Neetel Inside 文芸新都
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レインドッグ
第十六話〈その三〉 夜明けの家族

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第十六話〈その三〉 夜明けの家族

 室内は沈黙だった。
 聞こえるのは、空調の極めて小さな音。そして二人の口の交わる水気を含んだ音。
 破ったのは雄一だった。
「あっ」
 れいんのすぐ後ろに設置されていたベッド。それが大きく揺れた。
 雄一は自分の体重を掛けて、れいんをベッドに押し倒した。
 倒されてすぐ、れいんは雄一の側頭部を強く殴った。
「いてっ!」
「…お父さんの自覚がないのか」
 れいんはそう、ぼそりと呟いた。それを聞いて、雄一はようやく悟った。
「…悪い」
「優しくしてね。あたしは妊婦さんなんだから」
「…お前を見てるとなぁ……忘れそうに――」
 もう一度同じところを殴られた。
「あたしがお母さんらしくないとでも?」
「…立派な妊婦さんです……」
「宜しい」
 痛みに震える雄一を尻目に、れいんは満足げな様子だった。
「…じゃあ、れいんさん」
 雄一は、れいんのセーターを巻くり上げ、脱がせようとした。
 れいんは特に抵抗はせず、雄一のなすがままにされた。
 一分もしないうちに、れいんはスカート以外全て脱がされた。
「質問」
「何さ」
「どうしてスカートだけ?」
「お腹が冷えるとマズイだろ」
 雄一は、真剣そうな顔を取り繕っていた。しかしれいんにはすぐに見抜かれた。
「スカート穿いてるほうが『くる』だけでしょ?」
「…なんのことかな?」
「その方がやる気が出るってはっきり言えばいいのに」
 嘲笑うような顔でれいんがそう言ったと同時に、雄一の中指がれいんの膣に音も
なく侵入した。れいんは小さく声を漏らす。
「そ、そんな、いきなり入れないでよ」
「はいはい図星でした」
 雄一はどこか醒めた顔で言いながら、膣の上部をリズムよく叩いた。
「…っ……」
 れいんは、こみ上げて来るものに堪えようとしていた。
「なんで我慢するんだよ」
 顔を耳元に寄せ、雄一は言った。
「聞いたことあるぞ。お腹の中の赤ちゃんは、お母さんの気持ちよさを一緒に感じる
って。なら、我慢しないのがこの子の為にもなるんだよ」
 そう言って、れいんの腹を優しく撫ぜる。
「は、恥ずかしいんだもん……」
 れいんは、赤面しながらも、やっとそれだけ言った。
「今まで何度もしてきたことじゃん」
「そ、そうだけど、今日は、なんていうか……いつもと、違うのっ……」
「何が?」
 雄一は、膣上部を叩くリズムをさらに速める。そして腹を撫ぜる手を胸に動かす。
「…大事な、日だと思うから……今日は、あたし達にとって大事な……」
「同感」
 そう言った刹那、雄一はれいんの右胸を掴み、左乳首に舌を這わせた。れいんの背
が弓なりに伸び上がり、この時軽く達した。
「今日は、違うよな」
 れいんはまともに返答できない。息を整えるのに必死だった。
「違うんだ」

 ――あの日。
 ただ、気紛れに拾った子。
 その子と、一つになる。
 ――家族に。

「――れいん」
 れいんの上で揺れながら、雄一は言った。
「俺、頑張るから」
「うんっ」
 れいんは既に理性の檻から抜け出し、ただ雄一が与えてくれる快楽の波にたゆたっ
ていた。
「今は、稼げないけど、仕送りでなんとかするしかないけど……あと二年後には、絶
対にお前と、その子を安心して暮らせるようにするから!」
「うんっ、雄一ぃ!」
「だから……一緒に居てくれ。もう、出てかないでくれ!」
 雄一の動きが速度を増して、れいんの中を擦る。れいんは悲鳴のような喘ぎを上げ
て、雄一の背中に強くしがみ付くようにしていた。
「好きっ、雄一! 大好きなの! だから……捨てないで……! 居なくならないで!」
 れいんは、泣きながら、心から、喘ぎ混じりの叫びを上げた。
 雄一は、それに応えようと、れいんの細い体を力一杯に抱きしめた。
「れいん、出る……」
「出して! 中に……!」
 雄一の最後のピストンが、れいんの子宮口に密着した時、生は放たれた。
「当たってる……雄一の、熱いのが……」
 雄一は、肩で息をしながら、生が出終わるのを待った。
「れいん……」
 そう呟いて、雄一はれいんの乳首に吸い付いた。
 そうしていると、雄一は、口に妙な味が広がるのを感じた。
 乳製品系統の、そんな癖のある味だ。
「…母乳?」
 この時、雄一は、本当にれいんが子の母なのだと実感した。

 この日、二人は合計で三回交わった。
 数日という時間のラグを埋めようとするかのように。
 それは激しかったが、同時に母体への労りも存在した。
 雄一は終始動きを加減し、れいんの体にダメージを与えないように心掛けていた。

「…赤ちゃん」
「ん」
「ビックリしちゃったんじゃないかなあ」
 事を終えた二人は、ベッドの中で身を寄せ合っていた。
「んなわけないと思うけど。まだ三ヵ月半くらいじゃん多分」
「そうだけどさぁ」
 ふふふ、とれいんが笑った。それに釣られ雄一も最初笑ったが、少しして真面目な
顔つきに変わっていった。
「どうしたの?」
 れいんは尋ねた。
「…子供出来たって知ってから、ずっとぼんやりと頭にはあったことなんだ。しっか
りと思いが形になったのは、三日くらい前だけど」
「?」
「俺――」
 雄一の言葉に、れいんは満面の笑顔で頷くことで答えを返した。

       

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