Neetel Inside ニートノベル
表紙

不可拘束少女アルスマグナ
参、俺と日常と使命感

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 俺はうまく把握できない状況に対して腹筋を敢行していたが、シルフィアに向けて言い放った。
「はっきり言おう。言っている意味が良く分からない。第一奴らの目的は世界をブスだらけにするんじゃなかったのか?」
「それがちょーっと違うんだな」
 シルフィアは指で髪をくるくるいじりながら言う。
「奴らのボス、豚田下衆子は非常に狡猾な人物だ。確かに奴は当初『ブ光』によって世界中をブサイクだらけにしようと画策していたが、どうやら気付いたらしいのだ。アルスの力を使った方が、効率よく世界を制圧できると?」
「…………?? ごめん、俺偏差値39だからわかんない」
「つまりだな、奴は世界中をブサイクにするよりも、世界中を天然美少女にしたほうがいいと気付いたんだよ」
「確かにそれは主に俺が多大なる得をするかもしれないが、奴らに何のメリットが?」
「よく考えろ。世界中の人間が“天然”美少女になるんだ。一般人だけでなく、大臣も、首相も、天皇も。さらには大統領や国家主席といった人物も」
「!! ってことは…………」
「世界の崩壊、ってことも十分考えられるな」
 シルフィアは懐から取り出したタバコに火をつけ、ふうっと紫煙を吐いた。
「ただの美少女ならいいんだが、アルスの場合は『天然』が伴うからな。一刻も早く阻止せにゃならないんだ」
「だ、だけどよ」
 俺は脳裏に浮かんだ疑念をぶつける。
「もし仮にアルスちゃんを助けられたとしても、それから俺はどうすればいいんだ? まさか、アルスちゃんを守りながら未来永劫、末世まで《B.G.E.C》と戦い続けなくちゃいけないのか?」
「そうは言ってないだろう、この早漏野郎」
 おでこにタバコを押し付けられ……熱っち! 熱! ふざけんな! 能力を発動してるときならいいものの今はただの純真な男の子だぞ! タバコを押し付けるなんてどこの海賊漫画だよ!
 俺はひりひりと熱を持った額を押さえながらシルフィアを睨む。どうやら火傷とまではいってないみたいだ。くっそ、イツカコイツコロス。

「お前が戦うのは、後一回限りで構わない」

 ………………
 …………………………へ? 今、なんて?
「お前に戦う意志がないのならそれでよし。私たちはまた次の『適合者』を探すだけだ。なあに、別段難しいことじゃない。『適合者』なんてそこら辺にごろごろいる。また月夜叉にとっ捕まえさせて戦わせるだけだ。私たちはそんなことを何回も繰り返してきた」
 タバコを灰皿にぐりぐりと押し付けて、シルフィアは火を消した。
「お前が戦わないというならば、即刻ここを出て行け。お前にはもう用はない」
「ッ…………!」
 な、何言ってやがるんだこいつは。戦う意志がないなら出て行けだと? お前らが俺に話を持ちかけたくせに、くそ、自分たちの物差しで人を計りやがって……そんなの、望むところだ!
「は、ハンッ! 分かったよ出て行ってやるよ! 第一ブサイクだの美少女だのくだらねえと思ってたんだ! むしろこっちから願い下げだぜ!」
 俺は2のつくちゃんねるにある悪質な書き込みを批判するときのように饒舌に啖呵を切って、返事も聞かずに部屋から外に出て行った。
 もうアルスちゃんと会えないとなると悲しみが込み上げて来るが、今はそんなことで葛藤している場合じゃない。これは俺の人生だ。他人のレールの上で生きてられっかよ!
 家を出るとそこはあの時見た森だった。目の前の少し先――――五十メートルほどの所には、まばゆい光が射していた。
「あそこから、出られるかな」
 俺は振り返らずに森の中を歩くと、光のベールに包まれるがままにその場を後にした。


「……………………やはり、このパターンか。嫌になるな」
 シルフィアは誰もいなくなった椅子の上に腰掛けて、独り言ちた。
「強制に近いからしょうがないが……この国の『OTAKU』パワーって言うのは、まやかしだったとでも言うのか? あまりにも『適合者』が少なすぎる」
 はぁーっ、と重いため息をついた。
 それもそのはず。あの時は『適合者』はごろごろいるといったが、シルフィア。彼女の知る限りでは、彼、上坂幸人以外の『適合者』は来日して三ヶ月たった今でも見つかっていなかったのだ。
 来日して初めて見つけたのが、彼。それ以外には誰もいない。『適合者』の確率が三千万人に一人ということを知っていながら、シルフィアはその現実に打ちのめされていた。
「私たちだけで何とかする以外に、道はどこにもないのか…………」
 シルフィアが諦めの述懐を垂れていた、その時。

「話は大体聞かせてもらったぞ」
「…………!」
 シルフィアがとっさに背後を振り向くと、そこには誰もいなかった。もしや、と思って天井を見上げると、案の定天井板に星型の何か、というか星が貼りついていた。
「月夜叉、あんた……」
「やはり彼奴の趣向には合わなかったようじゃな。仕方あるまい、これも運命じゃ。」
 月夜叉は毎度おなじみの煙幕を被りながら、赤髪美少女モードへと切り替えた。
「アルスは今、どこにいるんだ?」
「奥で寝かせておこうと思ったんじゃがな。わし一人ではどうにもならんかった」
 首を横に振りながら、否定気味に言う。
「行方不明状態じゃ。一刻も早く見つけねば、奴らに利用されかねん」
「だったら、早く探しに行かなければ」

「お取り込み中のところ悪いんだけど」

「「………………!!」」
 玄関扉の方から聞こえた“濁声”に、二人は瞬時に反応した。
 が――――僅かに遅かった。
「うぐっ……!」
「ぬおっ! し、シルフィア!」
 一阿吽の間に、逞しい巨躯をお持ちの女がシルフィアの首を掴み、そのまま床に押さえつけていた。

       

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