Neetel Inside 文芸新都
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レインドッグ
第三話 喘ぐ犬

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第三話 喘ぐ犬

 痛い。少し、痛い。
 私は、下腹部に鋭い痛みを覚え、足を引きずりながら、朝日がようやく顔を出した
海辺を歩く。
 海はいつも凄い。ここに来るだけで、意味不明のエネルギーを叩き付けられるのを
感じる。そしてそれが面白い。
 でも今日は、なんだろう、おかしな気持ちだ。
 私は立ち止まって、歩道の脇のガードレールに寄り掛かり、ただ数分はぼおっと海
を見た。
 その後考えた。
 二、三時間前のことについて。
 私は雄一と「セックス」という行為をしたみたいだ。
「セックス」
 声に出してみた。
 大人は皆するものらしい。大人じゃなくてもするらしいが、それをした瞬間に大人に
なると、どこかで聞いた。
 興味はなかった。なかったけど。
 雄一の切羽詰った顔を見たら、何故か悲しくなった。
 
 深夜、誰かが私の布団に入り込もうとしているのに気付いた。
 誰か――って雄一以外には考えられなかった。
 そして実際その通りだった。意外でも何でもなかった。
 雄一は、こう言っていた。
「ごめん……溜まってて、思わず……」
 男は大変なんだろう。私が悪いのだ。女が喘いでいる映像を見ていた雄一を邪魔した
私が。あれで欲求不満を外に出せなかったに違いなかった。
 雄一はバレてないと思っていたみたいだが、私は気付いていた。
「いいよ」
 私は言った。
「好きにしていいよ」
「え」
「一日一善、してなかったしね。それにもう日付も変わったし。だから……なんでもし
ていいよ」
 雄一が戸惑った顔をしていたので、私はパジャマのズボンと下着を脱ぎ捨てた。
 そうしたら、雄一もどこか覚悟を決めた顔つきになっていた。

 私はあの時、何故許したのだろう。
 一日一善を果たさなかったから?
 それとも――それとも、雄一にならされてもいいと思っているからなのだろうか。
 分からない。
 私はまた海を見た。考えている間にも、朝日はぐんぐん昇って来ていた。
 綺麗だな――ふと、気を抜いた瞬間。
 痛みが、大きくなった。
 私はお腹を押さえてしゃがんだ。
 痛みのする性器の中に手を入れた。
 そこは熱を発していた。
 手を出して見ると、手には赤と白の液体の混じったものが付着していた。

「雄一!」
 私は開口一番、勢いづけのためにも叫んでみた。案の定、雄一はビクっとした。
「なんで血が出るの!?」
「なんでって……その……」
「知ってるんでしょ? 言って」
「…女の子の中には処女膜というものがあって……それを破ると血が出るらしい。聞い
た話だと……」
「この白いのは?」
 聞かずともそれは知っていたが、一応聞いた。
 雄一の顔はたちまち真っ赤になった。
「…! あ……じ、時間だ。学校!」
「逃げんな!」
 そう叫んだが、雄一は無視して部屋を飛び出した。
 あ、鞄。
「おい!」
 私は窓から叫んだ。雄一は立ち止まって、恐る恐るこっちを振り向いた。
「鞄!」
 西口投手のフォームで鞄を投げた。奇跡的に鞄は雄一に直撃した。
「行ってらっしゃい!」
 それだけ言って、私は窓を閉めた。
 十二月は寒い。
 私は、まだ畳まれていない布団に寝転がった。ふと端の方を見ると、まだ新しい血が
そこに付いていた。
 とりあえず、今は休もう。午後は外に出よう。
 そして眠った。

       

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