Neetel Inside ニートノベル
表紙

仮面ライダーW(仮題)
彼が望むP/あの日、託されたもの ②

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 翔太郎は全てをフィリップに話すべきかどうか悩み、結局話さないまま地下室でうなだれていた。フィリップは「落ちついたら事情を話してくれ」と言い、上に戻っていた。
 すると地下室の扉が開き、亜樹子が入ってきた。
「翔太郎君、お客さんだよ」
「今は誰かと会う気分じゃねえんだ」
「なーに言ってんの。竜君と妹さんがお礼に来てるんだから」
 そう言って亜樹子は翔太郎の腕を引っ張る。翔太郎は抵抗する気力すらないのか、ずるずると引きずられるように地下室から出た。
 事務所の中では照井が壮吉にお礼の言葉を述べていた。横で妹も再び頭を下げている。
「あなたのことは色々と聞いている。一度会ってみたいと落ちついたら思っていたんです」
 そう言って照井は壮吉に話しかけていた。横ではフィリップもいっしょに話に参加して笑っている。亜樹子と照井の妹もその輪の中に入っていった。
 なんて、なんて楽しそうなんだろう。幸せそうなんだろう。翔太郎はその光景を見て、ふと思った。
「この世界は……幸せすぎるんだ」
 死んだはずの壮吉、霧彦、照井の妹が生きている。だから翔太郎は壮吉の死に責任を感じることもない。亜樹子も父親が生きていて幸せだ。照井も復讐にかられることはない。霧彦は今日もこの風都を愛し、生きて風を感じている。
 そして何よりも……
 翔太郎はフィリップを見やる。
「相棒が……相棒が生きているんだ」
 あの日、ユートピアドーパントを倒したときのことを思い出す。
 フィリップは自分の姉、園崎若菜を助けるため、自身の身体が消滅することを厭わずに最後の変身をした。そしてユートピアを倒し、若菜を救った。
 だがフィリップの身体はそれでお終いだった。一度死に、データの塊として生きていた彼は最後の変身を解き、この世からいなくなった。
 翔太郎は今でもはっきりと覚えている。最後の瞬間、変身を解除するときのやりとりを。そしてそのときの自分の感情も。全て覚えている。
 だから、この世界は幸せすぎるのだ。翔太郎は歯を食いしばって俯く。
 翔太郎は、何よりも相棒とこの街を守っていく日々がたまらなく好きだった。元の世界に戻らなきゃいけないのに、この世界に残っていたいと思ってしまう。
「翔太郎……」
 いつの間にか、会話の輪から抜けたフィリップが翔太郎に声をかけてきた。
「さっきは話してくれと言ったけど、見てられない。一体どうしたんだ」
 翔太郎はフィリップの顔を見る。純粋に翔太郎を心配している、そんな表情だ。
 話そう、相棒には全て打ち明けるんだ。翔太郎はそう決めて口を開く。
「俺は……この世界の左翔太郎じゃない」違う
「どういうことなんだい?」
「俺もよく分からない。でも元々俺がいた世界はここと違うところだったんだ」
「違うって、何が違うんだ」
「おやっさんはあの夜、俺のせいで死んだ。照井の家族は伊坂に殺された。霧彦も死んだ。そして……」
「そして?」
「フィリップ……お前も消えてしまった」
 再び翔太郎は俯いた。
「君はそういう世界で生きていた。そう言いたいのかい?」
「……ああ」
「でも、何かしらの理由で君は違う世界、この世界に来た。そういうことかな」
 フィリップは興味深いと言いたげに手を口元に持ってくる。
「なあ、俺はどうすればいいんだ」
 翔太郎は頭を抱える。
「元の世界に戻らなきゃいけないのに。ここにいたいと思ってる自分がいるんだ。ここは俺の居場所じゃないのに」
 フィリップはどんな言葉をかけていいのか分からないらしく、ただ翔太郎を見ることしかできない。
「何の話してるの?」
 そんな中、亜樹子が急に話しかけてくる。
「居場所がどうこういってるみたいだけど。翔太郎君の居場所はここじゃないの?」
 純粋にそう思っているのだろう。亜樹子は当たり前のように言う。だが、その言葉は亜樹子が思っている以上に、翔太郎の精神に強く響いた。
「左、お前の居場所はここ以外に何があるんだ」
 続いて照井も翔太郎に言葉をかける。
「お前の居場所はここだ。風都、そして鳴海探偵事務所。そうだろう」
 亜樹子はその言葉に対してしきりにうなずく。
「でもよ……俺は、俺はこの世界の……」
 翔太郎は周りの人間を見る。幸せそうな仲間たち、そして生きているかけがえのない相棒。
「うわああああああああああああああ」
 どうすればいいのか分からないまま、翔太郎は頭を抱え、そして叫んだ。
 

       

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