翌日、シェルティは無残な姿で発見された。頭と胴体は切り離され、二度と戻らなかった。村雲幸彦の家族はそのことをひどく悲しみ、簡単な葬儀を行った後、警察に届けを出した。
幸彦は微塵も悲しまなかった。あの生意気な犬が死んだところで、知った事ではない。むしろ、散歩という仕事が減って助かるくらいだ。
しかし、気がつくと幸彦は部屋の壁を何度も殴っていた。手が腫れ、血が出るくらいに。腑に落ちないのだ。何故、あの犬が殺されなくてはいけなかったのか。悲しみの代わりに、怒りが彼の頭を包み込んだ。
ペットの不審な死はその後も続いた。幸彦の住む地域で3件発生した。犬、猫、犬。皆一様にシェルティと同じ姿で発見された。警察は本腰を入れ捜査を初め、全国ネットのニュースでも取り上げられた。
被害にあったペットは小屋の中で死んでいて、朝飼い主に発見された。傷口にはのこぎりで切られたような跡があった。
幸彦は近所を歩き回った。犯人を見つけるために。シェルティのことは今でも決して好きになれないが、事の始末はつけてやりたかった。
気がつくと、幸彦は川原に来ていた。シェルティと一緒に来た、あの川原だ。誰もいないだろうと思っていたが、そこには先客がいた。
「こんにちは」
そう声を掛けてきたのは、二十代半ばくらいの若い女性だった。短く切り揃えられた黒髪が、白いブラウスによく映えている。この辺りではまず見ない顔だった。
「こんにちは」
幸彦は疑いを持って挨拶を返した。不審な見た目ではないが、時期が時期だ。警戒するに越したことはない。
女性は昨日幸彦が座っていた石に腰掛けていた。そのことが、幸彦をたまらなく不安にした。
「ねえ、今日はあの可愛らしいワンちゃんを連れてないの?」
「……なんでそんなことを聞くんですか?」
予期せぬ言葉に、幸彦は身構えた。
「だって昨日ワンちゃんとここに来てたじゃない。対岸にいた私には気づかなかった?」
「あ」
帰り際に見た女性。あれがこの人だったらしい。
「私、あの犬種が大好きなの。今日も来るかなあって思って、ついこっち側に来ちゃった」
「……あいつは死にました。今流行りのペット殺しにやられました」
その言葉に、女性は表情を曇らせた。
「ごめんなさい。そうだったの」
「いえ、別に。俺はあんまり愛着がなかったので」
「その割には今日もここに来てるのね」
「……」
幸彦は何も言わなかった。
風が強く吹いた。
「あなた、犯人じゃないですよね?」