどのものだった。
1.強力な敵を前に仲間が怪我を負ったらどうすべきか。
2.任務遂行の進退について意見が割れたときどうするのか。
3.宝箱を前にしてまずなにをすべきか。4.敵を発見したらどうしたらいいのか……など。
そんな内容だった。もちろん俺は全く分からなかったので困っていたが周りの人間も大して自分と変わらない表情だったので安心した。
そしてテストが返ってくると満点。
これらは全て正解であり貴方が正解だと思う最善の行動をとるのが冒険者である。
そんなことが記されていた。つまり絶対にこのテストは合格するのだ。白紙の場合はどうか分からないが……。
冒険者か……。兄貴と会うのはどれくらい後になるんだろうか。
とりあえず一番最初の仕事は凱旋してもらった。その後は自分で仕事を探さないといけない。
駆け出し冒険者の俺に仕事なんて者はそうそう入ってこないだろう。
しかも俺には馬鹿兄貴が作っ膨大な借金1億Gという負債がある。選り好み出来るような状態ではないができれば羽振りのよい仕事が欲しい。
「はぁ……」
知らずの内に溜息が漏れた。
1億G。一体何をしたらそんなに借金するんだろうか。
きっと兄貴の事だ。病気の父を持つ貧乏な娘のために高額な薬を買ってきてやったり借金だらけの友人のために肩代わりしてやったりとかそんなことだろう。
大体兄貴は基本的にお人好し過ぎる。兄貴を良く知らない奴はやれ自己満足だのやれ偽善だの言うが兄貴は異常なほど優しいだけだ。
ただ困っている人と知りあってしまうと助けてやりたくなってしまうだけだ。金が無くても。
だけどそんな兄貴だからこそ俺は好きだしかっこいいと誇りにおもっている。
まぁでもなんだかんだでカジノでつかいこんだ額も相当なものだろうな。
とりあえず今は冒険者稼業を必死にこなしていくしかない。
そうすれば兄貴ともいつか会えるだろう。
まず必要なものを買い揃えないといけない。カンテラ、ロープ、ナイフに食料、水……色々必要だ。
それに宿の心配もある。主に依頼を請け賜っているのは酒場や宿だし、なにより寝床が必要だ。
「はぁ……」
また溜息が漏れた。思っていたより大変だ。
自分で何もかも探さないといけない。国からの援助なんてこの大量生産の安い一振りの剣と冒険者認定証だけ。
兎に角今は頑張ろう。
冒険に必要なものをとりあえず買い揃えて宿の心配もなくなった。
小さな酒場だけれどそこに寝泊りする事になったからだ。もちろん宿賃は払うし食事代も必要だが、開店したばっかりで同業者がだれもいないのは魅力的だった。
とはいっても同業者がいないということは知名度が低いと言う事だ。知名度が低いと言う事は仕事の依頼が頼まれる事も少ない。
まずはこの酒場を拠点に俺が有名になっていかないといけないらしい。
マスターは良い人だし頑張って行かなければ。
「それじゃあマスター、後で仕事のほうも頼んだよ」
「任せとけ。うちの酒場が有名になるためならやってやるさ。何のためにあんたを泊めると思っている」
「そりゃそうだ」
鈴の音が鳴り響く。
さぁ、冒険の始まりだ。
凱旋された仕事は……茸狩りね。まぁ最初はそんなものか。
おっ? でも報酬は2000G……かなり報酬がいいな。茸狩りでこんなにもらえるなんてついてるかも。
依頼者のいる村へと向うと既に俺のほかにも何人かの冒険者がいた。
「よう、やっときたか」
柄の悪い男が馴れ馴れしく話し掛けてくる。どう見たって俺より年下だ。
年は16か18といったところだろうか。
「なんだお前は」
「まぁ、そうかりかりすんなよ。これから一緒に仕事する仲だろ」
えっ? どういうことだ?
独りでやるんじゃないのか? ここいらにいる連中と一緒に仕事をする?
怪訝な表情の俺を見て呆れたように男は溜息をついた。
「おいおい……あんたもかよ。この仕事が初めてだろ?」
「ああ」
「いいか? 冒険者の仕事は常に死と隣り合わせなんだ。どんな簡単そうな依頼だって俺たちに依頼するってことは危険が待ち伏せているってことなんだよ」
随分と威圧的な態度だが、まぁしょうがない。
聞いているとこ俺よりは経験を積んでいるらしい。俺より年下なのに。
「だれだって死にたかない。できれば怪我もしたくない。だったらどうする? 他の奴らと一緒にやりゃあいい。そうすりゃ簡単に敵を袋叩きにできるし、自分が狙われる確立もぐっと下がる」
「まあ、わかった。それで気になるのはさっきの、あんたもかよ、っていう言葉なんだが」
「あー。まぁ、俺以外の奴らは全員新参者だってこと」
なんだと? まぁ、でも茸狩りだし平気だろう。
いや、さっきの言葉通りだ。どんな危険があるかは分からない。油断せずに行こう。
俺を含めて集っているのは6人。
パーティとしてはこの人数が最適なのかもしれない。
「ほんじゃま、ぼちぼちいこうぜ」
男の号令で全員が歩き出した。
尊重の家で渡された紙を見る。
依頼内容は茸狩り。なんでも珍しい茸があるそうだが魔物がいており、収穫できないんだそうだ。
場所は北にある山の麓の森。
依頼者は近隣の住民。
ただ村長から話を聞く限りどうにも信憑性が薄く感じられた。
そこに茸があるかどうかもよくわからない。それにどんな魔物が住み着いているのかも分からないという。
なんせそこは昔から魔物が住み着いており禁忌として近寄る事も許されないんだそうだ。
どうにも情報が無さすぎる。ただのいたずらということもないだろうけれど。
「やあ、僕の名前はフージュ。君の名前は?」
紙とにらめっこしているといつのまにか隣に今回一緒に仕事する冒険者がいた。
見た目は16歳くらいと若い。冒険者に憧れて家を出たと言うところだろうか。
「ああ、俺の名前はロラン。よろしく」
「うん。よろしく。ところでなんで君は冒険者になったの」
「あー……」
借金を返す為とはちょっと言いにくい。
無難な返事がいいだろう。
「一攫千金目指してさ。一山当てたいんだよ」
「あーなるほどね。僕は裏社会に興味あってさ。こう見えても地元じゃいがいと有名な悪がきだったんだよ」
へー。人はみかけによらないらしい。
どっちかというと可愛いという表現が似合うが、まぁその容姿でいろいろしてきたんだろう。
「でも良かったよ。君みたいな若い男の人がいてさ。頼りになるし」
「はは。でも俺も君たちと同じで仕事は初めてなんだ。大して役に立たないと思うがな」
「いや、そんなことないでしょ。僕見てわかるよ。冒険者になる前は兵士やってたでしょ」
ぎくっとする。
なんでわかるんだ? もしかして地元って俺の故郷か?
「……正解だ。なんでそれを?」
「職業柄っていうか、まぁわかるんだよ。がたいがいいわけじゃないけど引き締まった無駄の無い筋肉とかさ。かっこいいよ」
どうやら俺のことは知らないらしい。助かった。
でもそんな風に言われるとちょっと照れるな。
なんとなく目のやり場に困ってまた依頼の紙を見てほおを掻く。
「それに僕あのリーダー見たいに偉そうにしてる奴気に入らないんだよ。ああいのう嫌いだし、他の奴らはみんな僕と同じ年ばっかでびびってるのか話し掛けても黙ってるし」
確かに良く見るとみんな子供だ。
ということは俺がこの中で最年長になるのか。
「僕お兄さんみたいな人好きだよ。この後仕事が終わったら僕と宿にいこうよ。二人っきりでさ」
そっちの子か。残念だけど、俺にそっちの趣味は無い。
……といいたいんだけれど最近アナニーにはまってるんだよなあ。だからといって男と寝る気にはなれないけど。
まぁでも兄貴とだったら……別にいいかも知んないな。もちろん兄貴が俺を求めるのならだけど………って何考えてんだ俺は!
これじゃあいつに言われたブラコン通り過ぎて変態だ!
「ねぇ、僕の凄い気持ち良いって評判なんだよ。それに僕も上手いし……お兄さんみたいな人にがっんがっつん突かれたいなあ」
顔が真っ赤な俺を見て誤解したのかどんどんアプローチしてくる。
困ったなあ。このことそんなことする気はないんだけれど、断ったら気まずいし……。
「うーん。そうだなあ。まぁ考えておくよ」
適当に答えておけばいいかな。あーでも困った。
俺男からそんな事言われるのはじめてなんだよ。なんていえばいいのか分からん。
まぁ女から言われた事も無いんだけどな……。
「ふぅん。そっか残念だね。でもきっと仕事の後はストレス溜まってると思うよ。だから僕も解消したいし、お兄さんも僕で発散してくれると嬉しいな」
さわりと最後に俺の腹筋をひとなでして去っていってしまった。
なんか、凄い不思議な子だな。てかいつのまにか君からお兄さんにかわってたな。
でもなんつーか、腹筋撫でられたのはちょっと気持ちよかったかもしれない。
「あっ、やべ」
たってきた。最近全然してなかったから溜まってんだな。
あんな子にも反応しちゃうだなんて、なんて恥ずかしいを通り越して屈辱だ。
俺が意識すればするほど徐々に膨れ上がろうとするものを一生懸命治めようとしているといつのまにか目標の場所まで辿り着いたらしい。
「おい、てめーら新参者は俺の足ひっぱんなよ」
ずかずかと中に入っていく。
森は異常なほどの静けさだった。
静寂と深い闇が森を支配している。そう思った。