ニートノベル創刊2周年の宴
12の/いそ。
「みんなっ! 今日はみそしるパーティだ!」
バン。と大きな音を立てて扉が開く。そこには1人の男が、大量のビニール袋をぶら下げて屹立していた。それを見て、部屋の中にいた男女が騒いだ。
「マジでっ!?」
「あの伝説のみそしるパーティ……腕が鳴るじゃないっ!」
叫ぶ彼らを勝ち誇ったような顔で見つめながら、男はビニール袋から何かを取り出した。即席みそしるだ。
「さあ! みんなでこれをぶちまけるんだっ!」
「「「いやっほおおおぉぉぉいっ!」」」
叫びながら、彼らは即席みそしるの袋を引きちぎり、中に入っていたみそやかやくを辺りにぶちまけていた。
「――って、それ、みそしるじゃねぇだろおおおぉっ!」
………。
「――という夢を見た」
「はぁ?」
俺の話を聞いて、美希は脱力していた。
「どう思う?」
「……なんて言ってほしいの?」
机に頬杖をついて苦笑しながら、美希は俺に意見を仰いだ。というか、俺自身意味が分からないから、こうやって意見を求めているわけだが……。黙っていると、美希はため息をついた。
「……とにかく、意味が分からないわ。まず、みそしるじゃないわよね。それ」
「だよなぁ……」
本当に、何故このような夢を見たのだろうか。すると、美希はいきなり立ち上がって言った。
「だから、あなたには死んでもらうわ」
「え?」
俺が疑問の声を上げた瞬間、不意に体に何かが当たった。見ると、俺の腹部に包丁が突き刺さっていた。
(え? はぁ?)
腹部からジワジワと滲み出る血液。思考の整理が追いついた瞬間、とてつもないスピードで痛みが体中を蝕んだ。
「おい――っ! 美希……っ!」
俺が視線を泳がせた先、そこに美希はいなかった。
(くそ……どうすりゃいいんだよ……っ! そうだ! こういう時は素数を数えればいいんだ)
(……1、3、5、7、9、12、22、24、33、36……)
「って! これ素数じゃねええぇぇぇぇ!」
叫びながら上体を起こす。気づくと痛みは消え失せていて、代わりに柔らかい感触が俺を包み込んでいた。感触の正体。それは布団だった。
「なんだ……夢か……」
安堵してため息をつく。その瞬間。
「おぅわ」
床が崩れ、俺はベッドごと落下した。
「――えぇ……つまりこの問題は公式を使って――」
(っ!)
凄まじい寒気と同時に、俺は机から体を引き剥がした。どうやら、数学の授業の真っ最中のようだ。
(なんだ……夢かぁ……)
刹那。
ガッシャアアァァァンッ!
俺の真上にあった蛍光灯が外れた。
「――くん。翔くん!」
「んん……」
可愛らしい少女の声に誘われ、硬い感触から目を覚ます。教室の隅の机に俺はうつ伏せていたようだ。顔を上げて、俺は辺りを見回した。
「放課後?」
「違うよぉ。部活のミーティング終わりだよ」
「え? あぁ、そうか……で」
「うん?」
不思議な声を上げるクラスメイトに、俺は尋ねた。
「なんでお前はここにいるんだ。翠」
俺の声に、翠はしゅんとして顔を俯かせて呟いた。
「だって、先輩もみんな。翔くんを放って帰っちゃうし……」
「だったら、お前も帰ればよかったじゃないか?」
「だって……だって……」
かあっと耳まで赤くして、翠は小さな声で言った。
「私、翔くんのことが――」
「翠……――ん」
不意に、目の前が暗くなった。唇に柔らかな感触が伝わる。一瞬、思考が追いつかなかった。
「ん……はぁ……」
艶かしい吐息を漏らしながら、翠は俺に寄りすがった。いきなりのこと過ぎて、意味がわからない。というか、恥ずかしすぎて死にそうだった。
「ん……んんっ!」
翠の口の中に舌を這わせる。奥歯から歯齦(しぎん)まで、彼女の感触を確かめる。
「う――んむぅ……はぁ。ん、んんんっ! ……ぷはぁ」
2人とも、唾液で口周りがぐちゃぐちゃになっていた。そこで一度、彼女の唇から離す。
「翠」
「翔……くん」
互いに名を呼んで、もう一度深くキスをする。
「んちゅ、はむ……えっ!?」
俺が彼女のたわわな胸に触ろうとすると、彼女は驚きの声を上げた。構わず、俺は彼女のそれを揉みほぐした。
「うそ、翔くん……だめぇ」
「嘘つけ、こんなになって」
セーラーの上からでもわかるほどの突起物。俺はそれをやさしく撫でた。そのつど反応する彼女が面白くなって、軽くつついてみた。
「あぁっ! いやぁ……」
ただそれだけで、彼女は甘い声を漏らしていた。
「なあ? いいのか……」
「う、うん……翔くんなら……」
彼女の声を確認した後、俺は彼女の服の下を掴んで、思い切りたくし上げた。翠の下着とその大きな果実が露になった瞬間だった。やさしく彼女の乳房を撫でる。とてつもなく、柔らかかった。
「ん……翔くん。気持ちいい?」
「ああ。めっちゃいい」
嬌声を漏らす彼女の声を耳にしながら、俺は彼女に夢中になった。
(おいおい……これ、本当に現実かよ……)
「あん……」
あまりにも幸せすぎる出来事に、俺は自分の口で彼女の口を塞ぎながら、自身の腕をつねった。
(痛い……おい! これっ! 夢じゃないぞっ!)
「……――」
「やっぱり夢じゃねえぇえかああぁ!」
ベッドの中で、俺は叫んだ。
「おぅわ」
床はずれた。
「――危なーいっ!」
「……は?」
うとうとしていたベンチから見上げる。
目の前に、豪速球の野球ボールが迫っていた。
「新人! 危なあぁいっ!」
「……え?」
工事現場で立ったまま寝ていた俺の頭上。
そこには、3メートルはあるであろう鉄筋が迫っていた。
「……っは!」
机から目を覚ます。何か、とんでもなく酷い夢を見ていた気がする。どうやら、今は数学の授業らしい。俺は思わず上を見上げた。
(……まさか、蛍光灯が落ちてくるとかないだろうな……)
「おい! 柿崎!」
「へ?」
メコ……ッ!
声を上げた瞬間、教師のチョークが俺の眼球に突き刺さった。
「……はぁ」
ぼろ臭いパイプベッドから身を起こす。嫌な、それでも懐かしい夢を見てしまった。終身刑を宣告されたからだろうか……。そう思っていると、不意に物音がした。見ると、牢の外に女が立っていた。
「……誰だっ!」
「『あの方』の使いよ」
その言葉に、俺は安心してため息をついた。
「そうか……俺を出してくれるのか?」
「いいえ」
女が首を横に振った瞬間、俺のありとあらゆる汗腺から冷や汗が流れ出た。
「あの方は、あなたの判決に不満みたいなの」
カチャリと小さな音が鳴った。見ると、女の手には減音器が装着されている拳銃が握られていた。
「だから、あなたには死んでもらうわ」
拳銃から乾いた音が流れた瞬間、俺の視界はブラックアウトした。
「うわぁっ!」
「え?」
テーブルから顔を上げると、キョトンとした顔でこちらを見る翠の姿があった。
「どうしたの?」
「いや……ちょっと嫌な夢を見た」
俺の言葉に、翠は苦笑いしていた。
「あはは……そうなんだ。はい。お茶」
「お、さんきゅ」
翠が置いたお茶を勢いよく飲み干す。うむ。嫌な夢を見た時は喉を潤すのが一番だ。
「飲んだ?」
「え? ……っ!」
翠の言葉を聞いた瞬間、突如込み上げてきた衝動。コップを落とし、俺は椅子から倒れた。心臓の鼓動が早くなる。目の焦点が合わない。
「ゴホッ! ゲホッ! ……みどりぃ……何を……」
ぼやけた視界の中で、彼女は確かに笑っていた。
「翔くんがいけないんだよ……あんな女ばかりに手を出すから……」
「な――なに……を……」
「でも大丈夫――」
「――もう翔くんは、私と一緒になるんだから」
最後に見た彼女の手には、解体用の肉包丁が握られていた。
「……ん」
「どうしたの?」
爽やかな風が通り抜ける。心地よい草の香りが舞う草原の上で俺は体を起こし、彼女に言った。
「いや、なんか夢を見ていた……」
「夢?」
美希は言いながら首を傾げた。俺は彼女に応えるように続けた。
「ああ、何か。すごく長くて……すごい、嫌な夢だった」
「……そう」
暫く何かを考えていた美希だったが、不意に立ち上がって前へと駆け出していった。そして、俺の方に向き直りながら手を伸ばす。そんな彼女は、すごく様になっていた。
「だったら、最後の夢は幸せにしなくちゃね」
「……そうだな」
微笑みながら彼女の手を取り、2人で地平線の向こうへと駆け出した。
どうか、これが最後の夢でありますように――……。
おしまい。
セリフの端々にパロディあります。念のため。
あと、エロ下手でごめんよ……。
もうなにがなんだか……。後悔はしてる。
何はともあれ、ニノベ2周年おめでとう。
いそ。