Neetel Inside 文芸新都
表紙

2P SG "THE GOLD"
Trampled over…A

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 俗的な言い方をすると、独り言というヤツはスケベと判断されるらしい。

 だとすれば、今の俺はきっとそう見られている。

「地上数百数十メートルぅー……」

 見下ろす景色、ビル群にぽっかりと空くフリースペース・・・巨大なスクランブル交差

点の真ん中には人工芝を設けた広場があって、その周囲を頑丈なフェンスで囲まれている。

 基本的に一般開放されている。

毎日この時間になると、そこの更に真ん中にある噴水を囲むようにして様々なストリー

トアーティストが集う。基本的にぐるーっとフェンスに沿って一周しない限りは、彼等の

パフォーマンスを全部拝見する事は叶わないのだが、俺が今いるここならばそれが殆ど視

線すら動かさずに出来た。

「それはお前さんの人間離れした視力が無きゃ無理だよ、タカハシ」

 聞き飽きた声を耳が拾う。浅く長く息を吹きながら振り向く。

「遅い」

「そんなに熱心に彼等を見てればすぐに感付くさ」

 クラタが肩を竦めている。

「えーっと……現場に二時で、そう言ったのは何処のどいつでしたっけ?」

「ここのこいつ」

 クラタが頭上に掲げた拳からは親指が下方向に伸びていて、己を示していた。

 基本的に時間にルーズではない男なだけに、遅刻してきて申し訳の無さの欠片の見えな

いこの態度には余計に腹が立つ。

「まぁいい、理由くらいは聞いてやろう」

「言っても良いが、理由を聞いてからその体中に仕込んだ四十本のスローナイフを公衆の

場で投げないでくれよ」

 更にこの態度は悪質だ。かるーく頭痛を覚える俺とこの男の年齢差が優に二十を超えて

いるのだが……。

「あー聞きたくない、あーあーあー」

 俺は両耳に人差し指で栓をして、聴覚神経のデフコンをレベルワンで発令させた。

 そんな馬鹿コントを繰り広げるおっさんと少年の二人の周りには、よく晴れた梅雨の中

休みを利用して外出をしている家族連れなどはいない。観光名所のここ展望台フロアは本

日は施設整備の為に休業している。

 今月にオープンしそれ以降連日満員御礼の、地上二百二十メートルの展望台を最上階に

構える大戦後のアジア地域最大級の雑居ビルと言われている、この“アーススピアー”は

周囲を世界に名を轟かせる有名企業の自社ビルに囲まれているが、上背で言えばその周囲

とは頭二つ三つ凌いでいる。

 二階からフロア毎に一つの企業がオフィスを構えている。

戦後の復興期間中、各企業へのオフィス提供を目的に建造されたそれは、この国に潜伏し

ていた残存勢力の攻撃もあり、提供が大幅に遅れた。完成のパレードが行われたのは、

国の大部分が復興を成し遂げていた時であったが、半ば偶然に世界の一流企業がこの周辺

に次々と自社ビルを建てた事もあり、一流企業に限らず入居が許される状況となった。結

果、外資系軍需産業の下請け会社からインターネットプロバイダ、果ては八百屋までが身

を寄せる“現代のバベルの塔”と別に呼ばれるようになった。

 現在はオープンされていない最上階その下から二十階までは、高級レストラン、アミュ

ーズメントパーク、映画館等の娯楽施設が軒を連ね、ここ展望台はその一番下に位置する。

「国による審査も簡素だったお陰で、今では犯罪組織の支部もいるんだよなぁ……」

何故に俺達はシステム整備の為に営業していない、このビルの観光施設階層で待ち合わ

せしていたのかというと

「たださぁ……ビジョンが犯罪の現場が見えただけじゃ事案にならないのは分かるけど、

やっぱりどうにかした方が良いと思うよ。建前云々抜きにしても」

 クラタの所属する特殊部隊は、言ってしまえばXファイルのようなセクションで、通常

業務として当たり前にオカルトな分野が絡みそうな犯罪を追っている。だが、経費削減な

どと抜かしている上のお陰で、オカルトな能力による“予言”には一切その手を伸ばす事

が出来ていない。未然に防ぐという建前は、あってないようなものなのだ。

 その“予言”を検証する為に、公安超特殊部隊隊員としてクラタはここを訪れた。彼の

勘によると、一筋縄ではいかない事が待っているそうなので、俺も呼ばれたのだが

「あー偉くなりたいモノだ、さっさと」

 捜査という名目でのバックアップが得られない現行のシステムを呪いたくなる。本来ク

ラタが持ち得ている権限も、例え営業していない時でも世界的VIP御用達の組織が身を

寄せるここでは機密保持の為に良からぬ争いを生みかねない。というワケで俺もクラタも

(それ程苦労はしていないが)ここへは不法侵入している。

「だったら……さっさと俺みたいなヤツに協力を頼むのは卒業しなよ。オカルトな殺し屋

やっているオカルトなヤツと関わっているのもマズイし何より……」

 一度言葉を切って俺は、ふー…と溜息を吐いた。思いっきり有り触れた苦り切った顔を

して窓の外はるか向こうに臨む富士山を眺めて、そして

 キンッ

 エレベーターが到着した。

「ん……ここって誰か来るような場所なんだっけ、今日」

「いや……ご自慢の警備システムで人件費が大いに浮いているらしいけど」

「ん……?」

 二人で、背後のエレベーターを振り向く。

 ランドクルーザー一台がすっぽりはまる幅のケージの扉がスライドする。

「あ……何よりって話の続きだけどさ」

「何が言いたいかは何となく分かる」

 奥行きも大型RV車がまるまる一台収まるエレベーターのケージの、扉の向こうから姿

を現したのは

「俺達が揃って行動するとロクな事に出会わねぇ」

     

 苦虫を噛み潰すように、俺は言った。

 二人で反対の方向へ、俺は展望台側へ、クラタはその向かいにあるジュースの自動販売

機の陰へと、脱兎の如く駆け出した。

 次の瞬間、それまで俺達の立っていた場所の虚空を、未曾有の銃弾が貫いた。展望台の

防弾性能の高い窓の着弾点に、放射状に真っ白い筋が走る。

 エレベーターがから唐突に出てきたのは、SWATみたいな人達だった。加えるにすご

く好戦的だ。

「警備システムはご自慢でも装備費で人件費浮いてねーじゃねーかよ!!」

 えらく的外れな感想だったが、すぐさまに俺達が隠れた物陰へと射撃目標を変更してく

るところは経費削減の意識が極めて薄い事は言い当てているような気がした。

「いつからこの国は特殊部隊に治安維持活動を委託するようになったんだ?」

「しかもコソ泥相手にか?」

 改造によって出力を高めているのであろう銃器の咆哮が、絶え間なくフロアに響き渡る。

この展望台のすぐ下では外資系の証券会社がオフィスを構えていて、確か今日もいつも通

り社員が勤務に就いているはずだ。出入り口という出入り口を認証されていない人間は通

れないよう封鎖してあったとはいえ、この反応はかなり異常だった。

「この状態でいる!そこから回り込め!」

 俺が叫ぶと、クラタは自販機の死角を上手く利用して壁伝いに、奴等とは反対方向に駆

け出していった。俺達には阿吽の呼吸という都合の良いコンビネーションは存在せず、む

しろ逆の事が多い。大人と子供という決定的な差それ以上に隠密行動の多い公安の人間と

虐殺に近い直接戦闘タイプの俺という差が水と油程の差になっていた。それでも、クラタ

の一見俺を見殺しにしたかのような行動に黙っているのは、勝手知ったる仲へとなった過

程で気付いた又は築いた事なのだが、お互いのスタンドプレイの規範が戦闘という条件下

においてとてもよく似ているからだ。結果論なのだが、全が個として意思を共有する事が

必要な特殊部隊とは違い、一人称による楽な条件の模索が陰と陽といったような対を成し

ている二人なのである。信じ合っていると言えば聞こえは良いが、いつも結果が運良く付

いているだけの気がするので、単に『お互いの機転の瞬発力が優れている』だけだと、俺

は考えている。

 多くの人間と合間見えたのは、旧約聖書に書かれているバベルの塔建設時以来なのでは

ないだろうか大空と展望台を隔てる、一面に貼り付けられた巨大な強化ガラスは、一定の

間隔毎に、大人が三人程手を繋いで抱きつかなければ囲えない、実に頼り甲斐のあるフレ

ームが取り付けられ通路に出っ張っている。俺はその影に身を隠して、集中砲火を避けて

いる。

 現在の自分の装備や置かれている状況を見るに、絶体絶命という言葉が適切だろう。不

可解な急襲に於いては理解から希望を見出すという都合の良い行動など、幾ら冷静でいら

れるよう訓練されていても不可能に近い。常に地理的条件に戦いのパターンをトレースす

るのも、俺やクラタのような人間には必要な事のひとつなのだろうが、榴弾の一つでも身

に受ければ致命傷になりかねないこの状況の中で、数分前の状況をイメージした結果も今

とあまり変わらないようだ。厄介なのは、絶体絶命の状況に置かれた人間の希望とは、概

ね希望的観測が邪魔して本質を捉えにくい事が多々あるという事だ。

 だから、働き者の殺し屋と自称するが、あるひとつのポリシーはあった。

『こだわり過ぎるな』

 胸の前で構えたベレッタも、反射的に抜き取っただけで、状況によっては撃つ事もない。

腰から提げているロープとオシャレのつもりで身に着けているカラビナ、それだけで十分だ。

 ただそれは、この場で、俺が独りきりだったらの話だ。

 奴等はその圧倒的な戦力で、俺を粉微塵にするつもりだろう。完全封鎖しているのだか

ら当初確認しているクラタが目に届かなくても気にしていないようだ。足音、銃撃の間隔

こちらに伝わる要素が、油断を伝えている。どうやら、十分に封鎖しているこのフロアに

侵入したのだから自分達が派遣されたという意味が良く分かっていないようだ。これも希

望的観測かというと、これはカタギとは一線を画す俺の経験上の勘だった。脳内にいる虫

が囁く、そういう表現でも良いだろう。

 そういう、鍛えられた第六感というべきモノは、なかなか頼りになる。

 一緒にいた男がいませんよ、そんな事を一人が囁いた。位置的には、自販機の裏に隠れ

た人間が見えるような距離まで足を及ばせたようだ。

「俺の事を探しているのかい?」

 何処からか声が聞こえてきた。クラタだ。

 奴等が銃を構えなおして振り返る(当然、俺の監視を担当する一人はいるのだが)。声の

聞こえ方からして、クラタが近くにいる事は容易に分かったが、奴等はその主の姿を発見

出来ていないようだ、キョロキョロと辺りを見回し始めたのを気配で感じ取れた。

     

 バキッ…バキンッ

 ガコンッ

 大袈裟な警備部隊が通り過ぎた通路の真上には換気用のダクトがあった。ダクトを塞

ぐ蓋が、まるで叩き落されたかのように床に落ちて、泣き叫ぶような音が響き渡った。

 大袈裟な警備部隊が、均衡を破るひどく美的ではないシシオドシの聞こえた方へと振り

返ると、天井に空いた穴から頭を下に、クラタが姿を現していた。その両の手には、大袈

裟な特殊部隊の頭部にぴったりと照準を合わせたオートマチック型の拳銃が二丁握られて

いた。

「少し古典的過ぎたけど……結果オーライ」

 殆ど一発分しか聞えなかった拳銃の咆哮が展望台に響くと、前線にいた大袈裟な警備隊

二人が踊り狂ったかのようにばたっと床に倒れ臥した。

「クゥッ」

 大袈裟な警備隊の銃が一斉にクラタに向けられ、集中砲火される。しかし、その時には

既にクラタはダクト穴へと身を潜め、放たれた銃弾は目標よりはるか後方の天井を穿った。

「このっ……」

 急襲に怯んだ大袈裟な警備員が独り、焦燥に駆られたような表情でソードオフの照準を

タカハシに、とり急いで合わせた。が、殺意を向けられた的のタカハシはというと、警備

隊に背を向け、あさっての方向……本当に明後日の来る山の方を向いていた。

 恐ろしく修羅場をその身で表現出来ていない、はるか遠くの緑映える山々を眺める一般

客と化しているように見えるタカハシの右拳の拳頭部が、ひんやりとした高強度ガラスに

ぴたりとくっつけられている。

 タカハシの予想外の行動に訝しい表情で固まった大袈裟な警備員であったが、すぐさま

ソードオフを構えなおし、銃口をタカハシに向けた。余程に手元が狂わない限りは目標を

外す事はないだろう。

 カチャッ、という金属の触れ合う音がした。この間、わずか一秒を満たしていない。

 タカハシの、それまでは若干緩んでいた目付きが、鋭く絞り込まれる。

(理解……)

 クラタが更にもう一人に銃弾を見舞う。その警備員は、急所への被弾は逃れたが、全身

を貫く痺れに襲われ、両膝を突いてうずくまっている。

(同調……)

 薬莢が床に散らばる音。

 タカハシの全身の筋肉が、すぅっと萎む。

 次の瞬間には筋肉は一気にパンプアップし、そして

(開放っ!!)

 世界一巨大な高強度ガラスの一枚板が、瞬時に粉々に砕け散った。

 猛烈な風が展望台フロア全体で入り乱れる。気圧差に加えて、午後より崩れる見通しと報

道された空模様の仕業であった。

 自然の驚異に不意打ちをされたとあれば、人間というものはかくも無力だ。予めの覚悟

があるからこそ、人は地震や台風でも生き残れる者が出てくるのだ。それがどういうもの

なのかという認識とも言い換える事が可能だろう。

 自分達を襲う暴風と無数のガラス片に襲われた大袈裟な警備隊が前後不覚に陥るのは、

タカハシとクラタの二人にとっては、ほんの数瞬で構わなかった。

 二人で一気に間合いを詰める。

 ゴッ

 防護服に全身を包まれているはずの警備員の体が、タカハシの中段突きにくの字に曲が

り、一瞬にして意識を飛ばされてしまった。

「く、このっ!」

 警備員の一人が、機関銃をとにかく乱射しようとトリガーに指をかけた。引こうとした。

 ガッ

 その警備員の首が、クラタの手刀に薙ぎ払われた。叩きつけられるように前へと倒れる。

(あと一人―――)

 一気に二つの殺意を向けられたのに気付いたのだろう。仲間が次々と床に臥していく中

で最後に残った警備員が、狂ったような声を上げながら目を瞑ってAK47を構えた。

 タカハシが窄めた口から細かい息を漏らしながら、左腕を畳んで脇腹に沿えた。そして

 ガシャァ

 トリガーに掛けた指を引く事なく、大袈裟な警備員はタカハシの左の上段突きを顔面に

喰らうと、展望台の内壁を突き破って派手に吹っ飛んでいった。その壁の向こう側、中華

レストランの木目調の床を、バウンドするように更に転がり、そして段差に止めてもらった。

「ふぅ………」

 手首を右手で覆いながら、タカハシはゆっくりと拳を脇腹に戻した。

「あ、相変わらず化物だな」

 元々、吹き抜けのフロアだった所に簡易的に取り付けた壁であったから、そういった事

などはまるで関係ない。純粋にタカハシの打撃力が人間離れしていた。

 力の発生した、タカハシの左足に踏みつけられていた床は黒く汚れ、ねっとりと変質し

たゴムのようなモノが黒く汚れた部分に付着していた。タカハシの履いていたナイキ・エ

アフォース・ワンの靴底である。

(いや………左ストレートと呼べるのか、これは?)

 クラタがかぶりを振りながら、心の中で溜息を吐いた。

(一般的に速いと言われているストレートでも時速三十キロ強ってトコロだが……今のタ

カハシのパンチは明らかに二百五十分の一秒のシャッターで実像を捉えられるのか………

あれは突きって言える型でもないぞ)

 タカハシのとんでもない破壊力のパンチは、味方であるクラタを戦慄させている。

「ふぅ……とりあえずは落ち着いたか」

 肩を落としながら、辺りを見回してタカハシがそう言った。

 間合いの差があるとは言え、空手とボクシングの間に存在するこれ程の差は、決して二

つ格闘技の優劣の差ではない。比較して間合いの長いボクシングでは、間合いは一メート

ルに色が着く程度であるが、顔面から腕一本分と少しの距離においては時速三十キロとい

う速度でさえ、人間の反射神経を凌駕する。それを回避する技術こそが空手と違いボクシ

ングが古代ローマの時代から競技として成立している証明である。

「………ぃ、おい!!」

 考え込んでしまったクラタを、タカハシが語気を強めて呼びかけた。タカハシはマグロ

のように横たわる警備員達を、手際良く拘束していた。ロープの類を持ち合わせていなか

ったので、彼等の装備していたガンベスト、ベルト、長尺の銃器を利用していた。

「突っ立ってねぇで手伝え、さっさと読んでくれ」

「あ、あぁ…すまないな」

(考えるのは後だな……今は非常事態だ)

 かぶりを振って、クラタが左手を大袈裟な警備員の一人の頭にかざした。

     

「……………」

「どうだ?」

 警備員の額を包み込むように手の平で覆ったクラタの顔を、タカハシが膝に手を当てた

中腰で覗き込んだ。

 タカハシによって粉砕された窓からは、今も猛烈な風が吹き込んでいる。

「驚いたな………こいつ等民間の特殊部隊だ」

「はぁ?ちょっと待てよ」

「しかも、ここにはただ配置されているだけで、機密に関する情報がまるでねぇよ。大体

自分達の上……ルーツ・オブ・トレバリー……?」

 だらしなく顎を落としながら、タカハシが表情を歪めた。

「おいおい、おかしくないか?ここは国が管理している施設だろ?確かにテナント企業を

募集しているのは知っているけど、民間の警備会社ならともかく何で単なる食品メーカーが?」

「……………ん?」

「どうした?」

「こいつ等……ここでの出動は始めてじゃないぜ……この展望台が作られる前にこのフロ

アで何度かドンパチやってる」

「迷い込むような場所でもないだろ?」

「かなりの戦力だな………無意識領域の中に敵が変装した状態で忍び込んできた情報があ

る。十人前後が結構な武装してやがる」

「何処の?」

「ヤクザ………とかでもねぇな、動きがプロだ」

 そう言って、クラタは手を離し首を振った。

「とにかく……何かが隠されているって事は確かだな。早く先に進んだ方が良い」

 タカハシがそう言うと、二人は足下で眠りこける警備員達から装備品を剥ぎ取っていっ

た。機関銃の動作を確認し、予備のマガジンを奪い取ったガンベストに差し込み

「別に……お前が付き合わなくてもいいんじゃねぇかぁ?」

 ガンベストの前をジップアップしたクラタが、そう訊ねた。

「今逃したら何もかもが闇だぜ、叩くなら今だろ。こんなお上の悪戯がプンプンと臭うよ

うな事件、警察でもない俺が暗躍出来るってんだから、やってやろうじゃねぇかって思う」

 じゃき、と音を立ててM92Fをいじくりながらタカハシが無感動に答えると、クラタが

溜息を吐いて

「目的を見失うなよ……」

 相手に決して聞こえないように、そう呟いた。

「雨が降る………行こう」

 タカハシの粉砕した窓から吹き込む風が温い、唇周りでタカハシがそれを感じ取った。

       

表紙

ウド(獅子頭) 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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Neetsha