「おいおい。ガキが昼間から何してんだ」
翔太郎は廃工場の入り口に立つと、中にいる少年たちに向けて言った。
「若い内から酒にタバコ。学校にも行かないでよ」
足元に転がっていたビールの缶を蹴ると、呆れながら言う。
「おい、てめえ誰だよ」
奥から一人の少年が翔太郎に近づいた。金髪で長身。体中につけたアクセサリーをジャラジャラと鳴らしながら翔太郎を睨みつける。
「俺は左翔太郎。お前らからガイアメモリを取り上げにきた」
「なんでそのことを知ってんだ。……ははん。木島と伊藤が連絡とれねえのは捕まっちまったからか。で、次は俺らってか?」
木島と伊藤は前日にクイーンとエリザベスに迫っていた少年のことだろう。
「言っとくけど、あんた無事にここから帰れないから。ここに来たことを後悔するんだな」
金髪の少年は手を上げると、後ろにいる仲間を呼ぶ。
「おいお前ら。こいつやっちゃっていいぜ。メモリも使っていい」
すると十数人の少年がメモリを持って近づいてきた。
「山内さんいいんですか。あいつ死んじゃいますよ」
「かまわねえよ。やっちまえ」
その言葉を合図に少年たちは一斉にメモリを自分の身体に挿入した。
『マスカレイド!』同じガイアウィスパーが同時に鳴り響く。
少年たちは黒と白の禍々しいマスクをした怪人に姿を変える。普通のドーパントと違い衣服は変化しない。マスカレイドは本来、ミュージアムの下級戦闘員用のメモリなのだ。
「あのメモリはミュージアムの……」
翔太郎もそれに気付き、彼らはミュージアムとなんらかの関わりがあるのだろうかと疑念が生まれる。
「おい、そのメモリはどこで手に入れた」
「あ? 今から死ぬ奴に言うことなんてねーよ」
マスカレイドドーパントたちが一斉に襲いかかる。翔太郎は戦い慣れしているため生身でもそれらをかいくぐる。
「しょうがねえ、力ずくで聞きだすとするか」
距離をとり、Wドライバーを装着。事務所にいるフィリップと意識がリンクする。
「いくぜフィリップ」
『やっぱり戦闘になったみたいだね』
『サイクロン!』『ジョーカー!』
「変身!」
フィリップが挿入したサイクロンメモリが翔太郎のWドライバーに転送される。それを奥まで押し込むと、続いてジョーカーメモリを挿入。
『サイクロン! ジョーカー!』
翔太郎の身体を中心に風が巻き起こる。そして仮面ライダーWサイクロンジョーカーフォームに姿を変えた。
「さあ、お説教の時間だ」
マスカレイドの集団に囲まれ、攻撃を仕掛けられる。だが風のように素早い動きで回避しながら着実に攻撃を加えていく。
前方の敵に連続して打撃。すると後ろから二体のマスカレイドが飛びかかる。すぐさま後ろ回し蹴りで返り撃ちに。だが今度は左右から攻撃がしかけられる。両腕でガードをすると左右の敵の腕を掴み、引き合わせてぶつける。
「くそ、数が多いと面倒くさいな」
『もっと効率よく倒せる戦法に変えるべきだね』
「そうだな。メモリチェンジだ」
サイクロンとジョーカーのメモリを引き抜く。そして代わりに赤と銀のメモリを挿入した。
『ヒート! メタル!』
右半身は熱き記憶、左半身は闘士の記憶を宿した赤と銀のW――ヒートメタルフォームに姿を変える。そして背中にはメタルの専用武器である棒術武器メタルシャフトが顕現する。Wはすぐさまそれを手に取り構えを取った。
そしてメタルシャフトのリーチを生かして広範囲に向かって薙ぐ。マスカレイドはWに触れることなく吹き飛ばされていった。
こうなればマスカレイドが全滅するのは時間の問題だった。一分もたたないうちに、Wは全てのマスカレイドドーパントを倒していた。
「さあ、次はお前だぜ」
山内と呼ばれていた少年にWは指を指す。
「まさかお前があの仮面ライダーとは思わなかったぜ。けど、こっちはまだまだいるんだよ」
気づけばまた五人の少年がWを囲んでいた。
『バイオレンス!』『トライセラトップス!』『アームズ!』『バード!』『コックローチ!』
マスカレイドのような下級のメモリとは違う、もっと大きな力を秘めたメモリを彼らは持っていた。全員が身体にメモリを挿入、変身する。
五対一。Wどう見ても不利な状況でのバトルを強いられることになった。
『いけそうかい翔太郎』
「やってみなきゃ分かんねえよ」
メタルシャフトを構える。最初にトライセラトップスドーパントが襲いかかってきた。手に持った棍巨大な棒でWに殴りかかる。
メタルシャフトで受け止めると、攻防を続ける。炎を纏わせてパワーを増強し、棍棒を弾く。そしてチャンスとばかりにトライセラトップスに攻撃を叩きこもうとするが横からコックローチドーパントの素早い一撃を食らい、体勢を崩してしまう。
さらに上空からバードが攻撃をしかけてくる。なんとかメタルシャフトで受け止めるがすぐにアームズが離れた場所から右腕を銃に変えて遠距離攻撃。Wは避けることも防御することもできずに銃弾を身体に受けてしまう。
『なかなかきついね』
「流石に五体相手にするのはきついか」
『翔太郎、今から僕の指示通りに動いてくれないか』
「勝つ方法があるんだな?」
『ああ、任せたまえよ』
「信じてるぜ相棒」
Wはメタルシャフトを大きく振り回し周りのドーパントを引き離す。そしてヒート、メタルのメモリを引き抜くと再びサイクロンジョーカーに。
そして全速力で他のドーパントの間を通り過ぎて工場の奥へと駆けていく。
「おいおい、逃げんなよ!」
五体のドーパントは一斉に追いかけてくる。アームズは再び右腕を銃に変えて構え始めた。
『翔太郎、トリガーに』
フィリップの指示でジョーカーメモリを引き抜き、トリガーメモリを挿入。サイクロントリガーに。そして振り向きざまに風の弾丸を連射。銃弾を弾くと同時に他のドーパントの足元にも当てて少しの間足止めをする。
再び走ると、二階へ続く階段を上りだす。他のドーパントもそれを追いかけて階段に。
『完璧だ翔太郎。後は分かるよね?』
「ああ、これで決まりだ」
階段の上でW足を止めて他のドーパントを見下ろしていた。
「早く行け、立ち止まってる今がチャンスだ!」
後方にいたアームズが戦闘のコックローチに指示を出す。階段はせまく、一体ずつしか上がれないのだ。
Wはサイクロンメモリを引き抜くと、代わりにヒートメモリを挿入。
『ヒート! トリガー!』
そしてトリガーメモリを射撃武器であるトリガーマグナムに差しこむ。
『トリガー! マキシマムドライブ!』
トリガーマグナムに高密度の熱エネルギーが充填されていく。
「一列になってくれて助かったぜ」
引き金を引く。
「トリガーエクスプロージョン!」
超高熱の熱光線が発射され、一列に並んでいたドーパントたちを焼きつくす。
変身が解除されガイアメモリが飛び出した。その数は三つ。奥にいた二体にはダメージが通りきらなかったのだ。
残ったのはバイオレンスとバード。二体はすぐさま階段から逃げだした。
「逃がすかよ」
トリガーメモリを引き抜きジョーカーメモリを挿入。『ヒート! ジョーカー!』そして逃げた二体のドーパントを追う。
バイオレンスを目の前に見据えたところでジョーカーメモリを右腰のマキシマムスロットへ挿入。
『ジョーカー! マキシマムドライブ!』
「ジョーカーグレネイド!」
身体がセンターラインを境に分離。両腕に炎を纏い、バイオレンスに向かって飛びかかる。そして容赦のない拳撃を連続で食らわせた。
メモリブレイク。変身は解除されガイアメモリが飛び出す。
『あと一体だ』
「分かってるぜ」
両腕の炎を推進力に高く跳躍。バードに殴りかかる。だがバードは猛スピードで飛ぶと窓を割りながら外に逃げていく。Wはそれに届くことなく再び地面に足をついた。
「あの野郎逃げやがって」
山内は叫ぶと近くにあるものを片っ端から蹴り飛ばす。
「後はお前だけだぜ」
Wはゆっくりと山内に近づく。
「あ? あいつら程度を倒したからって言い気になってんじゃねえ。俺のメモリは特別なんだよ」
とうとうリーダー格の山内がメモリを取り出す。
『ウェザー!』
「何!?」
山内はそれを自らの頭部に挿入。白を基調とした怪人、ウェザードーパントに姿を変えた。
「ウェザーだと……あんな強力なメモリまで」
『ひるんでいる暇はない。やらなきゃやられるんだ』
「ああ、分かってる」
ヒートメモリを抜き、代わりにジョーカーメモリを挿入。『サイクロン! ジョーカー!』一番適応してる基本フォームに姿を変え、強力な能力を持つ相手に構える。
「ほらよ!」
工場内で雨雲が生成され、雷が連続で落ちてくる。Wはそれを回避するのに精いっぱいでウェザーに近づくことができない。
「オラオラ! さっきまでの威勢はどうしたよ!」
ウェザーは上機嫌で雷を落とす。強力な攻撃はWを圧倒し続けていた。
「こいつで殺してやる」
雨雲が巨大なものになる。ゴロゴロと凶悪な音が工場内に響く。威力を最大まで高めた一撃を落とすつもりのようだ。
「死ねえ!」
ウェザーは腕を振り下ろす。だが雷は落ちなかった。
「ぐあぁ」
代わりにウェザーの叫び声が響く。Wは何が起きたのかとウェザーの方を見た。
無数の光弾がウェザーの身体に撃ちこまれていた。他に誰かいたのかとWは慌てて周囲を見回す。すると後ろに青を基調にしたマフラーが特徴的なドーパントが剣を持って立っていた。
「ナスカ……ドーパントだと?」
Wは予想外の存在が出現したことに驚きを隠せない。
「なんだお前は!」
ウェザーはナスカに向かって叫んだ。
「君たちが使っているメモリは我々ディガル・コーポレーションのセールスマンから奪い取ったものだろう? そんなことをされると我々も困るんだ。だから――」
ナスカは翼を顕現させると超高速でウェザーに接近。剣を振りあげた。
「君を粛清する」
剣を振り下ろす。ウェザーの身体を切り裂き、メモリブレイク。変身が解除され、ウェザーメモリが飛び出した。
ナスカは再び剣を振りあげた。生身の人間をそのまま殺すつもりのようだ。
「やめろ!」
『ルナ! ジョーカー!』
Wは右腕を伸ばしてナスカの剣を持つ腕を止めた。
「その声、霧彦だろう」
「手を離したまえ」
「俺の目の前で人を殺すんじゃねえ。もういいだろう」
「…………」
ナスカは値踏みするようにWを見た。
「確かに、この風都で血が流れるのはあまりよくないかもしれない。今日は君に免じてここで引き返すことにするよ」
ナスカはそう言うと翼を広げ、超高速で飛翔。姿を消した。
それを見てWは変身を解く。
「霧彦……」
翔太郎は、何かもやもやした気持ちのままその場に立ち尽くした。