「今からみんなにちょっと、もやし合いをしてもらいます」
担任のキタオが言った。
「何のために俺らがもやし合いしねーといけねぇーんだよ!」
体育委員の長谷川が、キタオに詰め寄りながら言った。
「なんとか言えよ」
不敵な笑みを浮かべるキタオは、胸ポケットからもやしを一本取り出し、長谷川の喉下に突き付けた。教室は凍りついた。
「へっ、ははっ、んなもん怖かねーよ、どうせ中国産だろ」
動揺を隠しながら長谷川は言った。
「おぉ?びびってんじゃねぇか、喉の震えが、もやしを伝ってくるぞ」
せせら笑いながらキタオは言った。
「てめぇの腕が震えてんじぇねぇの?ジジイ」
最後の挑発から一秒も経たない内に、もやしは長谷川の喉を貫き、血潮が床を染めた。
女子生徒の叫喚が教室中に響き、男子生徒は皆、瞳孔が見開いていた。
騒然とする教室。
「うるせぇ、黙れ、ガキども!」
キタオが声を荒げた。
軍服姿の男がマシンガンを生徒たちに突きつけた。
銃口からはみ出したもやしの豆部分を確認した生徒たちは黙るより他無かった。
この場では、もやしを持つ者が絶対者であり、生命が惜しければ彼らに従わなければならないという共通の理解が、長谷川の死を目の当たりにした生徒たちにはあった。
「モウ、ワカワカンナイヨ!理由オシエテヨ!モヤシッテナンダヨ!」
業を煮やした留学生のアンダーソンが言った。
すると、血で染まったもやしを、絶命した長谷川の鼻の穴に抜き差しして遊んでいるキタオが、しゃがみ込んだまま答えた。
「今の子供たちは皆もやしっ子になってしまいました」