Neetel Inside 文芸新都
表紙

もやしロワイヤル
もやしは夢幻のごとく

見開き   最大化      

戦いの幕開けから二週間が過ぎた。
生存する生徒の人数は、今や点呼時の3分の1以下にまで減った。
生徒たちの生存を賭けた戦略は、集合と離散、協調と対立、そして孤立というように、様々な形をとって現れた。
現在の時刻は正午過ぎ。
真上へ昇った太陽から無限に放射される強烈な日差しは、生き残っている生徒達の体力を着実に奪う。
石井浩助は島の西側にある浜辺に潜伏していた。
ここは内陸部と違って虫がおらず、岩陰もあるので涼しさもある程度確保できた。
ここ2日間、彼はこの浜辺から動いていない。
というより動けなかった。
2週間も経つとさすがに、どこかへ移動できるような体力はもうなかった。
喉の渇きを少しでも潤わそうと、残り少なくなったもやしをつまんでいる。
カモメの鳴き声に混じって、定時放送が聴こえてきた。
意識は朦朧としていたので、放送が何を言っているのかは理解できなかったが、声の主がいつもと違ってキタオではないことは分かった。
若い男の声だった。
「えー、皆さんこんにちは。この小説の」
ハウンリングが起こる。
「作者であります大倉社長と申します。唐突になりますが、この放送を持ちまして、2週間に渡って繰り広げられましたもやし合いを終了したいと思います。まずこちらの勝手な事情でこのもやし合いを終了させて頂くことについて謝罪をしたいと思います。申し訳ございませんでした。皆さんの中には、自分が小説か何かの登場人物ではないかと、薄々感づいていた方もおられるのではないでしょうか。私はもっと」
ハウリングが起こる。
「早い段階で皆さんがお気づきなると思っていたのですが、いやはや、意外でございました。何かおかしいとお感じにはなられませんでしたか。もやしというのは野菜の中でも非常に足の早い、つまり腐りやすいものであります。みなさん、手元にあるもやしをご覧ください。2週間もの間、炎天下に晒されながらも初めの新鮮さを保っています。このようなことはフィクションの世界でしか起こりえないわけであります。もっと言えばですね、もやしで人を殺せますか。たしかに睡眠中に見る夢の中では不条理なことが起こったとしても人はすんなり受け入れてしまいますね、しかしこの世界は皆さんにとってはれっきとした現実の世界なのです。長谷川君がキタオ先生、あ、ちなみにキタオ先生は、私が全てはフィクションであると伝えたところ、では帰ると仰ったので私が用意したチャーター機でお
帰りになられました。えー、なんでしたか、そうそう、長谷川君がキタオ先生に殺された時点でおかしいと気づいて欲しかった。有り得ませんよ、もやしで人が殺せるなんて、馬鹿げてる。しかし非難されるべきは皆さんだけではありません。作者である私にも非難されうる点はいくつかあります。まず、皆さんがあの教室に到着するに至るまでの間に色々な出来事がありましたね。しかし私はその描写を全くしていませんし、また、話のメインになるはずのもやし合いの様子を大胆にも全て省きました。それから、舞台背景や戦いの目的やルールについても描写をしませんでした。というか怠ったわけであります。申し訳ございません。しかし、私だって辛かった。書いているうちに、徹底して描写すべきだった後悔したのです。特に戦いのルールについてはそう思いましたね。徹底して説明すべきでした。でないと読者がついていけませんからね、まぁ読者といっているかいないかわかりませんが。それから、話の鍵を握りそうないじめられっ子を登場させた辺りでもう、あぁこれもう無理だな、続かねえなと思ってました、正直。とにもかくにも、これで戦いは終わるわけであって、皆さんにとって吉報であることに変わりはないはずです。大変お疲れ様でした。では最後にですね、まぁ追悼の意を込めまして、亡くなられた方々のお名前を読み上げさせていただきますね。えー、ジョージ・アンダーソン・・・」 
 島を後にしてから中学校を卒業するまでの3ヶ月間、生徒達は一連の出来事についてお互いに何も話さなかった。
もやしは夢幻のごとく。

       

表紙

大倉社長 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha