列車が地球を離れていくにつれて、車内からは人間が姿を消していき、代わりに見慣れぬ宇宙人が増えていく。
肥大した頭、緑色の肌、四本足に五本足。鱗。
目的のフシダラは終着駅なので、まだまだ時間がかかる。
車内に飛び交う謎の言語を子守唄にして、藤岡は一眠りした。
藤岡は何者かに揺すられて目を覚ました。
「Do you mind if I sit? (おとなり座っていいですか)」
人間だった。
「No, not at all (構いませんよ)」
異国人ではあるものの、久しぶりに同じ人間を見たので、異様な形態の群集の中でひそかに感じていたある種の孤独感を、藤岡は解消できた気がした。
その異国人は、がっちりとした体に中国風の服を纏い、後ろに束ねた黒い髪が印象的な白人男性だった。
藤岡はワゴン車で車内販売をする女性定員に、大好きなホットコーヒーを一杯頼んだ。
すると隣に座ったその男も、ワゴン車をくまなく調べ漁り、迷惑そうにする女性店員をよそに、サラミやチーズなど大量のつまみ類、酒を購入した。
「飲んだ暮れの隣か、ついてないな」
藤岡はそう思った。
次々につまみの封を開け出したその男は、驚くべきことに、それらのつまみを組み合わせ、美味そうな一品料理を作るという芸当を披露して見せたのだ。
「Eat? (食べるかい)」
聞くとその男は元コックだという。
藤岡は納得した。
二人はすっかり意気投合し、話が弾んだ。
その男は、車内にいる宇宙人を次々に指差して、その宇宙人の基本情報はもちろん、今何を話しているのかなども説明してくれた。
彼は宇宙人語にもある程度精通しているようだった。
少し酔っていたので、彼の話にはフザけた部分もあったが、それはそれで面白かった。
「俺はフシダラへ行くんだが、あんたはどこへ行くんだい」
「Fusidara (フシダラだ)」
乗車中に退屈することはなさそうだと、藤岡は嬉しく思った。
突然、前の車両から女性の悲鳴が聴こえた。
扉が蹴り開けられた。
「有り金を全て出せ!さもなくばコイツを殺す!」
車両強盗の一味が、美しいブロンドヘアーの女性を人質に、車両内に突入してきた。
藤岡と異国人の楽しい談笑は、一時中断を余儀なくされた。