風都警察署前で、三人の刑事が打ち合わせをしていた。内二人はしっかりとスーツを着こなした中年男性と若い男。もう一人はスーツではなく赤い革ジャンを着ている。
「刃野刑事と真倉刑事はここから北を」
「はい」
北側を指さし、赤い革ジャンの男はスーツの二人――刃野と真倉に指示を出す。
「照井課長は?」
「俺は基本的に南側を。だが、なるべく広範囲にわたって捜査するつもりだ」
「分かりました」
「だが――」
赤い革ジャンの男――照井竜は懐から携帯電話――正しくは携帯電話型メモリガジェットであるビートルフォンのライブモードだが――を取り出すと、これを指さした。
「相手はガイアメモリを持っている。見つけたらすぐ俺に連絡しろ」
「了解です。もう一度確認したいことがあるのですが……」
刃野は手帳を開くと照井に訊く。
「今判明している相手のガイアメモリは……」
「追っている相手三人の内、中身が判明しているのはハンマーとリストレイン、この二つだ」
この風都ではガイアメモリによって変身する怪物、ドーパントによる事件が後を絶たなかった。
照井竜は超常犯罪捜査課を設立し、警察としてガイアメモリの関わる事件を担当している。また、時には左祥太郎のように仮面ライダーに変身してドーパントと直接戦い、この街を守っていた。
仮面ライダーアクセル。バイクをモチーフにした――実際バイクに変形する機能がある――加速の記憶を包容する真紅の戦士。それが彼のもう一つの姿だ。
シュラウドという女から復讐心を買われ、受け取ったこの力を最終的に復讐以外の目的で扱い、戦い続けている。
捜査を続けながら彼は考える。今回の事件は過去の事件との繋がりがあるのではないか、と。
つい最近、二匹のドーパントがただやみくもに人を襲い、周囲の物を破壊していくという事件があった。どちらも動物系のドーパントであり、本能のままに暴れているようだった。
通報を受けた照井と、鳴海探偵事務所の翔太郎が駆けつけて仮面ライダーに変身。すぐさまメモリブレイクしたことでなんとか事件を解決することができた。
だが、問題はメモリブレイクした後に発覚した。ドーパントに変身していたのは人間ではなかったのだ。
変身が解け、姿を現したのは二匹の野犬だった。二匹ともメモリブレイクされたときのダメージでぐったりと地面に倒れた。
ここで一つの疑問が浮かび上がる。誰がこの野犬にガイアメモリを挿入したのか? そして何のために?
野犬はドーパントになっても本能のまま暴れまわっているようにしか見えなかった。何か命令されているようには思えなかった、と照井は考えている。では、メモリを野犬に挿入した者は何のためにそんなことをしたのか。
ただの愉快犯なら深く考えなくてもいいのだが、その後に起きた事件のせいで、そういう考えるわけにはいかなくなっていた。
それは昨日のことだった。
仕事で外を回っているときだった。突如バイクを運転している照井の目の前に一人の男が飛び出してきたのだ。
照井は急ブレーキをかけて停止。「危ないぞ!」と男を怒鳴る。
「アンタ、仮面ライダーなんだって?」
薄汚れたジャケットを着たその男は舐めまわすように照井を見た。不快そうな表情をしながら照井はその男を睨み返す。
「そんな顔するなって。一緒に楽しもうぜ。なあ?」
男はポケットからHの文字が刻まれたガイアメモリを取り出した。そして自分の手の甲に挿入する。
『ハンマー!』
禍々しいガイアウィスパーが鳴り、男の身体が変質していく。そして全身灰色の怪人へと姿を変えた。ハンマードーパント。名前の通り両手の先がハンマーになっており、頭部の形状もハンマーを模したものになっている。
「貴様、何が目的だ」
照井もすかさずベルトを装着。そしてアクセルメモリを取り出す。
「アンタと殺し合いたいんだよ。アンタのように強い奴となぁ」
「メモリの力に溺れているな。俺がここでお前を倒してやろう」
アクセルメモリのスイッチを押す。『アクセル!』とガイアウィスパーが鳴る。
「変……身ッ!」
メモリをベルトに挿入。そしてベルトについているハンドルを回す。
『アクセル!』
照井の身体が変質。真紅の戦士へ姿を変える。
「こい」
バイクからエンジンブレードを取り出し、ハンマードーパントへと向ける。
「言われなくても分かってんだよ」
ハンマードーパントはハンマーと化した右手を振りかざし、駆けだす。重量があるのかあまり動きは早くない。
ハンマーが振り下ろされる。アクセルはすかさずエンジンブレードで受け止める。が、すぐさま左手のハンマーが襲いかかる。渾身の力で右手のハンマーを弾き飛ばし、すぐさま左手のハンマーもエンジンブレードで受け止める。
しかし予想以上の重量と力にアクセルはガードしたにも関わらず吹き飛ばされる。
「なんてパワーだ……!」
ハンマードーパントの予想外の攻撃力にアクセルは驚く。アクセル自体もパワーはある方だが、ハンマードーパントのそれは明らかにアクセル以上だった。
通常の馬力に加えハンマーの重みを生かした攻撃方法があのパワーを実現していた。
正面からでは押し切られるな。照井はエンジンメモリをエンジンブレードに挿入する。
『エンジン!』
メモリのエネルギーがエンジンブレードに行き渡る。
ハンマードーパントが接近、そしてハンマーを振りあげはじめる。
『スチーム!』
刀身から高温の蒸気が噴出され、ハンマードーパントの視界を奪う。
「くそっ、見えねえ」
少しの間、ハンマードーパントはその場にとどまり、視界が晴れるのを待とうとするが、時間がかかると察し、攻撃に移る。だが、それは空を切り大きな隙を生み出した。
ハンマードーパントの背中に衝撃。アクセルの攻撃がヒットしたのだ。前のめりになったところでアクセルの連続攻撃。とうとうハンマードーパントは地面に転がる。
だが、ハンマードーパントもすぐに起き上がって斬撃を受け止めると、持ち前の力で押し返す。
戦い慣れ……いや、喧嘩慣れしているといったところか。アクセルは敵の動きを見てそう感じ取った。この程度ならエンジンメモリの力を駆使すれば問題なく勝てる。
「そこまでだ」
突如、別の方向から声がかかった。一般人は戦闘が始まった時点で逃げだしているはずだ。
アクセルは声の方を見やる。そこには長髪の男が立っていた。
「そこまででいい。帰るぞ」
長髪の男はハンマードーパントに向けて、そう声をかける。
「おいおい、今いいとこなんだ。もうちょい戦わせろや」
不快そうにハンマードーパントは言葉を返す。
「いいや、駄目だ。帰るぞ」
「ふん、嫌だね」
「相変わらず自己中心的な男だな」
「なんとでも言いやがれ」
ハンマードーパントはそう言うと、もう一度アクセルに向き直る。
「仕方がないな。力を使う」
長髪の男はポケットからメモリを取り出すと、自らのこめかみに挿入した。
『リストレイン!』
それは全身にロープを巻き付けたような外見のドーパントだった。ハンマーに比べるとあまり強そうには見えない。
「帰るぞ、強制だ」
身体から無数のロープが飛び出し、ハンマードーパントを縛り上げる。
「おい、離しやがれ!」
ハンマードーパントは持ち前の力でもがくが、リストレインドーパントは強く縛り付けたまま彼を離そうとしない。そしてロープを縮め、ハンマードーパントを引き戻した。
「悪いが、今日はここで帰らせてもらう。また会おう」
そう言ってリストレインドーパントは遠くの電柱にロープを伸ばして絡みつくと、すぐさまそれを縮め、遠くに行く。同じようなことを繰り返し、あっという間に二体のドーパントは姿を消した。
この時点では大した被害はなかったのだが、戦闘を終えた後に行方不明者が一人出てしまった。
また、彼らは複数で行動しているし、リストレインドーパントの含みのある発言から、何か大きな目的があるのではないかと照井は推測した。
また会おうと、彼は言ったがいつ会えるのかは分からない。その前に大きな被害が出ては大変だ。
だから照井は彼らの居場所を掴もうと捜索を続ける。